August.2009

 自民が大敗した都議選結果によって、政権交代劇のリアリティがいよいよ高まってきた。都議選は首都・東京都という一地域のローカルな選挙であって、人口密度が低く、都市構造や経済構造の全く異なる郡部や地方でも同じ結果となるかどうかは疑問視されるが、すでに名古屋市、静岡県、横須賀市、奈良市などの地方都市の首長選挙でも民主党が勝利していることから、国政選挙の帰趨もこれに同化するとの観測が専らである。
 自・公とともに社民党や共産党もほぼ議席を失った都議選結果を見た印象では、都民は自民党政権を見限る一方で、社会・共産主義に希望を託す気もなく、とりあえず政権担当能力の未知数な民主党の運営能力を試してみようとの民意が伺える。
 この結果について、自民党内では麻生政権の支持率低下に敗因を限定し、沈み行く泥舟から自分だけ逃げ切ろうとするかのような策動も見られ、まさに第5次吉田内閣の様相を呈しているが、そもそも麻生首相個人というより、自民党自体の支持率が下がっている現実から目を背けたいだけに見えるため、国民はますます愛想を尽かすという悪循環にある。
 都議選の結果が国民総意の最小公倍数であるなら、吉田茂孫vs鳩山一郎孫の戦果は、鳩山民主党に凱歌が上がるのは確実で、よほどの政変でも起きない限りは、長らく政治的弱者の立場に置かれていた北海道から、史上初めての宰相が誕生することになる。
 通常なら首相・閣僚ポストに選任された選挙区では、地域を挙げて万歳三唱を叫ぶのが通例だが、皮肉なことに北海道ではその限りではない。これまで武部勤、町村信孝、中川昭一などの北海道選出代議士が、外務、文部、農水大臣、官房長官のほか自民党幹事長、政調会長など、閣僚や党三役に抜擢され、さらに町村代議士にいたっては最大派閥の領袖ともなっているが、その背景は構造改革によって日本経済を英米に売り渡し、国内の社会・経済・モラルを崩壊させた小泉内閣の権謀術数によるものだったからである。
 小泉内閣の目論見は、金融資本で米金融経済を牛耳るイギリスと、原油需要と軍需の拡大を狙うネオコンを米政界に送り出したイスラエルに唆されてイラク派兵したアメリカが、日独韓の軍事的自立によって軍備費負担を軽減しようとする動向に抵抗し、あくまでアメリカの核傘下に収まり続けることにあったと分析されている。
 軍事同盟によって自国の軍備費負担を従来のレベルに抑える一方で、国債残高を減らすべく、年間予算において1兆円に上る北海道枠を排除しようとの心算が、道州制・地方分権・三位一体改革など一連の発議においては見え見えであった。それを執行する立場として、北海道選出の代議士を閣僚や党三役に起用したのは、アイロニカルな意味で見事な手腕である。北海道選出の代議士によって地元を斬らせるのであるから、本州選出の代議士が恨みを買うことはない。地元から恨まれ、票田を失うのは彼らである。まさに長銀解体の試金石として、北海道拓殖銀行を犠牲にした事例と同じ論法であろう。
 かつて自民・民主の党首討論で、郵政民営化をはじめ、福祉費も公共投資も全てを削減した小泉政権に対して、民主の前原代表が敵ながら賛辞を送るという異例の場面が見られた。これは小泉構造改革と民主党の政治理念が共鳴していることを意味する。その党首が、今は鳩山氏で、同じ愚を犯すことが懸念される。
 現在の自民党支持率の凋落は全国的な趨勢であって、北海道だけの話ではなく、長者を守護し貧農から搾取する「生かさず殺さず」の犬公方・綱吉的政策に、全国民が怒った結果である。落下傘代議士とはいえ、北海道選出の鳩山首相(未来)が、それを踏まえて活力と秩序を失った日本の経済・社会をどう建て直すのか。その財源対策のために、官僚が守る鉄壁の霞が関城を相手に、どんな攻城戦を展開するのか、見物である。



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