October.2007

公共事業の激減で、土木を専業とする建設会社の将来は、今や悲観的にしか展望されなくなった。公共投資額がバブル期の半分以下に減少すれば、当然、市場規模も半分以下であるから、産業規模も半分以下でなければならない。しかし、政府のテコ入りで進められた金融ビッグバンとは違って、建設ビッグバンは思うに任せない。このため、自治体も含め国を挙げてソフトランディングの大合唱だが、これまで土と木を手にして生きてきた土木会社に、いきなり食材や布生地、紙などを持たせたところで、おろおろするばかりである。

一方、法人制度改革に伴い、個々の建設会社を束ねながら支えてきた同業者団体の解体も始まりつつある。かくして、建設業界は従来の体制が崩壊するとともに、新たな形態へ再編される局面を迎えつつあり、我々は一つの産業の歴史における転換点に立ち会うこととなった。

そこで、そうした公共土木を専門とした企業のソフトランディングの道と可能性を探る中で目を引いたのは、早川工務店の取り組みである。本社は札幌にあるが、自社開発した鉄筋コンクリートを戸建て住宅に応用したRC-Z工法を普及させるべく、千葉県に独自の研修施設を持ちながら全国展開し、同業者・異業者を問わず、広く参入を呼びかけている。戸建て住宅に鉄筋コンクリートを用いたのは、全国でも同社が初めてで、地域に30,000人の人口があれば、14、5人体制の企業は経営可能であると、同社の早川義行社長は太鼓判を押す。秘訣は資材単価が安い上に施工が簡単で、人件費負担が軽く済むところにあるという。ただし、このビジネスに参入する場合、在来工法に長年携わった同業者よりは、異分野の土木専門会社の方が成功率は高いという。在来工法の先入観を持たないことが強味らしい。

阪神大震災や中越地震などの被災現場で、脆くも倒壊した木と紙で作られた古典的な住宅を見るにつけ、鉄筋コンクリートの高い耐久性と耐火性の利点が浮き彫りになる。地域住人の生活の場が奪われ、転居を強いられることにもなれば、地域の崩壊につながる。とりわけ木造密集地域などは可燃物の集まりで、地域が丸ごと燃料庫のようなものであるから、近隣地区にとっても脅威である。それだけに、地域の安全を考える上では、こうした防災性能を各世帯が持つことは重要である。

ところが、同社長はかつてこの技術を公共建築に応用しようと試みるも、在来工法をスタンダードとし、新規の特殊工法を採用したがらない行政の壁にぶつかる。誰もが施工できるのであるから、特殊工法ではないはずだが、特定企業への利便供与を避けようとする行政の公益的発想が、新規工法を阻む壁となって立ちはだかった。同社長は、守旧派の保守性と、新工法による革新性との対立という構図として捉えており、新工法を否定するのは技術革新の否定であり、進歩を否定することになると悔しさをにじませながら強調する。あらゆる科学技術や社会システムの発展の足跡を鑑みるとき、この主張の正当性はいまさら疑う余地はない。

小泉政権以降、我が国は経済も社会もシステムが改革され、従来の枠組みにこだわって居残る者は、ことごとくドロップアウトさせられてきた。この流れは、現政権であろうと野党・民主党へ政権交代しようと、変わることはないだろう。従来の旧いスタンダードにいつまでも拘っていたのでは、行政といえども取り残される。改革の取り組みが遅れて破綻することの脅威は、なにも夕張市に限った話ではないのである。


過去の路地裏問答