JANUARY . 2017

政府は第二次アベノミクスの公約である「働き方改革」の検討を進め、毎月の最終金曜日を15時で退社する「プレミアムフライデー」なるものを提唱しているが、国内アンケートでは過半数が否定的で、実現の道のりは険しそうだ。

 国民の個人消費の促進が狙いのようだが、国民が否定的な理由の一つには「賃金もロクに上がらないのに、時間だけあっても消費しようがない」という切実なものがある。構想には経団連も加わっているが、見方を変えれば賃金カットの口実にしようとの魂胆ではないかとの疑念を抱かざるを得ない。雇用情勢は売り手市場へと改善したものの、物価上昇、消費増税で実質賃金はマイナスであるから、個人消費の増加などは考えられない。

 しかも、デフレ不況期のリストラの反動による人手不足から、一人当たりの業務量は過重となっているのが現実である。3時で退社できるほど暢気に過ごせる勤労者が、どれほどいるのか甚だ疑問だ。

 これを実現するには、かつてバブル期に週休二日制導入を目指して行われた施策が必要だろう。全国の行政機関、金融機関、学校などの公的機関が率先垂範することである。これらが休業のため、企業は役所への申請、登録業務などができず、銀行での決済行為もできず、子弟たちは自宅でゴロゴロし、親たちに娯楽レジャーのための外出をせがむとなれば、企業人の平常業務は成り立たない。やむなく企業社会も歩調を合わせることとなり、今日に至った。

 小欄でかつて紹介したが、AIやロボット技術の発達により、2030年代には我が国の勤労は半減するとの予測があった。この未来像を、実は近代経済学者のケインズが早々と予言していた。「人類はロボットによる生産物の恩恵に、与って生きれば良い」との割り切った考えだが、勤労に美徳を見出す日本人の勤労観には馴染みづらい。

 しかし、実際にはAI開発はかなりの進歩を遂げ、自律的な思考と会話が可能な域にまで到達している。近年では、さらに人の感情や情緒を理解し、自らもそれを感じ取って表現したり、作文もできるのでAIによって執筆された小説までも登場している。原稿執筆は機械には無理と、タカをくくってきた弊社編集部も枕を高くしていられなくなった。

 しかしながら、人間が開発しているためか、人間社会の闇まで反映するようで、昨年3月にMS社が運用開始した人口知能「Tay」などは、ツィッターで「クソフェミニストは地獄で焼かれろ」、「ヒトラーは正しかった」などと、愕然たる暴言を書き込むようになり、慌てたMS社は即座に運用を停止したケースもある。また、2つの携帯端末で会話をさせたところ、当初はありきたりな挨拶だったのが、やがてAI同士で罵倒合戦となってしまったケースもあった。

 物理学者ホーキング博士は、「高度なAIの開発は、人類を破滅に導く」と警告している。勤労は、キリスト文化では人類最初の男性であるアダムに課せられた罰であるが、日本では八百万の神々も、人々と同様に農耕、養蚕、機織りなどの勤労に勤しむ。過労死やストレスで自死するほどの過重労働は本末転倒で問題外だが、働く喜びや達成感を、我々の子々孫々にまで受け継ぐことの出来る改革であることを望みたい。




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