AUGUST.2011

女子サッカーのW杯で、日本の優勝に世界が沸いた。経済効果は1兆円というが、初優勝の快挙がもたらした効果は、単純な物流経済に限らず、被災の逆境から勝利を手にした感動がもたらす精神的効果も大きいとして、世界中から評価されている。とかく暗い話題ばかりが聞かれる世情にあって、国家再生にけて国民の元気づけとなることを期待したい。

 日本は明治維新以降、欧米列強による世界支配の脅威に晒され、隣国アジア諸国にまで迫る植民化に抗する形で、日清、日露の会戦を闘った。清国もロシアも広大な大陸で、日本などは吹けば飛ぶような島国である。その小人が巨人を相手に勝利した奇跡に、東南アジア諸国や東欧諸国は勇気と希望を与えられた。その姿は、大柄で屈強な米チームに圧されながらも、死に物狂いの奮闘で、ついに下したW杯日本チームの姿にダブる。

 バブルが崩壊して以来、各国がドラスティックな経済構造改革を推し進めていた中で、日本だけが本格的な景気回復を果たせないまま今日に至っている。多くの企業は、海外へ流出する一方で国内は空洞化し、雇用者は雇用先を失って自信も失い、引き籠もるケースが激増した。当然ながら、日本は従来もっていたはずの経済的力強さを失い、GDPは中国に後れをとり、20位前後にまで低迷している。

 そもそも、投資よりも貯蓄性向の強い日本人の消費観念に、強引に英米金融・証券・生損保業界が侵入してきたところから、歯車は狂ったのではないか。英米では、幼いうちから経済生活の基礎知識として、投資教育が行われるのに対し、日本は貯蓄を美徳として、国を挙げて奨励してきた歴史がある。ローリスク・ローリターンで長期に渡る堅実な蓄財を美徳としてきた日本国民には、短期間のハイリスク・ハイリターンで高利を得る賭博的な経済行為は、国民性に馴染まない。当然ながら、同じ土俵に立ったところで適うはずもない。

 しかし、これが逆に国債の外貨依存比率を、最低限に抑制することに奏功したと言えるだろう。国債の国内保有率はおよそ80%で、その大半を保有する国内金融機関には、さらに総額1,500兆円の余剰資金準備があると試算される。

 与謝野経済財政担当相は、財政再建と復興財源の確保に向けて、とかく増税ばかりを主張し、弱った国民からの搾取ばかりを模索したがるが、それよりもむしろ国内の遊休資金にこそ着目すべきだろう。ただでさえデフレ不況に疲れていた上に、脱原発による電力不足が産業に与える打撃が懸念されるなど、多くの国民は外部要因によって、自力で立ち上がるにもその踏み場を失い七転八倒している状況に置かれている。いまの日本に必要なのは、W杯女子チームに劣らぬ政治本来の奮闘・活躍なのである。




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