MARCH.2013

アベノミクス効果で円安株高が進行し、対ドルレートは93円、平均株価は12,000円を窺う状況が続いている。これを反映して、トヨタ自動車は世界市場のシェア1位を奪還し、ローソンでは従業員の昇給を発表するなど、各種企業の業績回復が見られ始めている。本格的な景気回復は個人消費が回復してこそだが、庶民にいつ、どのように浸透していくのかが問題だ。

 エコノミストの観測では、企業が業績回復によって景気回復を確信してから、3年後にようやく設備投資、人員拡充、昇給に踏み切るとの見解が聞かれる。だが、その間に企業経営陣や出資者や投資家ばかりが富裕になっても意味はない。低所得の庶民である一般勤労者の勤労所得が上がり、インフレにともなう価格上昇があっても個人消費が回復してこそ、真の景気回復と言える。

 本年1月の経団連による新年賀詞交換会では、「政府の景気対策ばかりに任せず、我々企業も努力すべき」との心強い発言も聞かれたが、現実には今年の春闘でもベア要求に対してはゼロ回答となっている。しかし、社内留保総額は260兆円と発表されており、金融指標にも景況改善が表れ、それに基づく企業業績の上方修正の発表が相次いでいる情勢から、企業側にとって春闘は踏み絵となっている。春闘に臨む連合にとっても、追い風が吹く格好で、全力で支持していた民主政権下ではなく、敵陣営である自民政権によって順境がもたらされるとは皮肉な話である。

 こうした情勢で、さらに麻生財務相からは2月に行われた閣議後の記者会見で、「経営者のマインドとして、内部留保を給料に回す配慮があっても良いのではないか」との発言があった。「三本の矢」を以て景気対策に全力を挙げ、雇用拡大、昇給を行った企業に対する税制優遇措置までも用意した政府による、この発言は企業側にとっても強いプレッシャーとなるだろう。

 ただ、帝国データバンクの調査発表では、新年度の賃上げを予定している企業は39.3%で、前年度比1.8ポイントの微増に止まった。円安株高は海外資産の保有率が低く、国内生産が中心で、販売は海外市場の比率が高い企業には有利だが、それに該当しない中小企業にとっては、まだ本格的な業績回復が実感されていないのが現実で、66.9%が「業績低迷」を昇給ゼロの理由としていた。

 企業経営は経営者の裁量に任されるので、政府介入は容易な話ではないが、今後は政府も自治体も公共調達による直接取引が行われる場合には、適正利潤の一定比率を人件費に充当するなどの契約規定を設けることで、企業経営者の背中を押すこともできるのではないか。




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