January . 2020

令和に元号が変わって、最初の年を迎えた。昨年は台風災害が相次ぎ、国土にも、人々の心にも深くて大きな傷痕を残した。しかし、大手企業の冬のボーナスは、平均96万4,543円で、前年比1.49%増となり、中でも建設業は172万3,818円と、他業種に大きく差をつけたのは注目すべき好材料と言える。

 公表のあったゼネコン3社に限定されたデータではあるが、前年度からの伸び率は1.81%である。建設業に続くのは、自動車産業で102万3,057円、前年比2.31%増。次いで造船が92万3円で、前年比4.09%増という結果となった。

 つまり大量の鉄鋼資材を消費する製造業が、トップ3を占めたことになる。自動車産業の強さは、それ自体が伝統的に日本の基幹産業のシンボルとなっているが、耳目を集めるのは、かつて公共事業批判の煽りで、小泉政権から民主政権までの間に潰滅的打撃を受けた建設業と、産業構造の転換により、構造不況業種とまで言われた造船業の復活である。

 背景にあるのは何か。建設需要の伸張の原因は、昨年に立て続けに起きた台風災害にともなう復旧・復興需要は確かに大きいだろう。しかし、これは決して特需ではない。そもそも治水整備や砂防対策が不十分だったことの裏返しである。

 我々国民は、未曾有の災害を経験したことで、国土の脆弱性のゆえに、災害時にはいかに危険であるかを思い知らされた。したがって、単に被災地を復旧・復興させただけでは安心できず、またも自然の暴威を前にしたとき、今度はどこで同じ悲劇が起こるのか分からない不安を抱える事態となっている。

 こうした事情を受けて、政府は2019年度補正予算においては総額1兆2,634億円を計上し、うち台風15号、19号の災害復旧のほか、今後の防災・減災といった国土強靱化に向けて、総額1兆1,252億円が配分された。

 一方、造船業の伸張の背景として看過できないのは、観光需要の増加だろう。安倍政権が公約した訪日外国人目標は、2020年に4,000万人、2030年は6,000万人だが、日本政府観光局(JNTO)の発表によれば、2018年の出国日本人数1,895万人に対し、訪日外国人の旅行者数は3,119万人と、およそ2倍にも上った。このペースの早さを見れば、よほどの天変地異や世界経済における極端な景気変動がない限りは、2030年の目標6,000万人すらも目標年以前に達成しそうな勢いである。

 こうした観光需要が拡大すれば、当然ながら船舶、旅客機、鉄道車両などの交通機関と、それを受け容れる港湾、空港、鉄路の整備は進むだろう。のみならず、それらの港や空港、ターミナル駅などを拠点とした地域開発も活発に行われるだろう。さらに港や空港、ターミナル駅に降り立った観光客らが、ただ到着しただけで満足するはずはなく、そこから観光バス、タクシー、レンタカーなどを利用して、各地へ移動するだろう。そのためには道路網整備が不可欠となる。

 そのため、政府は道路整備に859億円を計上したほか、鉄道・道路の損傷防止対策などにも308億円を計上した。さらには財政投融資5,500億円を活用し、新名神高速道路の6車線化にも着手する方針である。

 奇しくも12月11日には、2012年に発生した中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故による犠牲者遺族が、事故現場で花を手向け追悼を行った。2013年2月以来のことである。ただでさえ事故はあってはならないことだが、この事故の犠牲者に限らず、せっかく日本を訪問してくれた外国人が、インフラ整備の手落ちで犠牲となったのでは、国際社会の恥であり、信用問題でもあり、そして「ものつくり大国」、「技術大国」を誇る日本の名折れでもある。

 こうした国内外の事情を背景に、日本はまだまだ建設事業を行わなければならない。そして、それを請けて施工する建設産業には、休んでいる暇はない。そう考えれば、172万3,818円のボーナスなど、まだまだ低いと言うべきかも知れない。




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