JULY . 2018

路地裏問答

 新幹線の建設工事発注を巡る、大手ゼネコンの談合が摘発されたことは記憶に新しいが、それを受けてか公正取引委員会は、昨年12月に行った全国の発注機関を対象とした官製談合防止に関する実態調査の結果を、この6月に発表した。受注者側である建設業界は、公共事業批判を再燃させないためにも、この調査結果を厳粛に受け止めるべきだろう。

 公取委の発表によると、過去10年間で官制談合が発覚した発注機関は81団体で、防止策としては、国、都道府県、政令市の70%以上が、発注部署に同じ職員を配置しないなどの対策を行っていることが分かった。ただ、人口が5万人未満の地方自治体では、人員に余裕がないためか、20%程度に止まっているという。

 建設事業は、規格品を量産するメーカーの生産行為と異なり、全てがオーダーメイドであるから、本来は適切な技術を持った企業を選別し、実勢価格に見合った適正価格で指名発注すべきであるが、財源が公費である以上は、公正取引のため一般競争入札は必須でもある。したがって、談合行為はそうした公費たる国富を私物化する行為であるため、社会の視線は厳しい。

 建設業界は、ここでかつて小泉政権から民主政権までの下で、国や全国自治体が公共事業予算を大幅に削減し続けた過去の苦しい体験を思い出して欲しい。予算削減の原因となった公共事業批判は、なぜ起こったのか。政権としての政策的思惑もあっただろうが、最大の要因は、全国で談合行為への摘発が相次いだことが切っ掛けだろう。

 バブル崩壊を受けて、政府も自治体もデフレスパイラルを避けるべく、マクロ政策として所得再分配に貢献する公共事業を続けていたが、建設業界は工事件数が減少傾向にある動勢から将来展望を懸念し、談合で保身を図った上に、発注者側が期待する所得再分配には背を向け、経営資源として私物化する傾向が見られたのである。公費の社会的循環が発生することなく、建設業界で止まってしまったのでは、景気対策の意味はなくなる。これでは国民が怒るのも無理はない。

 民主政権では「コンクリートから人へ」のスローガンが掲げられた。これは、まさに公共事業から福祉へと、政策のシフト変更を示すシンボリックなスローガンである。こうした小泉政権から民主政権までの長期にわたる政策転換が、どれほど建設業界に打撃を与え、惨状を呈したか。

 幸いにして、安倍政権への政権交代により、公共事業は景気対策として掲げたアベノミクス第二の矢に規定され、保護されることになった。これによって、建設業界は未曾有の業績回復を果たした。しかも、相次ぐ震災から国土強靱化法が制定され、公共投資は今後とも政府によって保証されている。世界の投資家にとっても、これほど手堅い資金市場はないだろう。

 建設業界はこれに気を緩めたり、甘えてはならない。公共投資は、単に国土の安全度を高める本来の目的だけでなく、所得再分配政策としての側面を併せ持っている。ここでかつてのように、私物化する徴候を見せてしまえば、かつての公共事業批判が再燃する懸念も生じる。公共投資は人々の生命や財産とともに、経済も守る。まさに、多面的な意味で「コンクリートが人を守る」のである。




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