DECEMBER.2011

 9月14日に世界銀行のゼーリック総裁が、世界経済の危機を訴え、G20による実効ある対策を要望した上、さらに日米欧の経済対策と政局運営に対してクレームを付けた。

 ロイター配信の記事によると、同総裁の発言は「欧州各国は共通の責任に関する困難な現実を直視していない」、「日本は必要な経済・社会改革が先送りされており」、「米国は政治的な対立により過去最悪の水準に膨れ上がった財政赤字の削減努力が阻害されている」との指摘で、各ブロックの政情、国情を的確に捉えている。

 そして、いち早く有効策を行わなければ、この3ブロックが世界経済の足を引っ張るとの厳しい警告だ。これまで世界経済をリードしてきた日米欧が、よりにもよって足を引っ張るとは皮肉だが、リードするほどに影響力を持ってきた分、逆の場合の影響も大きい。

 そうした中で、日本は野田内閣が80%を超える高支持率で発足したが、早くも閣僚の失言続きで、鉢呂経済産業大臣が辞任するなどの失態が見られた。このため、支持率は3ヶ月と経たぬうちに44%にまでダウンするなど、スタート早々から頼りない印象が拭えない。しかも、財源調達の基本方針は増税とリストラが中心であるため、景況回復どころか悪化を招くことが懸念されている。

 世界経済のお荷物とならぬために、日本は何をすべきなのか。注目すべきポイントは史上に例を見ない円高で、これまでは黒字の貿易収支が日本の経済・財政を支えてきたが、現況ではその期待が持てる状況にはない。米フォーブス誌が発表した、収益性の高い企業ランキングで、中国、韓国企業はランクインしているが、日本企業の名前は一社も見ることが出来なかったのは、円高デメリットを予見した結果と言えよう。

 そうなると輸出でなく、輸入における円高の強味を生かすしかなくなる。他国企業の買収、吸収など、資本参加・支配による収益確保を考えた方が現実的で、経済政策に疎遠な民主政権も、ようやくその姿勢を見せ始めた。

 一方、成長軌道に乗っている中国への開発援助は完全廃止し、債務国に対しても償還を急ぐなど、海外からの資本引き上げを視野に置いて検討してはどうか。当然、出資国の反対や異論も予想され、論争にもなるだろうが、世銀とIMFが後ろ盾となり、国際世論の了解を得やすい環境づくりに協力してもらうのが有効ではないか。

 一方、対内的には、かつて世界恐慌時に行われたリフレ政策が必要だろう。これまでのデフレ対策として行われてきた金融政策といえば、資金需要が低迷しているにも関わらず、ひたすら金利抑制の緩和策のみで、効果がほとんど得られぬまま今日に至っているのが現実だ。問題は、政府財政の建て直しを優先させ、国民経済への投資を怠ったことにある。やはり資金需要を生み出すための最初の突破口は、マクロ政策に頼らざるを得ないことは、世界恐慌によるデフレ不況を、世界で最も早くに回復させた高橋蔵相のリフレ政策という歴史が証明している。

 それを意識してか、国交省が八つ場ダム建設について、他の施策よりも事業費が最も低く抑えられるとの検証結果を発表し、治水対策としても公共投資としても理想的との見解を示した。これに対して、同ダムの建設中止を強引に決定した元国交大臣の前原政調会長が批判したが、個人のスタンドプレーで事業を停滞させたのみで、代替策も現地対策も講じないままに放置した無責任な姿勢こそ、猛省を促したいところだ。




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