DECEMBER.2012

11月16日に衆院はついに解散となり、民主政権は事実上、終焉を迎えた。次期選挙に向けては、原発問題、領土問題、景気対策、TPPなど様々な争点が提唱され、16党に及ぶ政党が賛否両論を主張し合っているが、ほとんどの問題はTPP対策の中に答えを見つけることができる。

 TPPについては、全産業にわたって輸入関税を撤廃した上で、国外企業(特に米国企業)が日本市場に向けて製品・サービスを輸出する際に、障壁となる日本国内の法制を改正するよう、企業が米国内の司法に提訴できるというISD条項が問題視されている。

 そもそも日本の産業は、製品もサービスも世界が認めるハイクォリテイであると同時に高コストであり、さらに異常な円高のために、価格競争においては圧倒的に不利である。仮に中央銀行による金融政策を通じて円高には対処できても、コストにまで踏み込むことはできない。

 このため、日本企業はクォリティを落とさないままローコスト化の課題を突き付けられてきた。製造コストを下げる技術革新だけでなく、管理体制の合理化や人件費の抑制を余儀なくされた。人員削減を進め、労働市場は低賃金・低レベルの外国人労働者に奪われ、国内の優秀な人材や新卒者が犠牲となった。

 その結果、日本国民の平均所得水準は下がり、税収も減少し、社会保障制度の維持が困難に陥っている。人間を豊かにするはずの技術革新と構造改革は、国民に不幸をもたらす皮肉な結果となった。

 単に価格競争だけを考えるなら、ローコストで粗悪品を乱造すれば済むだろうが、これは日本の製品・サービスへの世界的信用を失うだけで、自殺行為でしかない。日本の製品・サービスの品質は、高度な技術と高品質の素材、そして資源・エネルギーを豊富に投じた結果である。それを不均衡な低価で提供するのは、資源・エネルギーの浪費であり、人材の投げ売りであって、地球環境への負担増と人間社会の疲弊を招くだけである。

 そこで、その解消のために重要となるのが、政府・自治体による環境整備だ。企業努力もさることながら、生産に必要な水資源やエネルギー、流通・物流コストを下げるインフラを、公共投資によって提供することが政府・自治体の本来の役割ではないか。

 そのエネルギーについては、原発ゼロを謳う政党もあるが、代替エネルギーをどうするのかが問題である。イランから法外の高値で天然ガスを買い続けるのか、アメリカのシェールガスに依存するのか、領土問題を理由に元栓をいつ閉められるか分からないロシアの天然ガスに依存するのか、それとも領土問題に決着をつけて、独自に領海内の埋蔵エネルギーを採掘するのか。つまり原発問題は領土問題であり、外交問題でもある。

 TPPは、これだけの難問をクリアしてこその話であって、円高、高コスト構造の解消、不平等条項の廃止が実現できない限りは、米国産業界の餌食になるだけである。安易にグローバリズムの幻想に惑わされて、小泉構造改革で冒した過ちを再び繰り返すことだけは、避けなければならない。




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