October.2010


 異常な円高が続く中で、9月の民主党代表選の翌日に、ようやく日銀は満を持して市場介入に踏み切った。この結果、82円台で推移していたレートは85円台後半にまで進行し、現在は84円台で推移している。これに欧米各国が猛反発しており、展開によっては対抗措置として日本の為替市場介入をブロックしてくる可能性も観測されている。しかし、わづか1円の変動で一日2,000万円の為替差損が生じると試算されるだけに、日本としても死活問題であり、欧米投資家の顔色などを窺ってはいられない状況である。
 米下院歳入委員会のレビン委員長は、中国元の評価を巡る委員会の公聴会で、日本の市場介入に困惑していることを表明した。この他、欧米各国の議会議員や投資家は日本の介入に反発を強め、中には中国が不当に行っている為替操作と同一の作為として、強烈に批判する声も上がっている。
 しかし、円に反して平均株価が下がり続けていた状況を見れば、欧米投資家が日本国内の産業、経済成長に期待し、後押しする意味での建設的な投資をしていたのではないことは明らかだ。単に1,200兆円に上る国民総貯蓄を担保に、安全な円を買って利殖を得たいだけのマネーゲームでしかないことは見え見えである。かつてアジア通貨危機をもたらしたハゲタカファンドや、後に詐欺的な住宅金融商品で破綻し、世界経済に迷惑をかけた米金融界、そしてその背後にいる欧州投機家のために、日本がいつまでもデフレ恐慌に耐え続ける必要がどこにあるだろうか。
 欧米投資家が、労働もせずに机に向かってマウスをクリックするだけの手先の行為で日本円を釣り上げ、そして何億円もの差益を稼ぐ一方で、その円高のために業績が悪化し、生産ラインが停止し、会社や職場を失った経営者や労働者が、どれほど首を吊ってきたことか。自国通貨安の恩恵を受けたいのは、どこの国も同じである。ブレトンウッズ体制下にあるとはいえ、それは欧米だけに与えられた特権ではなく、もはやこれ以上は、横着な金持ちの身勝手なエゴにつき合う必要はない。
 日本は、国際機関への出資額も後進国への開発援助も突出しており、経済成長著しい中国にも開発資金を貸し付けてきた。米財政危機を救済するためのプラザ合意にも応じ、円高誘導と輸出抑制、内需拡大によって、自国経済がバブルという病魔に冒されてでも国際協調してきた。軍事紛争が起これば、国内世論を押し切ってもPKFを組織してPKOに参加し、海上輸送の安全を守るためとなれば、他国の海域にまで出向いて無償給油サービスを実施してきたのである。今こそ、その配当や利得を得て、債務国には決済を迫る時ではないだろうか。
 「82円台が防衛ライン」などと、わざわざ敵に自軍の目標や戦略を明かしてしまう無能な内閣が国家運営に当たっているという逆境にあるが、こうしたときこそ力を発揮すべきは優秀な官僚達ちであろう。民主政権も組閣が終わり、いよいよ新内閣がスタートしたが、真に実務を知る官僚達ちの力によってこの難局を乗り越えるまで、素人は余計な口出しをせず大人しく大臣室にこもっていてほしいところだ。


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