JULY . 2016

安倍政権が来年の消費増税を見送ったことで、野党からはアベノミクスは失敗だったのではないかとの追及が厳しさを増している。参院選を目前に控えていることもあり、メディアの批判も含めて、無理なあら探しやこじつけ論も見られるが、現時点では評価も批判も五分五分と見るべきだろう。  アベノミクスの問題点は、その恩恵が大手企業に止まったままで、中小企業や庶民に浸透していないところにある。アベノミクスが描いたのは、企業社会の業績回復によって持続的に財源が確保されつつ、末端消費の拡大につながり、それが再び企業業績へフィードバックするトリクルダウンの好循環だった。

 最近の経済報告では、企業社会における内部留保の総額が、かつての220兆円から330兆円へと飛躍的に増加しており、アベノミクス第二の矢として保護されている建設業も順調に業績は回復している。南海トラフが懸念され、国土強靱化が施行される一方、東北大震災、熊本大地震などの復興需要や、東京五輪会場整備の特需などが後押しした格好だ。その意味では、アベノミクスが目指した初期の目標は果たしたとは言える。

 しかし、そうした資金の循環が停滞し企業社会に滞留しているため、庶民は実感できず恩恵を感じることもないのが現実だ。日銀がいくら低金利政策を更新しても、大手企業の収益だけが向上し、中小企業や家計が置き去りでは片翼飛行でしかなく、早晩平衡を失って墜落するしかない。

 その背景は20年にも及んだデフレスパイラルの経営難による根深いトラウマから、経営姿勢が自己保身に傾き、低賃金・長時間労働の労基法違反を犯すブラック企業になりやすい風潮を反映しているのだろう。

 これは建設業も同様で、公共事業批判の世論に迎合した小泉構造改革以降、民主政権まで続いた公共投資削減による業界破壊政策のトラウマから、自己防衛本能で公共財源を独占し、アベノミクスが求める所得再分配による景気下支えの役割に背を向け、政府と国民の付託を平然と裏切る企業も見られる。これでは、またも野党・マスコミに公共事業批判の口実を与え、事業費削減機運の再燃という悪夢を招きかねない。

 これを防ぐために必要なのは、建設関連需要に限らず、あらゆる産業への官需拡大によって内需を補強し、それを担保に企業人のデフレ不安へのトラウマを払拭する政策だ。ただし、アメを与えるだけでは、企業のエゴを増長させる懸念もある。適切な待遇改善や設備投資への誘導、ダンピング防止のための企業間取り引きへの介入といったムチも必要だ。

 政府による市場介入は、やり方によっては官制談合の誤解を招くリスクもあるが、資本主義原理である自由放任は、経済が拡大基調でなければマイナスに働く。不況下では各企業の防衛本能とエゴの相乗効果により、互いに自覚がないままデフレスパイラルのアリ地獄へ落ち込み、共倒れするリスクが大きい。アベノミクスが目指すデフレ脱却は道半ばである。したがって、経済が成長軌道に乗るまでは、社会主義的統制経済の政策が求められる。修正資本主義で安定成長を遂げてきた日本は、市場主義と統制経済を適切に使い分けることによって、苦難を乗り切れるだろう。





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