AUGUST.2013

とにかく弱腰外交と批判されてきた日本の外交が大きく変わりつつある。尖閣諸島の横奪を目論む中国と、竹島を占領し、それを正当化する韓国など、近隣国による領土侵犯に対し、安倍首相は決して屈しないことを宣言した。そうした折り、かつて韓国人を強制徴用したとして提訴されていた新日鉄住金に対し、韓国高等法院は賠償判決を下し、資産差し押さえ命令を下した。この判例は、今後に大きく尾を引くものと予想される。日本企業のアジア戦略を見直すべき時が来ているのではないだろうか。

 新日鉄住金は直ちに韓国最高裁へ上告したが、勝訴の見込みについては未知数である。一方、提訴した元従業員は「まさか勝訴できるとは思わなかった」と喜びを述べていた。つまりダメ元で、勝訴できれば儲けものの提訴だったと言える。

 こうした事例は悪しき前例となり、今後はあらゆる業界に対して訴訟事例が増えていくことが予想される。工場であれば、「日本の上司がパワハラ、セクハラをした」、飲食店であれば「注文した料理が遅い、不味い」、物販店であれば「店員の接客態度が気に入らない」と、騒ぎ出す情景が至る所で見られるだろう。

 こうなると、現地に店を構えた進出企業は、資産も身分も保証の限りではない。これは、かつての中国漁船による海保巡視船衝突事件の折、中国側の報復として、西松建設中国支社の社員が不当勾留された事例でも見られた通りである。

 したがって、今後は歴史問題に限らず、全ての在朝の日本企業や店舗が、あらゆる理由によって訴訟のターゲットになるだろう。それでも店を構えるからには、そうしたリスクを覚悟するしかない。

 日本政府としては、この判決に対して即座に異議を表明した。しかし、政府同士が公式に喧嘩を始めるわけにはいくまい。そうした事情を考えれば、今件については上告して時間を稼ぎつつ資産をいち早く売却処分し、速やかに撤収した方が得策ではないだろうか。

 アジアリスクなどと呼ばれるが、各国の企業、投資家がそうした中韓に特有の思いがけぬ損失を回避するため、取り引き停止や出資引き上げの方向に向かっている。日本企業もリスク回避を望むならば、むしろその後背圏に広がるさらなる大市場に目を向けた方が良いだろう。

 本来ならば、空洞化の進んだ日本国への回帰を望みたいところだが、せめて今後は企業の対外戦略も、政府外交の基本である「自由と繁栄の弧」に倣うべきであり、また現実問題として、政府レベルで良好な関係にある友好国に比重を置いた方が、リスクは低くセキュリティも遙かに高いはずである。




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