建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年4月号〉

基調講演(平成23年3月7日)

地域再生フォーラムZ ―― 社団法人 空知建設業協会

基調講演 公共事業が地域を救う

講師:京都大学 都市社会工学専攻 教授 藤井 聡


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 大企業というのは何か。メディアのスポンサーになれるくらいですから、無茶苦茶にでかい会社です。どんなところか。輸出企業です。
 彼らは、日本の国益はあまり関係ないですね。なぜか分かりますか?例えば、アメリカ向け輸出のクルマ。実は、日本企業がアメリカに売っているクルマの三分の二が現地生産なのですね。ホンダに至っては7割か8割ですね、確か。だからすでに、グローバルな大企業の利益というものと、日本の国益というものは乖離していて別なのです。むしろ、グローバルな大企業にとって有り難いのは、日本のデフレがもっと進行することです。なぜか。日本の企業が悩んでいるのは、日本人の所得の高さです。日本人全員が1万5,000円(1ヶ月)しか支払われなくても文句を言わないようになれば、彼らは滅茶苦茶に喜ぶわけです。金払わなくて済むわけですから。これは経済学用語で労働分配率というのですが、それが低ければ低いほど大企業は喜ぶのです。
 ですから、彼らは日本の国益を損なってでも、自分の会社の利益を上げたいというのか、企業というのは利益を追求するものだと徹底的に教育されていますから、彼らには罪はないとすら言えるかも知れません。いずれにしても大企業というものは、今や日本人の幸せが無い方が幸せなのですね。恐ろしい話です。一体、こんな国に誰がしたのでしょうか、本当に許せない話です。
 だから、TPPに加入して輸出産業だけが儲けたいのです。差し引きして、日本が不幸になってもかまわないわけです。グローバルな大企業達にしてみたら。そして、輸出企業の方が株を持っているのがメディアですから、メディアの方々、今日も大手新聞社の方もおられるかも知れませんが(笑)、まぁ、そんな状況になっているのです。
 ですから、将棋で言うと我々はもう詰んでいる状況です。終わっています、ほとんど。今の政府は、3月中にTPPに加入するための規制緩和の方向を、ほぼ決定すると言っているのです。そのためにわざわざUSTR、アメリカの方も来られて蓮舫さんを中心に規制仕分けもやって、そこで規制も撤廃してTPP加盟のための下準備に利用しているのです。すごいですね、そうやって日本の農業を潰そうとしているのです。日本の農業だけでなく、日本の土木を潰そうとしているのです。
 それを通じて、日本の食の安全保障とか、あるいは日本人の安心な暮らしとか、土木というのは我々の暮らしの基本ですから、安心して暮らせる幸せな暮らしなどを放棄しても良いと思っているのですね、今の政府の中では。そのくせ、口では「コンクリートから人へ」、「私は、もうこれからコンクリートのように無駄なものを作らずに、人に優しい政府をします」と言っているわけですね。そう言っているのですけれども、やっていることは人殺しのようなものです、ハッキリ言って。いや、人殺しだとは断言していないですよ(笑)。人殺しみたいものです、と言っているわけで。何しろ、それで首を括っている人がたくさん出ているわけですから、明らかですよ。すごいです、今の日本は。
 この流れは誰が作ったかというと、ご存知でしょうか。小泉純一郎という方がおられましたね。彼はすごい男なんですよ。彼が、基本的にこういう流れを作ったのです。構造改革で徹底的にやったんです。彼は若い頃に、自民党にずっと苛められていたのです。自民党の田中派にずっと苛められていたのです。それでいつもウジウジしながら、いつかはぶっ潰すと思っていたのです。「お前ら、ふざけるなよ」と。そうして権力を握って、いよいよ自民党をぶっ潰すと。あれは自民党をぶっ潰すのではなくて、田中派をぶっ潰すということですね。それで、田中派をぶっ潰すためにはどこを潰せばいいか。もうお分かりですよね?旧自民党の主流派、これを誰が支えたか。農業と土木が支えたのですよ。地域社会の農業票と土木票で。だいたい農業の方はたくさんおられますし、しかも土木の方というのは、今でこそ9%くらいになりましたが、日本人の全雇用の14%あったのですよ。間接産業までいれたら、日本人の労働者の3割ぐらいが建設産業ですよ。そうすると、3,000万人から4,000万人くらいの人々が、建設産業に関係しているのですよ。直接か間接かに関わらず、3,000万人もの巨大な部分が自民党を支えていたのですね。若い方はご存知ないかも知れませんが、昔はそうだったのです。昭和の時代というのは、農業票と土木票です。建設産業票ですよ。それをガッチリ固めていたのです。それをぶっ潰したのです。
 覚えていらっしゃいますか?元々は1997年くらいですか、平成8年からそれぐらいに、日本の公共事業関係費は国家予算のなんぼだったか、覚えていらっしゃいますか?15兆円です。今は何ですか?去年5.8兆円で、次の予算だったらたぶん5兆円くらいでしょうね。三分の一ですよ。ちなみに、それをやったのは民主党ではないんですよ。小泉さんの時代から無茶無茶に減らしたのですよ。小泉さんの時代に、公共事業関係は半分になったのですね。これは何故かと言ったら、純ちゃんに個人的な恨みがあったのです。
 昔の統計では、日本人の自殺者は年間2万人だったのです。これは良くないですよ、2万人も死んでいたのでは。それが小泉の純ちゃんの時代になって、3万人になったのです。あの人の私怨で年間に1万人も自殺者が増えたのではないか、という解釈が成立するのですね。恐ろしいですね。で、小泉の純ちゃんというのは、口が巧かったですね。“痛みに耐えてよく頑張った!”。「何や、そのセリフ」みたいな(笑)。“自民党をぶっ潰す”ワンフレーズ選挙ですよね。「政策を語れ!」、みたいな(笑)。
 あの時、もし小泉さんでなくて、平沼先生が首相になられていたとすれば、日本の歴史は大きく変わったのではないかと思います。ですから、日本の政局というのは一人と一人の戦いで、どちらが負けるかで何万人もが自殺者として消えるか、豊かになるかという瀬戸際というのはあるのですね。本当に怖いです。でも、これが政治です。戦争をするというのも、決断をするのも政治ですからね。戦争をするという決断をしなければ、かえって皆殺しに遭うかも知れないし、戦争をするというブラフをかましたからこそ平和になったということは、今までの歴史の中でいくらでもあったわけで、政治とはそういうものなのです。
 ちなみに小泉の純ちゃんはそれをやって、しかもそこで一番、問題なのはあまりにも口が巧くて、バブルで浮かれた記憶をまだもっていた日本の国民も責任感が無かったのです。僕はもうさんざん本に書いていますが、心理分析では今の日本人がいかに幼稚かということで、いろいろとやっていますが、その話は置いておきますけれども、いずれにしても騙したとか騙されたという言葉は適切だとは思いませんが、その純ちゃんをみんなで持ち上げたわけですよ、日本人は。覚えていますか?小泉純一郎政権の内閣支持率。7割ですよ。無茶苦茶ですよ。僕は元から一貫して批判してきましたから。大体、イラク出兵なども徹底的に批判してきましたから。右翼の中でも左翼の中でも「イラクは行っておいた方が良い」と言っていた中で、僕は一人で批判していました。もっとも、今は右翼も左翼もないのですが、五十五年体制は終わっていますから。


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