建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年4月号〉

基調講演(平成23年3月7日)

地域再生フォーラムZ ―― 社団法人 空知建設業協会

基調講演 公共事業が地域を救う

講師:京都大学 都市社会工学専攻 教授 藤井 聡


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 ところがデフレーションの時は、お金を持っていたら得になるから、みんな溜め込むのです。それと同時に借金があったら、早く返そうというインセンティヴが働くのです。経済学的に考えると、みんなが投資しなくなるのです。すなわちデフレの時代においては、人々が消費もしなくなるし、法人は投資もしなくなるわけです。それを通じて、みんなの給料がどんどん減っていくのです。それで、GDPは減って税収が減るのです。それで失業者が増えて、みんなが貧しくなる。こんな病気を患っているのは、日本だけなんですよ。
 大恐慌というのが1929年にありましたが、あれからデフレになった国というのは、日本が初めてなのです。何故かというと、デフレの対症法が分かったからなのです。ニューディールというのをやりましたね。要するに、そういう時はものすごい大量の公共投資をやったら良いんですよ。誰もお金を使わない、誰も投資しないという時は、国の一番の大旦那であるところの政府が「じゃあ、この橋を買おう」とか、「ここのダムを買おう」、「ここに大きな田圃を買おう」とか、「何百万ヘクタールの何かを買おう」などと政府が買っていくわけです。クルマのレクサスを100台買ったところで、ダムに比べたら大したことはありませんからね。
 ですから、一番大きな買い物というのは、インフラを買うということなのですよ。それを買えるのが誰かと言えば、政府ですよ。地方でも国でもどちらでも良いです。それをやると需要が増えるのです。需要が増えると、このスパイラルは回らなくなって、景気が回っていくのですよ。これがデフレ脱却のメカニズムなのですね。
 それで、そのせいでどうなったかと言うと、先ほど申し上げたように、小泉チャンが日本に君臨するまでは、日本は羽振りが良かったのです。1985年の日本は、世界の名目GDPでアメリカがこれぐらいだった時に、日本は2倍くらいで、中国などはまだ見えるか見えないかですよ。この時代というのは、日米欧以外のその他が全部束になってかかっても、欧米には勝てなかったのです。そんな時代がありました。
 ところが、そこから10年経って、ちなみにバブルがここで崩壊するのですが、崩壊した後も日本はその頃はまだ政策担当者がきちんとした「常識」を持っていたので、きちんと公共投資をやっていたのです。やったので、またGDPは伸びたのです。ご覧下さい。アメリカのGDPの7割にもなっているのです。日本の人口はアメリカの半分以下ですよね。アメリカは2億5,000万人で、日本は1億2,000万人ですから。人口はアメリカの半分以下なのにGDPではアメリカの7割にまで来ているわけです。つまり、日本の方が強かったわけです。日本というのは滅茶苦茶に強かったわけです。
 ところが、そこから純チャンが君臨されてですね、日本人はジュリアナトーキョーになったわけですよ。日本全体が「公共事業いらねーぜワーワー」とやっていたわけですよ。とにかく農業も全部ぶっ潰せというような、まるで「アナーキーin the UK」のようになってしまったのです。  で、小泉純チャンの構造改革は何かと言うと、ずっと需要がしぼむデフレの時代に、供給を増やしたのです。構造改革というのは供給を増やすことです。タクシーの規制緩和というのは、彼がやったことですよね。橋本さんの頃からあった話ですが、小泉さんの頃から徹底的に決めたわけですね。それで徹底的に規制緩和をして、とにかく自由主義万歳みたいに供給をガンガン増やしたわけです。そんなことをしたら、デフレギャップがもっと酷くなって、デフレが進行するに決まっているのです。しかも、彼は公共事業関係費をガッツリ減らしたのですよ。
 例えば、デフレという火事があったとしましょう。その時には、水をかけなければいけないのです。その水をかけるというのは、公共事業を増やすことです。そうすれば、デフレは収まっていくのですね。ところが、公共事業を減らすということは、水を減らすということですから、火が強くなるわけで、さらに小泉の純チャンは構造改革で供給を増やすということですから、さらにガソリンをまいているわけですよ。水を減らしてガソリンを増やすのですから、それはデフレが進行しますよ。これで進行しなければ、また清水の舞台からパラシュート無しで、5回くらい落ちても良いですよ(笑)。どう考えたって、デフレが進行するのです。
 それで、どうなったかと言うと案の定、こうですよ。見て下さい。中国はもう皆さんご存じの通りでしょうが、アメリカもヨーロッパも全部名目GDPは増えているのです。95年から増えていないのは日本だけですよ。そのせいで毎年1万人が余分に死んで、建設産業はいっぱい潰れて、いろんなところで失業者が溢れて、牛丼しか食べられない、あるいは週に一回、牛丼だけが楽しみというような国民が増えて、それで就職口がなくなって、今の20代の若者の失業率は8%くらいですよ。しかも、大学を出て就職が決まっていない人が、確か3割か4割もいるのですよ。もうアホですよ。
 だから、今こそやるべきは「規制強化」なのですよ。供給が多すぎて牛丼状況ですから、もう牛丼屋を増やすなと。それと同時に、需要を増やすために「おっちゃんは大きいダムを買ってやろう」とか「道路を買ってやろう」とか、大きい政府が出てくるというのがニューディールですよ。
 さらに言えば、アメリカが行っているように、紙幣を増刷して配るのも大切なのですが、これは買いオペレーションというもので、FRBが赤字国債を買うのです。買えば市場に多くのお金が流れて、景気が良くなるという説があるのです。そうしたことを徹底的にやるべきなのです。
 ところが、日本は全部やっていないのです。日本がやっているのは規制緩和で、規制仕分けによってもっと緩和しようとしているわけです。こんな状況で、ベトナム人で1万5,000円の労働者を受け入れようという話をしているわけですよ。自殺したがっているわけですよ、ハッキリ言って。自傷症のティーンエイジャーの女の子のようなものですよ、日本人全員が。ジュリアナの次は中学生かという感じで無茶苦茶です。それと同時に公共事業も減らして、もうまったくもって、メッチャクチャなんですね。
 それで、1995年の時は日本のGDPが18%もあったのに、今や8%なのです。たった15年前までは皆さんにもあった、日本は大国だというイメージが、今はもうないのですよ。こちらは2008年ですが、これはまだ日本が中国よりも勝っていますが、これはもう逆転されますからね、今もうすでに。日本が7%、中国が8%にぐらいなったら。その間、アメリカは2%しかシェアを落としていないから、ほとんど変わらないのです。ヨーロッパに至っては同じなのです。


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