JULY.2012

6月に自民党国土強靱化総合調査会(二階俊博会長)が、国土強靱化法案をまとめて国会に提案した。200兆円の財源を以て、緊急避難路などの整備を10年間で進めるもので、これによって従来の誤った偏見に基づきタブー視されてきた公共投資が、復権に向かい始めたと言えそうだ。

 2012年度政府建設投資は17兆7,900億円。国家予算の使途をコンクリートから人に移し、福祉政策で内需拡大、歳入増加を狙った結果だが、その成果といえば、むしろ逆となった。ミクロ経済政策によるマネーフローを生み出そうとした政府は、財源に行き詰まり、むしろ増税という逆のマネーフローを作り出すしかない矛盾に追い込まれている。

 さらには震災・原発事故の洗礼を受け、景気対策どころか、そのための基盤となるエネルギー危機までも迎えた。そうした弱り目に祟り目で、周辺諸国は領土・領海侵犯の圧力を強め、ユーロ危機が懸念される中で、世界の投資家は円買いに走り、日本の国富を支える輸出産業に打撃を与えている。

 日本はまさに内憂外患状態で、国政を実務で支える官僚の知識・経験なくしては、到底乗り切れない難問ばかりである。与党経験の無い閣僚ばかりが寄り集まった現内閣が、いくら背伸びや痩せ我慢をしたところで、解決は覚つくまい。税と福祉の一体改革すら、難産の苦しみに喘ぐ政情を見れば、その執行力も限界であるのは明らかだ。

 しかし、この政権による3年間の国政を通じて、国民は重要なことを理解しただろう。つまり景況回復に必要な政策は、ミクロではなくマクロ経済政策であることを自覚したものと思われる。東北の復興は、いかに公共事業に偏見を抱く一部国民や大衆マスコミ、大衆迎合学者といえども、人道的な見地ではそれを否定・批判することはできまい。そうした妨害がない中で、東北三県は休日返上の勢いで工事契約と施工が進められ、そして特需が発生しているのは現実だ。そこに南海トラフの動向にともなう関東・中部一円の震災不安が高まったことで、ようやく本来の公共事業が復権に向かい始めたのは、日本経済にとってはむしろ吉兆と言える。

 財源は赤字国債となる見込みで、そこに財政破綻の危惧を叫ぶ声もあるだろうが、そもそも日本国内の金融機関に死蔵する遊休資金の総額は、1,400兆円と試算されている。不況のために、いくら日銀がゼロ金利政策を堅持したところで、資金需要は発生しないため、投資先は国債に向かうしかない。そのお陰で、ギリシャ国債と異なり、9割が国内保有であるため、いかに米格付け会社が評価を下げたところで、ビクともしないほどの盤石な信用基盤となっている。その資金は、さらに我が国の国債だけでなく、ミャンマー国債や中国国債にまで手を伸ばしている状況にある。それほど余っているならば、むしろ国内に投資すべきと考えるのが、自然な発想ではないか。

 我が国は、小泉-竹中コンビによる政治的邪心と、福祉大国を目指した民主政権によって、災害多発国家でありながらも国土整備を通じた景気対策を放棄してきたが、そろそろ支線を走る冒険をやめて、本来あるべき経済政策の幹線に軌道修正すべきだろう。




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