DECEMBER . 2015

路地裏問答 建造物の基礎工事である杭打ちのデータ改竄問題が、広がりを見せ始めている。旭化成建材に続いてジャパンパイル社による偽装も発覚し、18件もの杭打ちデータに流用が行われていたことが、国交省に報告された。

 これは同社が、過去5年間に施工した工事約1万件について調査した結果で、調査の進捗によってはさら増える可能性もある。すでに発覚した旭化成建材では、データ流用・改竄は266件に及び、50人が関与したことが判明している。当初は民営マンションが発端だったが、後の調査では国、自治体の公共建築にまで及んでいたことが発覚し、衝撃が広まった。

 2005年にマンションの構造計算書偽造問題が発覚した姉葉事件で、渦中の人となったマンションデベロップ会社「ヒューザー」の小嶋元社長は、今回の事件について「発注者が現場に無理を強いて過重な負担をかけた結果という、業界の構造的な問題ではなく、あくまで現場を担当する現場代理人の個人的な問題」と指摘していたが、ここまで広範囲に拡大すれば、もはや個人の職業モラルの問題では納まらない話で、工事発注者としての言い逃れとしか思えない。

 構造改革で公共投資を激減させた小泉政権以降、「コンクリートから人へ」のスローガンで、建設産業を壊滅状態に追いやった民主政権までのおよそ7年間にわたって、建設業は建設単価の値崩れに歯止めがかからない状態で、生き残りをかけたダンピング合戦の泥仕合の中に置かれた。施工に手抜きがない方が、むしろ不思議なほどに経済原則から大きく逸れた軌道を歩まされたのである。

 政府も自治体も公益法人も、「安ければ良い」とばかりに、実勢価格を無視した工事単価の積算で、受注・施工する建設業者はそれでも甘んじる以外にはなかった。当時の姉葉事件も、今回の杭打ちの手抜き施工も、そうした時期に受注・施工された工事であることを考えれば、当然の結果であり、経済原則を無視した発注者側としては自業自得の報いであると考えるしかないだろう。姉葉事件の衝撃から、政府は品確法の制定で対応したが、それでもこうした事態が発覚したのは、基準や罰則の強化で対処できるほど単純な問題ではなかったということではないか。

 幸いにしてアベノミクスでは、適正利潤をもたらす適正価格での積算・発注を、政府が率先垂範するとともに全国自治体、公益法人にも呼びかけ、不当ダンピングは是正されているので、それ以降はこうした事例はないものと信じたいが、反面、構造改革から民主政権までの7年間については伏魔殿である。基礎工事の手抜きは、さらに他社の工事にまで及んでいる可能性があり、問題はより広範に及ぶことも予測される。建設工事を発注する者は、官民ともに挙国体制の姿勢で、過去7年間のドブ浚いが必要だろう。地震大国の我が国にとって、耐震性能は何よりも重要なポイントであり、死活問題に関わる。徹底調査による泥沼の浚渫が必要だ。そして、施工者の施工責任の追及はやむなしではあるが、そこへ追い込んだことへの強烈な自省も必要だ。




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