MAY.2013

4月18日付時事通信社の配信記事によると、政府の経済財政諮問会議が「日本型資本主義」を議論する専門調査会の設置を決めたという。議長を務める安倍首相は「自由な競争、開かれた市場を重視しながらも、道義を重んじ真の豊かさを知る日本らしい資本主義を追求する」と説明したとのことで、その決定の背景には、米ベンチャー投資専門会社「デフタ・パートナーズ」を運営する原丈人会長兼最高経営責任者(CEO)の発言が、大きく影響したと見られる。

 記事によれば、原会長は「会社が株主だけでなく従業員、顧客、地域社会に貢献することで企業価値を向上し、中長期投資で技術革新や新産業を生む」と主張し、「日本型資本主義」の確立を説いたとのこと。この主張は、大幅な規制緩和による構造改革以来、日本の企業社会が置き忘れてきた大切なものを思い起こさせてくれる。

 小泉政権下で経済財政政策担当大臣、金融担当大臣などの要職を務めた竹中平蔵氏による構造改革の結果、日本は新自由主義を標榜し、全てを自己責任で片づける個人主義が蔓延した。企業も個人も英米型自由競争に突入させられた結果、日本企業はコスト削減に狂奔せざるを得なくなり、日本らしい独自の企業風土であった家族経営、終身雇用、年功序列といった旧来のシステムは崩壊し、こぞって個人商店化していった。

 老舗のステータスもどこへやら、ひたすら株主への配当に追われる資本奴隷へと身を落とし、社内留保を確保すべく生産拠点を低賃金の国外に移転し、国内の産業は空洞化が進んだ。国内にあっても業績に見合った賃金への反映はなく、長時間のサービス残業が常態化し、それでいて身分保証もなく、中には「名ばかり店長」などと、業務責任と待遇が極端に不均衡な、異様なケースまで見られるに至った。

 かくして国内は失業率の上昇と所得の低下をもたらし、かつてGDP2位を誇った日本の順位は大きく後退し、貧困による治安の低下をもたらした。コンビニ強盗が頻発し、電話一本で高齢者の老後資金を奪う詐欺が横行し、家庭内での親族殺人も多発するなど、かつて見られなかった異常事件が発生するようになった。

 世界で最も高い治安と秩序を誇った日本社会の、あまりの変貌ぶりに、当時、自民党幹事長だった亀井静香氏は経団連会長に向かって「日本社会が狂ったのは、あんた方の責任だ」と批判した。企業ばかりに責任を押しつけるのも酷な話ではあるが、かつてのように経営陣と従業員が家族のように結束し、地域に貢献しながら地域とともに成長し、地域住民の賞賛と信頼を得ながら業績を上げ、企業のステータスを上げていくという日本の伝統的な企業風土が崩れ去ってから、世相が乱れたのは確かである。

 この大きな要因は、英米型新自由主義の強引な導入にあったと言えるだろう。労働を天罰と解するキリスト文化の英米型企業風土と、労働を神聖な日々の営みと解する日本の企業風土は、そもそも相容れないものである。かつて、ルックイースト政策で日本を手本に学んでいたマレーシアが、その対象を変更したのも、こうして崩壊した日本社会には、もはや学ぶ価値が無くなったからだろう。体質の合わない英米型経済思想によって生じた社会の歪みを正常に戻すためにも、日本は日本の歴史、文化、風土にあった経済思想と経済モデルを確立すべきだろう。それは主権国家としての、自立の第一歩でもある。




過去の路地裏問答