September.2008

 内閣改造が行われ、再スタートを切った新生福田内閣は、総選挙向けの人気取り人事であって、国民のための人事ではないとの揶揄も聞かれたが、まさしく国交相に自民党の返り咲きで、谷垣元財務相が起用された辺りに、国民の生活不満のガス抜き人事とのニュアンスも感じとられる。

 谷垣大臣といえば、官制不況の元凶となった小泉構造改革内閣で財務大臣を務め、消費税増税による財政再建を主張し続けてきた税理士であり、弁護士でもある。公共投資と社会資本を通じて経済の活性化を促す国交省とは、基本的に正反対の政治スタンスにあり、果たして着任後には道路中期5カ年計画の縮小に言及。総選挙までは消費税増税を匂わせたくない福田政権としては、その代わりに予算の極限までのカットとともに、道路特定財源の一般財源化の実施など、建設行政と建設業界再編に向けての改革政策を躊躇なく遂行しそうなパーソナリティとして、適役に見えただろう。

 折から福田政権は社保庁問題、高齢者医療問題、食糧問題、拉致問題、環境問題、原油・穀物価格高騰など、波状的に難問が押し寄せ、それらへの対策が不十分として国民の不満が募っていただけに、次期総選挙に向けては国民の不満のガス抜きが必要となる。そうしたとき、談合の発覚が続いた公共事業と建設業などは、その矛先として理想的な悪役である。  これまでにも公共投資と建設業を赤字国債の元凶と断じ、工事契約に当たっては、落札率が9割以下の赤字契約でなければ、即ち不正入札として指弾する大衆マスコミと、それに洗脳された大衆世論に迎合する形で発注システムを改変し、絶え間ない予算カットと支出削減などで、建設という産業分野の破壊政策に邁進してきた。そのパフォーマンスは、次期総選挙に向けてさらに重要性を増してくるだろう。このため建設関係者は、よほどの覚悟が必要になる。

 複合的な産業構造を持ち、不況でもつぶしの利く一部の大都市はそれで良いだろうが、建設産業の占めるウェイトが高い多くの地方・郡部では、そうして生み出された官制不況によって、住民が悶絶している状況にある。したがって、与党・自民党は建設が中心となった地方経済界の票田を失うことになるだろう。

 だが、失うものはそれだけに留まらない。近年の国内建設需要の底なしの下降状況から、大手建設業者は開発が活発となっている途上国に活路を見出す以外になくなっている。一方の途上国側も、それを見越して事業者が自ら来日し、事業をアピールして入札参加を呼びかけるなど、需要と供給があいまって国外市場への誘致・進出の動きは着実に加速している。したがって、建設業破壊政策が今後も続けば、経済難民と化した建設関係者は国外転出を余儀なくされ、これまでに培った建設技術と人材の流出も止まらなくなるだろう。

 今年も台風の季節が来た。日本は大陸と異なり、平地が乏しい上に地震と豪雨が多く、土砂流出が発生しやすい地形で、毎年のように犠牲者が土砂に埋まっている。今までは地場建設業が、間髪入れずに出動してきたが今後は自衛隊、消防、あるいは警察機動隊などが独自に重機とオペーレーターを所有し、被災者はそれによる救助と復旧を待つことになるのかも知れない。


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