April.2011


 東北・関東を襲った大地震と津波、原発事故により、日本は世界にも例を見ない被害を受けている。本誌としても多くの被災者に対して、衷心よりお見舞いを申し上げ、一刻も早いショックからの立ち直りと、地域の再建が果たされることを心から願ってやまない。
 政府による推計では、被害総額は25兆円と見られているが、さらに民間レベルの取り引きに係る経済的損失を含めると、現実はその程度では済まないだろう。死傷者なども万単位に及び、まさに戦争のような状況に近い。
 そうした惨状にあってもパニックに陥らず、暴動も起こさない被災者の冷静さと礼節には、世界が驚き賞賛した。原発事故にともなう節電で、出勤も帰宅もままならない状況に、文句も言わずに行列をなして乗車の順番を待ち続ける日本人の忍耐強さを、驚きと賞賛を込めて報道している。その一方で、被災地でない地域の住民が買い占めに走るといった軽挙も見られたのは残念である。被災者らの犠牲と悲しみを越えた節度によって、改めて高まった世界的評価を、被災地にいない者が落とすのでは被災者に申し訳ない話である。  アメリカに次ぐ巨額の出資額を以て国際機関と国際社会に貢献してきた日本が、よりにもよって世界で最も甚大な被害を受けるとは皮肉な話である。ここに至っては、尖閣諸島を奪おうと牽制し続けてきた中国も、竹島を奪おうと対峙してきた韓国も、北方四島を占拠するロシアも、さすがに反日政策どころではなくなった。韓国は、最も近い隣国の危機に、一番乗りで救援に動いた。中国では四川省地震での日本の支援に対する恩恵を思い出し、今こそ恩返しの時と救援の手を差し延べ、ロシアも後れを取ることなく腰を上げた。こうした動向は、今後の外交にも作用するものと考えられる。
 中国内では、火山や山脈が多く、資源もなく平地も少なく恵まれない小さな島国でありながら、死に物狂いの努力で経済発展を果たした日本人の国民性を再評価する報道が見られた。ロシアの大衆紙でも、広大な大陸を占めるロシアの1%にも満たない北方四島に拘る必要性に疑問を呈し、無条件で明け渡すべきとする論説記事も掲載された。確かに、日本は地下の埋蔵物を掘って売れば暮らせる国土ではなく、大陸のように困れば余所へ移住して済むという広さもない。いかに不利で厳しい条件下に生きているのか、その現実を再認識してもらう機会とも言える。
 それでも、欧米のハゲタカ投機家は、原発事故の対応に追われる東電や、石油貯蔵施設が炎上したコスモ石油の株を売り飛ばし、生損保会社などが保険金支払いの準備に入ることから円相場が上がるとの予測につけ込み、ハイエナのように円買いに走った。見かねたG7が市場介入することで、辛うじて追い払った格好だが、それこそセリーグ開催に苦言を呈した星野監督ではないが、「空気くらいは読め」と言いたいところである。
 今後の再建・復興の道のりは、敗戦後の焦土で日本がどのように生きて、巻き返したのかを、グローバル化した世界に示す好機ともなるだろう。そして、そのためにはインフラがいかに大切であるのか、国民は改めて気付くだろう。被災地では水も食糧も暖房も乏しい窮乏生活を強いられ、医療体制が不完全であるために、せっかく救助されたのに避難所で命を落としてしまう痛ましい事例が見られる。現実には物資も水も灯油もあり、ボランティア活動の善意を持った篤志家もいるのに、それが現地に届かないというもどかしい状況である。そして、その原因は道路、鉄道など流通経路の破壊にある。
 これまで大衆受けだけを狙ったマスコミや学者と、大量得票だけを狙った一部政治家や政党によって無責任に流布された公共事業批判も、国民がそうした日本の国土の現実を再認識することで、デマに気づき眼が覚めることを期待したい。




過去の路地裏問答