APRIL . 2017

この4月から直轄事業の工事費における労務費等の算入率が、現行の95%から100%に引き上げられることになった。2年連続の改善策で、石井国交相が3月の閣議後の会見で発表した。

 現行の低入札価格調査基準価格は、予定価格の70〜90%の範囲内と設定されてきたが、今回の改正で、その平均値は予定価格の約89%から、設定範囲の上限である約90%に上昇することになる。工事と調査・設計業務の低入札価格調査基準を引き上げることで、公共事業の品質確保や適切な賃金の確保が狙いで、調査・設計から施工に至るまで、建設工事の全行程において、関連業界の収益率の向上が見込まれ、業界全体にとって明るい話題と言える。

 一方、管理費における低入札価格調査基準は、本社・支社の管理部門や、調査、測量、設計業務に従事する従業員の人件費、光熱費、事務所賃借料などの算入率が45%から48%に引き上げられる。これによって、労務・管理を合わせた調査基準価格の平均値は、上限である予定価格の約80%に到達する。

 公共事業はアベノミクス第二の矢と規定される重要政策だけに、業界の健全経営に寄与する改革は大いに歓迎したい。「自民党をぶっ潰す」と豪語して、国民経済をぶっ潰してしまった小泉政権から、経済無策の民主政権までの間、生き残りを賭けて不当廉売の摘発を覚悟で、自滅や共倒れのリスクも辞さない熾烈なダンピング競争を強いられていた建設業界にとっては、天国と地獄の違いである。

 問題はこうした政府の計らいに、各企業がどう応えるかだろう。建設工事を受注するのは営業部門であり、それを現場で施工し納品するのは現場作業所であるが、全国の施工現場は悲鳴を上げている。建設業は不況期間のリストラの反動で、人員不足の上に公共事業批判によるイメージダウンのため、新人の確保もままならない。

 このため、建設作業所には現場代理人や監理技術者など、施工要件として最低限の技術スタッフだけが配置され、事務員はいくつもの現場を掛け持つ状況が見られる。さらには制度改正により、工事規模によっては現場代理人までもが、幾つかの施工現場を掛け持つケースもある。また、日中は自らが現場で作業に当たり、ヘトヘトでありながらも、時間外に会計事務に臨む現場代理人の事例も見られる。中には、作業事務所に回線電話やFax回線すら未設置のところもある。

 建設事業は、建築工事であれば、人が集積する市街地に計画されるが、自然相手の土木工事となると、前人未踏の未開地に計画され、施工も人里離れた秘境で展開されることも多い。もちろん、近隣に金融機関や諸手続のできる諸官庁があるはずもなく、決済行為も届け出業務も多忙の合間を縫って遠出するしかない。ある現場代理人は「会社の管理部門が、必要経費を認めてくれない。事務員も置けず、工事で迷惑をかける地域住民への見学会も、広報活動もままならない」と、苦渋の面持ちである。

 企業として人員不足の苦戦は理解できるが、営業部門の新規契約に基づき、施工現場の生み出す成果品が会社の信用を高め、それが次なる営業にフィードバックされる。しかも、政府の配慮で収益率の向上が確実視されるのであるから、新規契約も成果品も生み出さない管理部門は自己保身に走らず、営業部門や施工現場の過重な負担を軽減し、無理なく活動できるよう、最大限の支援体制で臨むべきだろう。




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