October.2009

 今年度の補正予算の執行率は約46%で、未執行予算額は8兆円とのことである。新政権となった鳩山内閣が、いち早く民主党カラーを国民に示すため、これを財源として利用しようとするのは当然だが、そこには景気循環を生み出すメカニズムが見えない。
 とりわけ、子供手当の支給や農家の所得補助など、個別世帯へのバラマキ公約がマスコミをにぎわせる一方で、八ツ場ダムや川辺川ダムの中止といった公共投資の凍結を表明するなど、その政策の方向性はミクロ経済的で、個人消費の拡大を狙った印象がある。
 しかし、景況不安のために個人支出を控える傾向が強い情勢下で、そうした世帯補助が、二次的な消費や投資を生み出すことのない蓄財や債務返済に回る可能性は十分に考えられる。それでなくても、個人消費は直接的には雇用も資金の循環も生み出さない。そうなると、もはや景気対策ではなく、ただの福祉政策にすぎず、しかも個人世帯への直接支給という手法であれば、来年に控える参院選に向けた有権者への買収とも言える。
 そもそも福祉だけで国家を運営していけるだろうか。その財源を、省庁組織の縮小と官僚定数の削減や、出資団体の整理だけで確保し続けられるだろうか。新たな財源として期待される環境型ビジネスや産業も興りつつあるが、従来の産業に取って代わるべく産業革命を目指すにしても、それが国家経済を支える基幹産業となり得るまで、財源は保つのだろうか。  経済は国家、企業、家計のバランスがとれてこそ健全に維持される。自民党政権下では、主たる資金源と票田が企業社会であったために、財界優先の政策路線であった。しかし、景況不安を理由に、企業が家計を斬り捨てて自己保身に走ったため、かつての投資ブームの折りも家計にまで行き渡る真の景気回復には至らず、一部投資家や企業だけがぬか喜びをする砂上の楼閣で終わった。
 このとき政治が行うべき役割は、資金循環を促す指導・規制などの誘導策と、より強力な所得再分配政策による利害調整役だったのだが、実態としては不透明な政治資金や一部官僚による公費流用など、いわば家計に還元されるべき国富を、国家と企業だけでこっそり分け合う構造が露呈してしまった。これが有権者の政治・行政への不信を招き、自民党離反を促した。
 そこにつけ込んで大勝した民主政権は、転じて国富を家計に還元させることを声高に喧伝しているのだが、5.7%と発表されている失業率を抱えたまま、国民を生涯養い続けるなどは到底、無理である。今日、明日の糧に困る人々への一時的な緊急保護は必要だが、それが常態化するのは、国家として正常な姿ではない。いち早く就業率を高め、一人一人の勤労者が事業所から十分な収入を得て、消費、納税、そして子弟の育成・教育を行える自活した有権者の集まりとなってこそ、国家であろう。
 補正予算の組み替えにせよ、新年度予算の編成にせよ、来年の参院選を気にして選挙民の顔色を窺うあまりに、公共投資を含め失業者が納税者として自活するための足がかりとなる予算を排除し、景気対策でなく家計保護偏重の配分とするなら、民主党の経済政策のブレーンとされる榊原元財務官の言う「鳩山不況」が訪れるのは、時を待たずして明白である。



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