August.2007

有毒健康食品、毒入り歯磨き粉、段ボール肉まん…中国での耳を疑うような詐欺商法が、次々と明るみに出ている。自分は口にしないものを他人に平気で売りつけるというあこぎさに、開いた口が塞がらない。万博、五輪などの国際イベントを控えているが、明るみに出なければ、そのまま世界に毒を売りつけるつもりだったのだろうか。義理堅い生き様と、敵に屈しなかった潔い死に様から商売の神様として各地に祀られる関公が聞けば、なつめ以上に顔を赤くして嘆き怒るだろう。詐欺商法は中国に限ったことではない。トリインフルエンザに罹患した鶏を出荷していた浅田興産や、腐敗肉を売りさばいていたミートホープなど、未必の故意の大量殺人となりかねない犯罪が、我が国でも次々と判明している。

何が彼らをかくも大胆にして陰湿な犯罪に走らせたのか。簡単に言えば、消費者のデフレ志向だったといえるのではないか。小欄で以前に書いたが、「安くて良いもの」という幻想を過度に追求した結果として、当然起こり得る詐欺といえるだろう。企業活動は奉仕活動ではないのだから、適正な利潤がなければ継続できるはずがない。したがって、高品質を望んでいながら安価を追求する消費者の虫の良い要求に応えるには、どこかにしわ寄せをしなければならなくなる。

よって、合理的に説明のつく安さであれば納得できるが、それが説明されないようであれば、まずは疑ってかかる方が良い。安価の秘訣には企業機密もあるが、いざというときに説明責任が果たせない企業は、信頼できる企業と言えるのかどうかだ。この点を考慮せずに、単に安価であることで飛びつけば、「安物買いの銭失い」となるのは、経済だけでなく自然界の法則と心得た方がよい。

これは公共事業においても、民営のマンション・住宅・オフィスビルにも言えることである。姉歯事件や浅沼建築士の耐震強度の誤魔化しなど、本来は信頼すべき建築設計士による詐欺が判明した衝撃は、いまなお続いている。騙された多くの消費者は、一生をかけて支払う財産が水の泡となり、後には重い負債だけが残った。公共事業においては、工事を発注し、完成した構造物を管理運営する行政や、さらにその原資たる税金を納税した国民がツケを背負うこととなる。折しも、新潟県でまたも大地震が襲い、人命と資産が損なわれ、地震大国・日本の構造物は他国以上に強度が重要であることを改めて思い知らされた。それだけに、常識外の低価格入札で施工される現場に対しては、特別に厳格な監視体制が必要で、重箱の隅をつつくような入念さと、場合によっては同業者からの告発が望まれるところである。

資源が無尽蔵にあるなら話は別だが、どんなものにも量的限界があるからこそ価値が設定されるのであって、これを無視して無駄遣いをすれば、それは地球破壊である。企業は市場を独占し、消費者は応分の負担無くしてモノを得たがるというエゴは、姑息とはいえある意味自然な願望とも言えるが、こうした大局眼を持たずにバランスを欠いた経済活動を行えば、いずれは我が身に報いとなって返ってくるものである。因果応報にして、また巡るものであることを各自が自戒すべきだろう。


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