来年度からの消費税率の扱いについて、政府は4月から6月までの経済指標を元に判断するとしている。しかし、4月〜6月はアベノミクスがスタートしたばかりで、実体のない円安株高の数字が踊っただけである。
財務省が8月19に日発表した7月の貿易統計速報では、貿易収支が1兆240億円の赤字だった。輸出は円安効果により、前年同月比12.2%増の5兆9,620億円で、5カ月連続の拡大とはなったが、赤字収支は13ヶ月連続で、日本はまだまだ本来の貿易大国の姿に戻ったとは言えない。
海外市場を持つ輸出大手企業では業績が回復し、今夏の賞与がプラスとなったところもあるが、国内需要を中心とする中小企業は、円安にともなう燃料・資材の高騰による打撃を受けている。これは庶民の消費生活も同様であるため、庶民に景気回復の実感がないのは当然だ。
転じて、建設業界では、前年度末の大型補正予算と今年度事業予算の執行で、大手ゼネコンの受注実績と景況感は回復傾向にあるが、政府直轄事業の受注が困難な地方建設業者には恩恵が薄く、アベノミクス効果は行き渡ったとはいえない状況にある。
このため、自民党の公共工事契約適正化委員会事務局長を勤める脇雅史参院国体委員長は、発注者は発注契約後も元請けと下請けとの民間取引に積極的に関与し、不当な契約を排除することで、アベノミクスの効果を適切に発揮すべきと主張しており、そのために発注者の権限拡大と、法的根拠の確立を目指す方針を発表している。
そして、建設企業の経営安定化のため、発注量を平準化すると同時に、工事公告をすれば必ず企業が飛びついてくるものという傲慢な発想を改め、建設業者の事情に配慮する姿勢を持つべき、と訴えている。
好況により民間同士の取引が順調であれば、政府の介入は不要だが、長らく公共事業予算が削減され続けた上に「コンクリートから人へ」の主張により、不当に弾圧を受け続けた建設業界では、アベノミクスに対してはまだまだ懐疑的で、警戒心やガードは堅い。自己防衛本能から、実勢に合わない契約の可能性は捨てきれない状況にある。
失われた20年が経過し、かつてのバブル景気の皮膚感覚を忘れたり、若い世代では好景気そのものを知らずに社会へ出た人々もいるのが日本社会の現実である。建設業のみならず、一般庶民に至るまで、デフレ不況に慣れきったムードが一掃され、好況の高揚感から増税に抵抗感を感じなくなるまでは、景気を先食いし税収を先取りするような政策は、控えた方が無難ではないだろうか。
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