MAY.2012

世界に緊張をもたらした北朝鮮の人工衛星ロケットの発射は、失敗に終わった。他人の失敗を喜ぶのは悪趣味だが、この失敗は喜ぶべき失敗である。ところが、国連安保理決議に反しての強行に世界中の非難が浴びせられる中、それでも金正恩氏の政権継承と金正日生誕100年を祝う軍事パレードが暢気に行われ、次は核実験の準備までが懸念されている。この独裁国家は政権3代目にして、どこへ向かうのか。

 どこの軍部独裁国家もそうだが、曲がりなりにもデモクラシーを実現している国家国民の目から見れば、北朝鮮の国体は異常であった。民主制の基本である公職選挙はなく、人民は思想も言論も制限され、常に監視付きの薄気味悪い暮らしを強いられる。政権批判を口にしたものなら、反動分子の政治犯として問答無用に収監される。

 政権中枢にあっても、側近の謀叛に警戒しているため、常に監視し合うなど同士としての信頼どころか疑心暗鬼の塊である。かつて、スターリンは側近たる党幹部の忠誠を試すため、夜ごと酒宴を催し、酔いに任せて政権批判の本音を口にする者がいないかを監視していたと伝えられるが、北朝鮮でも幹部をアルコール漬けにし、毎晩へべれけ状態にして監察していたという。干ばつによる農業生産の失敗で、人民が飢餓に陥っている時に、政権内部は指導者らが疑心暗鬼の目を向けあいながら酔いつぶれていたのである。

 しかも、基幹産業といえば銃器、偽札、麻薬など、およそ世界平和と秩序に背を向けたような国体である。地勢的には、いまや二大敵対勢力となった米中の緩衝帯とされ、そのために中国が後見人として食糧、エネルギーを援助しているが、中国側も無条件に保護しているわけではない。経済開放政策によって、政治と経済はねじれ状態にあるとはいうものの、いまやGDPは日本をしのぎ、かつての旧ソ連のようにアメリカと対峙しつつも世界経済を牽引する立場に立っている。その道を北朝鮮にも歩むように求めているのが中国の立場であるから、政権交代によって若返ったこの機会に、正常化させていく決意をすべきだろう。

 先ずは日本と韓国、その他の国に対して、先代が行ってきた拉致・誘拐、領海侵犯などの非行を謝罪し、被害者を全て解放して贖罪に努めるほか、リビアのように核開発と威嚇行為をやめて武装を解除し、今後は軍事開発でなく経済開発に全力を挙げて、人民の餓えを解決することが先決問題ではないか。

 風貌、面立ちのみならず、肥満型の体型までも初代、先代から継承した29歳が、三代目にして潰すのか、それとも国際社会から正常な国家として認められ、世界に受け入れられる体制への改革を目指すのか、その一挙手一投足を世界が見ている。




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