MARCH . 2014

2月16日にインドネシアを訪問したケリー米国務長官は、ジャカルタの文化センターで講演した際、気候変動は大量破壊兵器だと述べ、生活様式を破壊する懸念があると警告し、各国が対策に取り組む必要があると強調した。

 気象現象を大量破壊兵器に喩える発想は、アメリカらしいといえばアメリカらしいが、確かに予防の不可能な気候変動が、否応なく広域的かつ無差別に人々の生活様式を破壊するという意味では、これほどに凶悪で始末の悪い大量破壊兵器はない。

 この2月は、アメリカに続いて日本列島も異常寒波が続き、そしてその直後に爆弾低気圧に見舞われた。奥多摩地域や甲府などの村落では孤立集落が続出し、流通は完全に止まった。幹線道路も寸断状態で、避難できずに車中泊を強いられた人々は、一酸化炭素中毒による死亡者も出た。

 かつて豪雪・積雪などは関東以北に特有の気象であり、温暖な関東以西には無縁だったはずだ。それが近年は全国的な現象になっている。数年前は、夏期の異常高温と冬期の異常低温を指して異常気象と呼んだが、近年はそれが当たり前のように毎年、発生するので、いまや異常と通常の違いは曖昧になりつつある。

 永久凍土のシベリアで、夏に40度の猛暑を記録した一方で、アメリカではこの1月に各地で軒並みマイナス10度から40度を記録。地下鉄構内につららが下がり、自動車はタイヤのホイールが凍りついて破裂。常識では考えられない現象が次々に発生し、そしてそれらはすべて人々の暮らしの障害になるものである。

 日本も昨年は北海道湧別町で、養殖施設を見回った魚家が帰宅時に遭難し、娘を庇いつつ凍死した痛ましい事故があった。山岳部や市街地からかけ離れた荒野での遭難ではなく、人々が暮らす集落地帯でのことで、いかに過疎地といえども人の生活空間での遭難事故だったことは衝撃だった。また、屋根の積雪による崩落事故でも、多くの人々が命を落としている。

 天からもたらされるものは、人智ではいかんともし難い。人力でできることは事後処理の対症療法しかないが、全国各地の地場建設業者が、重機・作業員を完備し、フル稼働していれば、被害もある程度は抑えられたはずである。それが今は圧倒的に不足しているのであるから、我々は「大量破壊兵器」の前に、無防備のままに暮らしているようなものだ。

 ケリー長官の発言は、米国がいくら核兵器を完全管理しても、他国の核兵器が武装勢力に流出するようでは安全は保証されないとして、国際社会の協力を呼びかけたもので、「気候変動も同様で、最も恐ろしい大量破壊兵器の可能性もある」と言及したものだ。温室効果ガスの排出量は、中国とアメリカが1、2位を占めるため、世界の気候変動による影響を緩和することで両者が協力する共同声明を受けたものである。

 気候変動という「最も恐ろしい大量破壊兵器」に晒されている人類は、核弾頭を向け合って睨み合っている場合ではなく、協力してより大きな脅威に臨むことが必要な時代を迎えたのかもしれない。




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