JUNE . 2017

毎日新聞の5月19日付記事によると、厚生労働省は世界各国の自殺死亡率を比較した結果、日本がワースト6位となり、先進国でも最悪レベルで、さらに女性は3位に上ったと発表し、「自殺対策白書」で公表するという。

 その順位付けによると、1位はリトアニア、2位は韓国、3位はスリナムと続き、6位に日本が登場する。近年は外国人観光客が激増し、ハイテク化が進む一方で伝統も大切に守る日本と、規範意識が高い日本人とそれに基づく秩序と治安の高い日本社会への評価が高まっている。しかしネットでは、それでいて自殺率が高いのはなぜかを問いかけ、様々に理由を考察する書き込みも見られる。

 確かに日本人は勤勉で、責任感の強さから仕事は手を抜かない。しかも、長時間労働に不平・不満も言わずに耐え続ける。そのお陰で今期の各業界の決算結果は、どの業種もプラスだったという。特にアベノミクス第二の矢に規定され、政府の保護下にある建設業は、バブル期を越えた好決算を記録したとのこと。公共投資は増加傾向にあるので、記録は毎年、更新されるものと見られる。

 そうした動向を反映して、前年度の企業の社内留保総額は、311兆円から511兆円へと飛躍的に増加した。内閣府の発表でも、2017年1月〜3月期のGDP速報値は、実質で前期比0.5%増で、年率換算では2.2%増となり、5四半期連続のプラスとなった。企業経済の好調を、顕著に裏付ける数値と言えよう。

 しかし、その一方で勤労者は過労死のケースが減らず、電通のような過労による自殺が問題となり、北海道や沖縄で見られたような最低賃金が生活保護支給額を下回るワーキングプアも、解消する様子が見られない。

 また、非勤労世代では、保育を受けられない待機児童の問題も解消されず、青少年は高校を卒業できずに中退したり、大学に進学できず、進学を果たしても奨学金の返済に不安が残るといった、胸の痛い子供の貧困が社会問題となっている。一方、高齢者は年金受給額が生保支給額を下回るために、年金受給を断念し、監視付きの窮屈な生保に切り替える貧困生活である。近年はこれに着目した貧困ビジネスが出現し、さらには詐欺事件として摘発されるケースまで発生している。まさに、企業社会はかつてのようなバブル天国だが、市民社会はいまなおデフレスパイラルの貧困地獄である。企業だけを生かして、個人は死に追いやる社会の先に何があるのか。

 この矛盾とギャップの原因は明白である。政府の景気対策の恩恵を、企業側が独占して食い逃げしているからに他ならない。政府の景気対策の目的は、企業に利潤をもたらすことではない。企業社会が所得再分配役として機能し、恩恵を社会還元することにある。

 しかしながら、企業が自己保身ばかりを考え、国富を独占するならば、またも公共事業批判と、福祉偏重を求める世論が再燃することになりかねない。かつての自民から民主への政権交代は「我々は企業経営者や出資者を儲けさせるために、苦労して納税しているのではない」という、国民の心底からの怒りの表れである。

 厚労省は「労働基準関係法令違反に係る公表事案」と題して、「ブラック企業リスト」を公表した。企業名、所在地、違反法令、違反事案などが、都道府県ごとに分類されて明記されている。こうした取り締まりの一方で、企業経営層に対し、社会還元による資金循環へのモチベーションを向上させるアクションも必要だろう。

 国会では、学校法人に対する行政府の働きかけや忖度が問題視され、野党に追及されているが、私企業の利益・便益のためではなく、一般国民のためであれば「最大多数の最大幸福」という、最も重視すべき行政目的に反しているとは言えまい。




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