NOVEMBER . 2017

路地裏問答

 ニッサン自動車の安全問題に続いて、我が国の老舗鉄鋼メーカー・神戸製鋼までも、品質データの改竄が発覚した。技術大国として世界に貢献、君臨し、不動の信頼を築いてきた「ものづくり大国」の我が国は、どうしてしまったのか。

 データ改竄の発覚は、グループ9社の9製品にまたがり、自動車、船舶、航空機、鉄道車両すべての乗り物に及んだ。多くの人命を運ぶ交通施設に不正とは、創立100年を越える老舗とは思えない不人情で無責任な姿勢が浮かび上がる。人命よりも利害を優先する企業体質だったのだろうか。無資格者による安全テストで、公式に安全性能が保証されないニッサン車の、車体の本体・部品までもが品質を改竄されていたのでは、所有者はどんな思いだろうか。

 データ改竄は、さらにボルトやナットなど建設資材でも発覚した。鉄鋼部品は、民間投資の建築物だけでなく、公共事業でも多用される。道路、橋梁、多目的ダム、港湾、空港その他公共建築などは、不特定多数の人々が使用するものであり、砂防ダム、治水施設などは防災施設として、人々の生命、財産の安全を確保するものである。

 そうした公共建設事業を行うのは、国交省だけではない。農地草地、農業ダムなどの農業インフラや漁港、国有林などを整備する農水省、高速道路を整備する各地のNEXCO高速道路(株)や、鉄道施設を建設する鉄道・運輸機構、集合住宅を建築する UR都市機構、そして全国の地方自治体と、自治体独自の出資団体(第三セクター)など、広範にして多岐にわたる。かつて、手抜きマンションで騒がれたヒューザー事件どころの問題ではない。

 それらの部材や躯体、基礎工などの鋼材の品質が誤魔化しであったなら、耐久性に不安が生じ、想定よりも早くに経年劣化に至ることが考えられる。改竄を知らずに施工してきた建設業社は、意図せずして施工不良の手抜き工事をさせられていたことになる。このため、工事を発注した事業者は早急に初期計画を見直し、予定されたメインテナンスや更新の周期を短縮する以外になくなるだろう。

 場合によっては、データ改竄以降の全ての製品や構造物を作り直さねばならない事態も想定される。建設製品は、規格に基づいて工場で量産される軽工業品とは異なり、全てがオーダーメイドであるから、事業費は途方もなくなる。小規模の庁舎建築でも20〜30億円の事業費を要し、道路、橋梁となれば数十億円から100億円を越える。大規模な国営ダムに至っては、1,000億円を越えるものもある。一企業では到底、補償できるものではあるまい。

 公共投資は、政府の景気対策であるアベノミクス第二の矢として、内需拡大の目的も含まれている。この恩恵で建設産業は、業績がバブル期以上に回復したが、国交省は元請けとなる建設業界に対し、関連産業や下請け・孫請けにも適正利潤が発生するよう、適正価格での契約を奨励してきた。それだけに、鉄鋼資材業界にも景気対策効果は十分に波及していた筈である。

 にも関わらず、庶民や中小企業が景気回復を実感できず、むしろ低所得や人員不足による業績低迷が続いているのは、これら大手企業がアベノミクスを食い逃げしているからに他ならない。それだけでも、景気対策の波及を願う政府・国民に対する背信行為であるが、その上に主力製品である鉄鋼製品までもがインチキとなれば、自ら企業生命を絶ったようなものである。創立100年以上にわたって築き上げてきた顧客の信用は、この一瞬で失われ、取引停止、営業停止処分は免れないだろう。そうなれば投資家も手を引き、株価は暴落し、製品市場はもとより資本市場からも退場を余儀なくされるだろう。




過去の路地裏問答