June.2010


 沖縄普天間基地の移設問題は、散々に迷走を重ねた挙げ句に、結局前政権であった自民党案に回帰することとなりそうだ。せめて民主色を残そうと桟橋方式を提言したものの、爆撃に弱いとして米軍から一蹴されるなど、鳩山政権の奮闘は足跡も残さぬ結果に終わりそうだ。
 ただ、後に残ったのは移転候補地となった沖縄・徳之島住民による米軍基地に対する新たな反感と、日本の国防のあり方への問題提起だったといえよう。
 敗戦後の日米安保条約により、日本の軍事力は米軍の6割、英軍の7割に抑制され、一時期は軍事力としてカウントされない潜水艦の増強によって、こっそり不足分を補強しようとした時期もあったが、これも規制されることとなり、それ以降は自衛力の範囲に抑制してきた。その分、日本は工業化への重点投資に専念できたお陰で、東南アジア諸国がお手本にするほどの復興と経済成長を果たしたとも言える。
 一方、自衛については、実戦経験がないことから、自衛隊の実力が疑問視される声がある反面、国防費だけを見ても世界2位にあり、隊員の使命感は高く、訓練も十分とする評価もある。
 だが、イラン・北朝鮮のように、実質的な核保有国が近隣に出現する一方で、財政・国際収支の赤字を抱える米軍が軍備費削減のために、日本を含む同盟各国から駐留部隊を引き上げ、再編に向かう情勢にある。そのため、日本の軍事的自立に向けて独自の核軍備の必要性も論議されている。小泉政権が郵政事業解体によって、国民の貯金を米金融・生保・証券業界に媚びるようにして市場開放したのは、米軍から自立した場合に生じる軍備費負担の増加が、経済投資を目減りさせることへの抵抗の現れと目されている。
 こうした情勢を踏まえた場合、重要な論点となるのは、単なる平和主義のお題目を捉え直すことよりも、まずは独立国としての条件整備が整っているかどうかだろう。国家の主権を守る上では、少なくとも資源・エネルギー、国防、食糧の自給体制が不可欠だが、日本はその条件を満たしていると言えるだろうか。視点とデータ分析の仕方によって諸説はあろうが、現実にはいずれも自給できずに他国に依存している実態は否定できない。
 そのため良好な国交と交易が不可欠だが、有り余る中国需要の他、インド、ロシア、ブラジルなどの後進国が台頭してきた場合に、日本が物資不足に陥る懸念は果たして皆無だろうか。中国は内陸部に飢えた大多数の国民を抱えていることもあって、尖閣諸島はおろか太平洋進出の機を窺っており、そのために沖縄南方に海軍を展開するだけでなく、日本の山間部にまで水資源を求めている。
 そうした不穏な動勢も見られる状況で、仮に沖縄から米軍を排除もしくは米軍の自主再編によって完全撤退が遂行され、挙げ句に日米同盟までが破綻した場合、日本はどこと同盟するのだろうか。反日教育で国民を洗脳している中国と、日中安保条約を結ぶのだろうか。それとも、同じく「恨」を込めて国民の反日感情を煽りながら、竹島で角をつき合わせる韓国と日韓安保条約を結ぶのか。北方四島の帰属をめぐって角逐するロシアと、日ロ安保条約を結ぶのか。南方で調査捕鯨に反対する豪州と、日豪安保条約だろうか。
 世界経済と国際政治のブロック化が進行していく中で、日本は未来永劫にわたって日米同盟の枠組み内に留まっていけるわけでもないだろうが、そうなれば日本は自立・独立の準備を加速させなければなるまい。それを実現するものとは、まさに省資源で十分な機能を発揮できる製品・物資を生み出し得る日本の科学・技術力ではないだろうか。それは国際収支に貢献する自動車・家電に限った話ではなく、新素材、新エネルギー、情報、航空、宇宙、海洋、運輸、建設、農林水など全てにわたるものである。
 これを思えば、救国のための技術開発までを、事業仕分けの対象にして予算削減することが、何を意味するのかは自ずと見えてくる。



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