May.2006

 かねてから豪腕で鳴る小沢氏を党首とする新体制でスタートした民主党は、政権党である自民党も危惧するほどマスコミの寵児となり、新政権ブームを起こしそうな勢いを見せ、若気の至りの軽薄軽率を絵に描いた偽メール問題の珍騒動などは、すでに忘却の彼方へと過ぎ去った感がある。しかし、民主党が本気で政権党を目指すならば、まずは非自民、非小泉政権としての民主党としての思想的正体を、国民に分かりやすく解き明かして提示することが必要だろう。
 自民党のイデオロギーは、言うまでもなく政治的にはデモクラシーで、経済的には資本主義だが、厳密に言うなら純粋なアメリカ型資本主義ではなく、社会主義的計画経済を含めた修正資本主義というべきものであった。この修正資本主義は、ある意味便利な体制で、競争主義と保護主義が混在し得る中庸的にして曖昧な性格を持っている。このため、都合の良い部分では市場競争に任せつつ、それ以外では護送船団方式がまかり通ることとなり、これが業界と政官の癒着や、官界の天下り構造、あるいは一部業界の甘えの体質を容認してきた。
 小泉首相が「自民党をぶっ潰す」、「構造改革を断行する」と豪語したその言葉に先にあったのは、特殊法人改革による天下り構造の解消と、それによって自民党の伝統的体質とも言い得る諸業界と癒着した金権政治体制を潰すことで、完璧とは言えないまでも、長年温存されてきた既得権益を解体することにあったと言えよう。
 この結果、規制緩和が進み、新興企業の既存市場への新規参入や、新規ビジネスの台頭を容易にする仕組みが構築されたと言える。ただし、その背景には軍事的依存度の高い米政府からのプレッシャーに屈した結果であり、そのために日本も修正資本主義から弱肉強食のジャングル資本主義へ突入せざるを得なくなった事情は、念頭に止めおくべきだろう。
 しかし、それによって知力と意欲ある者は成功して富を手にするが、それに乏しい弱者はニートとなり、旧来の既得権益に依存してきた者は、リストラされてドロップアウトし、貧困層へと転落して格差社会を作りだしたとも言える。日々、ニュースを見ると、格差社会の中で路頭に迷った挙げ句の果てと思われる悲劇や事件が報じられない日はない。
 そうした格差社会の是正を目指し、小泉自民党政権に交代しようとする民主党は、何をもって違いを明確にし、国民のための有用性をアピールするのかが問題である。単に小泉政権が提案した政策、法案、改正案に反対しているだけなら、共産党と変わりはない。また、それらに対して、異論を唱えて代案や個別的なマニュフェストを提示しているだけでは、単なる人気取りの対症療法でしかなくなる。イデオロギーに基づいて体系化されていない場当たりの政策は、長期的展望が持てないために合理性が乏しく、いずれは行き詰まって破綻するものである。
 肝心なことは、自民党、社民連、社会党右派の三派が無理矢理に合体し、トロイカ体制となった民主党として、まずはどんなイデオロギーを標榜し、それに基づきどのような政策を展開し、どのような経済循環を構築して国民の最小公倍数的幸福を実現しながら、同時に加重債務となっている国家財政を再建していくのか、その具体的な道筋を示していくことだろう。これが見えない限りは、金権政治の匂いが抜けきれない小沢民主党に対する漠然とした期待感は、単なる期待感で終わることになるのではないかと思われる。


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