OCTOBER . 2015

与野党で膠着状態が続いていた安全保障関連法案が、参院平和安全法制特別委員会で可決し、参院本会議での採決へと進展を見せた。今回の採決で、野党側は「与党の横暴」、「騙し討ち」、「民主主義の崩壊」などと口々に罵倒するが、審議の攻防で見せた戦術は虚しい悪足掻きにしか見えず、むしろ民主主義の基本である多数決原理に反抗しようとする矛盾をさらけ出す結果となり、かえって逆効果だったのではないか。

 国会審議を妨害するため、委員会役員を理事会室に軟禁し、実力排除に抵抗するために女性議員らの「セクハラキャンペーン」隊が組織されたり、審議ではお涙ちょうだいの不自然に長い演説で時間を引き延ばし、時間切れを狙おうと「牛歩戦術」ならぬ「牛タン戦術」が飛び出すなど、良識の府である参院にあって、奇異を通り越して滑稽な場面が展開された。

 本来、殺戮合戦となる戦争行為に関わりたくないのは、イデオロギーに関係なく共通の市民意識である。しかし、法案反対派は、その意向を政府側に伝える手法において、大きな問題点があったのではないか。

 特に致命的と思えるのは、16日に横浜市で行われた法案に関する地方公聴会で、与野党から推薦された、それぞれ2人の公述人が意見陳述した。この時、野党側公述人の広渡清吾専修大教授は「反対運動が広がっており、国会の多数派と国民の多数派のねじれが起きている」と指摘し、「国会の多数派は選挙で成立したが、国民が白紙委任をあたえたわけではない。(法案は)民意を無視し、民主主義にそむいている」と述べた。

 しかし、国会周辺の公有地を占拠していた反対派の動員数は、NHKの報道によると4万5,000人で、中心的な主要メンバーは自治労、官公労、共産党、共産系団体、過激派組織その他市民団体である。一般の勤労者や家事に追われる主婦などは参加できないであろうから、これが全てではないはずだが、日本国の人口1億3,000万人のうちの5万人足らずを指して、「国民の多数派」と呼べるだろうか。マスコミ各社の世論調査によると、明確に反対を表明したのは39%で過半数ではない。ここに、反対のためとなれば、たとえ客観的データや物証に依拠すべき学者であっても「さばを読む」うさん臭さを、正常な市民なら感じ取ったことだろう。

 一方、水上貴央弁護士は「政府は合憲の枠組みを模索すべきだ。(採決は)単なる多数決主義であって、それは民主主義ではない」と語気を強めた。多数決主義がデモクラシー原理でないならば、民主主義原理とは何であろうか。法に仕える法律の専門家が、法治主義の原点である民主主義原理を公然と否定したのである。デモクラシー原理を尊重し、これに従って生きる一般市民としては、唖然とするしかないだろう。

 野党は現在、民主や維新の会を中心に再編の動きが加速しているが、民主党内には「安保法案への反対姿勢が、党の支持率に結びついていない」との理由で、一旦解党すべきとの意見も出ている。

 しかし、支持に結びつかない真因は、市民が納得できる合理的な論拠を持たず、そのために説得力ある理論も展開できないまま、感情的に「反対」のスローガンを念仏のように繰り返すか、または突飛なほど飛躍しすぎた「おとぎ話」レベルの例え話しか示せないロジックの脆弱性にこそ、あるのではないだろうか。




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