MAY.2007

首都圏で地価高騰の情勢が伝えられ、バブル再燃かと報じられる一方で、建設業はかつてない危機的局面を迎えている。かつて景気浮揚対策の窓口として期待されていた当時は、政府・自治体による財政的テコ入れも行われた。しかし、我が国経済は、それによって形成された社会資本を有効に生かすだけの余力がない調整局面にあったため、その効果を十分に発揮できず、むしろ公共投資削減を望む国民的要求に圧され、今日では事業費削減の連続で、バブル期の半分にまで減少している地域もある。

そうした事業費の減少が、積算において如実に反映し、無謀とも思えるほどの経費節減が行われている。例えば、資材・原油価格の高騰を考慮しない事例も中にはあり、業界関係者からは「本来あるべき適正な利潤を最初から度外視している」といった、嘆きに近い訴えも聞かれる。

業界側がそれに耐えるためには、施工技術のみならず、経営技術においても大幅な革新が必要となるが、しかしながらイノベーションというものは一朝一夕にして実現できるものではない。果たして、そうした経営技術においても施工技術においても、発注者が求めるレベルには到達していない時点で受注競争が激化し、常識外のダンピング合戦が横行しているのが今日の情勢だ。ある国道事業では、予定価格の6割という常識外の受注事例も見られ、発注者側が呆れるケースもあるほどだ。

一方、業界側でも、ある地方の建設業界団体の関係者によると「予定価格の6.6割という過剰な受注競争をしており、その上にまだお互いに値を叩き合っている」とのことで、「このために企業として成り立たなくなる会員も増えており、倒産したり、年会費が払えずに脱会する会員もいるなど、団体としての存続も危ぶまれている。実際、用務で地元の役所を訪問した際に、“協会が解散するとの噂が立っている”と聞かされた時には、愕然とした」と、憔悴し切った様子で語っていた。

かくして、現在の各企業の視野にあるものは自社の存続のみで、たとえ利潤がなくてもとりあえずは会社を維持すべく、その場凌ぎの仕事だけを確保しようと狂奔する有り様が、まざまざと見て取れる。これはまさしく小欄で以前に言及した通り、企業、業界を挙げての自殺行為で、行く末に見えるのは自滅の道であり、いわば地獄絵図である。

しかも、相次ぐ談合事件の摘発により、国内有数のゼネコンのほとんどが軒並み指名停止処分を受けるという有り様で、厳しい世論の批判に晒されている情勢にあることから、談合・処分とは無関係のサブゼネコンや地場企業も、国民の厳しい視線の前に萎縮している。

経済は連関と循環であるから、こうしたデフレ志向の弊害は、当然ながら下請け会社や資材会社などの関連業界にも及ぶ。かつては関連業界が多く、裾野が広いために景気浮揚対策の窓口として有効に機能していた反面、それがマイナスに機能するとなると、デフレ不況の窓口として景況悪化の元凶となるといった皮肉な結果につながっている。

談合による処分は自業自得であるが、さすがにそうした阿鼻叫喚を見かねて、ようやく政府も自治体も低価格入札への対策に腰を上げ始めた。しかし、懸念されるのは「またも保護主義に逆戻りするのか」といった、国民の誤った批判が生じることであり、そしてそれに対して十分な説明と反論ができないまま対策が頓挫してしまうことである。

それを防ぐには、事業者である政府・自治体と、受注者である建設業界と、そしてその出資者たる国民の三者が、互いに良い印象を持って納得し合うムードづくりが必要だ。そのためには、まずはお互いをよく知り合うことが前提となるだろう。


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