NOVEMBER.2011

野田首相がTPP 交渉の参加に意欲を示し、党内協議を進めるよう指示したことで、論議が再燃した。しかし、相変わらず意見は二分され、野党はもとより党内ですら反対意見が強く、まとまる様子は見られない。

 平成の開国によって、本当に日本は再生できるのだろうか。かつて小泉政権によるアメリカに媚びた構造改革の開放政策で、国内企業が大打撃を受け、すでに産業空洞化とリストラ失業、新卒者の未就労が激増している現代日本の企業が、国際競争で勝てるのだろうか。震災以前からドル安誘導の反動で、円が高止まりしている状況にあるが、日本企業の製品・サービスは新興国との価格競争に勝てるのだろうか。

 デフレで物価は下方安定状態だが、一方では震災復興、社会保証制度の改革を口実とした増税が論議されている。これに便乗して、健康の押しつけとしか言いようのない煙草税の増税までを持ち出している偏見閣僚もいる。このため、国民の生活コストは上昇の一途しか描けない将来展望で、円高日本の国民が労働市場で新興国と競争できるだろうか。しかも工業製品も農産品も安全性と高機能、高品質が求められる趨勢の中で、高い技術力と品質で評価を勝ち取ってきた日本製品は、それを維持できるだろうか。

 10 月には米アップル社のiPhone4sの登場で、国内メーカーが敗北した矢先でもあり、サービス、品質とも凌ぎを削るハイテク産業の国際的なクオリティ競争の厳しさを改めて痛感させられた。価格を落とさずに品質を維持・向上させるには、どこかにしわ寄せがいくのは当然で、それが産業の空洞化につながる理由にもなるのは言うまでもない。

 一方、農業を見れば、減反政策で自ら食糧生産を抑制し、政権交代後には米農家に限って減収分を補償する減産奨励策を進めてきた。今さら量産に転じて、価格競争に備えようとしても時すでに遅しである。品質競争には勝てても、価格競争には勝てないのは目に見えている。それで日本の農業を守れるのだろうか。

 先に述べたが、未就労世帯や生活保護世帯が激増した分、個人収入の減少で国民所得は低下。税収が確保できないために、野田政権は増税で対処しようとしている。国民は生活コストが高くなる一方であるのに、年金支給開始年齢は68歳〜70歳にまで段階的に先送りされるという。つまり、国民生活は豊かになるのではなく、むしろ貧相にしかならない未来しか予感されない。そうなれば、生活防衛のために消費を抑え、限界貯蓄性向が高まり、衣食住の必需品は安価な輸入品に依存する方向に流れるだろう。

 しかも、輸入農産物は、必ずしも100%安全が保証されているとは限らないことを、国民は過去の経験で知っている。しかし、背に腹は替えられないとなれば、ある程度は健康を犠牲にするしかなくなるだろう。その場合に、TPPで自由化された医療事情はどうなるのか。TPPを推進する政府も経団連も、これらの疑問にどう答えるのか。

 かつて八つ場ダムを強引に中止し、地域に混乱をもたらした前国交大臣の前原政調会長は、それらを「TPPおばけ」として、単なる幻想と否定しているが、それだけで済ませて強引に押し切るつもりだろうか。




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