November.2009


 新年度予算の概算要求が出揃い、いよいよ鳩山内閣の友愛政策が数字によって具体化されてきた。総額は骨格予算であるというのに、史上初の90兆円を越える規模となったが、世界恐慌によるデフレスパイラルから抜け出るためには、やはりこれくらいは必要だろう。「福祉重視・経済後回し型」となることは予測されていたが、問題は経済成長への道筋で、これが見えないために企業人や勤労者は不安にかられてきた。しかし、鳩山首相の外交方針と考え合わせると、今後の成長戦略がおぼろげながら見え始めてきた。
 概算要求の内訳の中で、特に目を引くのは厚労省関連で、社会保障費の自然増のほか、子供手当や年金記録問題への対応などのために計4兆7,000億円が増加され、要求額は28兆8,894億円。移民を受け入れた経験がなく、村八分が大好きで国際的に未熟な国民性であれば、諸外国からの浸食を阻止するためにも、人口構成はピラミッド型に変えなければなるまい。産めや殖やせの人口増加策は必要である。
 文科省の文教政策においては、公立高授業料の無料化や奨学金拡充などのために、9%増の5兆7,562億円となっている。将来の夢と希望ある少年達が、やむなく高校を中退し、職もなく絶望して非行や犯罪に走るよりは良い。
 総務省は地方交付税の大幅な増額などにより、11%増の19兆6,934億円を要求している。地方と国家を支える納税者たちが、毎日のように職と収入を失い、過去最多のペースで樹海で首を吊ったり、埠頭から身投げしている時節柄、税収が減少の一途を辿る地方自治体には朗報だろう。
 反面、民主党と選挙民、大衆マスコミの仮想敵国とされている国交省は、14%減の6兆1,943億円で、農業基盤整備を行う農水省は6%減の2兆4,071億円。経済産業省は130の施策を廃止し、9億円減の1兆4,570億円に抑えている。企業社会にとっては冷たい数字で、「誰が稼いでいるのか考えろ」と言いたくなるが、“家族殺人を助長したのは、人間たる勤労者を粗末に扱ってきた大企業。それを代表する経団連会長は責任を取れ”という亀井金融担当大臣の批判も、また聞こえてきそうだ。
 こうした概算要求内容を単純に見れば、内政においては個人消費の刺激による内需拡大を狙っていることは明らかだが、企業社会の業績と景況回復については、鳩山首相の表明する東アジア共同体構想や脱米親中の外交方針からみて、中国、ロシア、インドなどBRIC4カ国の成長市場で実現すべく誘導しようとしているフシが伺える。実際に自動車メーカーは中国市場での業績回復を実現しており、建設業界も新興国への政府開発援助を通じて、大手ゼネコンが積極的に受注していくための誘導策がとられている。
 土工協(日本土木工業協会)など、建設三団体が発表した世界のゼネコン各社の海外売上高ランキングでは、07年の日本のトップは鹿島建設だが、世界ランキングで見ると13位でしかない。アメリカに次ぐ経済大国に成長し、国際機関への出資や後進国への開発援助においてもトップクラスの貢献をしている日本の企業としては、もう少し見返りがあっても良い。
 ただ、東アジア云々とはいうものの、中国とロシア、さらに韓国との間には領土問題があり、また中韓とは歴史認識を巡る対立がある。さらにはアメリカだけを恐れて、保護国の中国を軽視し、日韓とも対立する北の問題もある。それらの政治的課題は、対処を間違えば自由貿易の障壁ともなりかねない。特に、民主政治と市場主義経済の祖である英米が、金融工学によるカネ転がしで失敗し、グローバルスタンダードの不遜な威信を根本的に失っただけに、共産独裁政治と自由経済でそれに対抗してきた中国は、「それ、みたことか」と強気になっているだろう。そうしたとき、岡田外相が日中韓による共有歴史教科書の作成を表明し、歴史認識を巡る対立を回避する仕組み作りに乗り出そうとしているのは、それなりの意味があろう。春秋・戦国の時代から食客を養い、巧妙な外交戦略と術数を駆使してきた中国を相手に、どう対処するのか目が離せない。



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