DECEMBER . 2016

11月の米大統領選は、大勢の予想を覆して政治経験のない企業人のドナルド・トランプ氏が、本命視されていたヒラリー・クリントン氏を敗って当選した。移民排除、TPP放棄、米軍縮小再編などを掲げ、過激な発言で物議を醸し、当選後も反トランプデモが起こるなど米社会のアレルギー反応も見られたが、一方でそれを支持した米国民の閉塞感と、ナショナリズム回帰への民意も伺われて興味深い。反面、そうしたエキセントリックな人物の出現により、同盟国である我が国への今後の影響にも関心が高まっている。

 ある評論家は、近年の世界情勢は第二次大戦直前の状況に似ていると評した。確かに、フィリピン・ドゥテルテ大統領のように「オバマはくたばれ」と、露骨に敵意を表明したり、親日罪を制定している韓国のように、大統領が世界中で告げ口外交を展開したり、尖閣諸島奪取のためにロシアへ共闘を持ちかける中国など、国益のためには外交儀礼も何のその、なりふりかまわず特定国への敵視政策を公然と行う事例が見られ、まさに巧言令色の外交儀礼を優先したインターナショナリズムの終焉と、本音むき出しのナショナリズムの台頭を感じさせる今日の情勢は、国益を掲げて各国が衝突し合った大戦前と酷似している。

 安倍首相は、間髪入れずに一番乗りでトランプ氏と会談したが、TPPを国会決議しながらもハシゴを外された上に、トランプ氏は駐留米軍への負担増を要求する反面、世界の警察としての役割放棄を宣言していることから、我が国はかねてからG2体制を狙って策動してきた中国の脅威が、一段と高まることが予想される。

 だが、そうした状況について、一方では前向きに歓迎する見解もある。国益最優先のナショナリストであるトランプ氏の台頭は、我が国の国防的自立を促すとともに、TPPのイニシャチヴを掌握することで、環太平洋のリーダー国として台頭するためのチャンスという解釈である。

 確かに、外交・政治経験とその手腕はなくとも、企業人としての経営手腕を持つトランプ氏は、国家運営も企業経営の感覚で臨むことが考えられる。外交儀礼のための痩せ我慢よりも、国益を最優先した計算高くドライな経営者感覚で、我が国を含む世界と向き合うことが予想される。そのため、今後の通商交渉においては、各国ともハードな要求を突きつけられ、タフニゴシェーションを強いられることになるだろう。

 したがって、我が国の外交も従来のように愛想笑いを浮かべてODAをバラ撒き、悶着が起きれば援助金で円満解決を図るばかりの弱腰な外交姿勢を改め、主権国として是々非々を明確にした自立的外交と体制づくりが必要になるだろう。そして、それは政府ばかりでなく、国民もその覚悟と気構えを持つことが求められるだろう。





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