July.2009


 前号では、景気対策の波及効果の希望的観測と、そのためには受け皿となる建設業界の対応が重要なポイントとなることを述べた。だが、業界事情を見る限りでは、その期待が薄いと思われる動勢も見え隠れして、今後への憂慮を禁じ得ない。民間投資が激減し、工事を発注した民間事業者の倒産によって、民間工事専門の建設業者の倒産が相次いだが、公共事業も受注する企業では、そのツケが公共投資に回されているフシがあり、それでも民間工事で生じた負債償還が滞って倒産する企業もある。
 長年、こうした業界に携わり、事情に精通したあるコンサル関係者は「経営者の認識不足と利己心」が、会社を潰す最大の原因と指摘する。それによると、工事受注金額の一部を受注企業の経営者がピンハネし、その残りで施工費や管理費をやりくりするケースが今なお見られ、自社を含めて関係業界の経営圧迫の原因になっているという。
 ただでさえ常識外れのダンピングによる不当廉売契約であるから、採算など合うはずがなく、しわ寄せは下請け施工会社や資材メーカー、重機メーカーなど、幅広い範囲に及ぶ。公共投資とは言いつつも、実態は関係業界が赤字による負債を増やすだけの公共消費でしかないというのが、昨年までの情勢であり、このため金融機関も不良債務を懸念しての貸し渋りが横行し始める。これによって、資金の運用が滞った関連企業は連鎖倒産に陥り、債権回収もできなくなるという資金の悪循環が生じることになる。
 政府も自治体も、そうした負の連鎖を断ち切るべく、赤字財政の再建を一時中断し、必死の財源確保と、昼夜を徹しての膨大な発注業務に邁進しており、またダンピングによる受注比率の低下を食い止める対策も講じている。このため、2009年以降の契約については、ようやく受注比率は改善しつつあり、しかも契約時点で工事金額の半額は前渡金として供与されるため、明日の資金運用に頭を抱えていた経営者は胸をなで下ろすことができる情勢へと変わりつつある。
 しかし、それを受ける企業のトップが、自分の分け前だけを確保したり、あるいは2008年までに行われた、狂った受注競争で生じた工事契約の赤字補填に充てるという状況もある。こうなると、景気対策は単なる特定企業の救済でしかなくなる。
 あるコンサル関係者は、「従業員が必死に会社を支えているのに、経営者はその家族一人一人が高級外車に乗り、南洋の観光地に不動産を取得したり、ゴルフ三昧の生活をしている者がいる」とあきれ顔で話しており、「中には自分の会社から資金を借用し、それを定年時の退職金と相殺するという厚かましいケースもある」と憤る。実際に、ある企業の社長室の金庫に保管された分厚い借用書を見たこともあるとのことで、会社の置かれた経営環境に対する認識不足と、自分だけが富裕に暮らせれば良しとする利己心に他ならないと指摘する。
 米政府によるGMへの資金救済が論議された際、GM社長の贅沢ぶりが批判され、それ以前には、我が国でも金融再編時に政府資金が投入された銀行の行員に対する破格の給与・賞与が批判された。景気対策のための公共投資にも、同じ状況が起こりつつあるとは思いたくないが、多くの経営者らが地域に貢献し、共に生きる企業としてどう役割を果たしていくかを真剣に考えている一方で、カンダタの如くに自分だけが蜘蛛の糸にすがって、血の池から救われようとする浅ましい手合いがいるのも現実のようである。



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