建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年4月号〉

基調講演(平成23年3月7日)

地域再生フォーラムZ ―― 社団法人 空知建設業協会

基調講演 公共事業が地域を救う

講師:京都大学 都市社会工学専攻 教授 藤井 聡


7ページへ戻る   8ページ   9ページへ進む



 しかも、冒頭に申し上げましたように、世界的な経済の状況とか、アメリカの戦略の中に否応なしに、我々日本は巻き込まれているのです。その時には建設産業がダメになるだけではなく、我々が建設産業や農業をきちんとしないと、日本全体がこの大きなグローバルな経済の流れの中で埋没してしまい、それこそ国が滅びるような事態に陥りかねないわけです。
 そうであるなら、ただ単に建設産業を護るためだけではなく、日本人として、少なくとも日本に生まれた人間として、日本が滅びかけているのを何とか食い止めたいと思うのは、日本人であれば当たり前なのです。しかも、私は大学の世界でいろいろな情報を学ぶし、いろいろな方々とのコネクションもありますし、いろいろ勉強しているので、一般の方々がなかなか触れられない情報も、一般の方に提供するようなパイプを持っていたりするわけです。そうなると、学者もちゃんとしないとダメだろうなと思い立って、出版させて頂いたということです。
 さて、私の話ばかりで申し上げても仕方ないのですが、いずれにしても、これがいま我々が置かれている状況です。とにかくもう日米構造協議の時代が、実は歴史で言うと本当は明治維新の頃からお話ししないといけないのですが、明治維新の頃からいろいろとあって、世界大戦に敗北し占領されて、占領されたけれども頑張って戦後復興し、当時、戦争で生き残った政治家の方々がおられ、田中角栄先生が日本の国力をものすごく強くしたのですが、小泉純一郎という男が出てきてもの凄く国力を低下させて、ようやく麻生先生で15兆円の補正予算が組まれましたね。これでちょっとは上手くいくかなと思ったら、「コンクリートから人」で、今は完全に亡国なのです。それはキツイです。
 江戸時代は幸せだったのです。そこに来た外国人が「日本はなんと美しい国か」と、ヨーロッパの人でも感激するほど、美しい国土と人の佇まいというものがあったのです。それが黒船が来て、荒波に飲まれていって、黒船から100年が経って最終的に負けたのです。 昭和20年の敗戦を経て、そしてついに、ヨーロッパ人、欧米人に占領されたのです。つまり黒船が来てから100年かかって、ようやくアメリカは日本を占領できたのです。そして占領して、日本の憲法も作りかえて、いろいろな財閥も解体して、港も国が作れないように地方分権化して、国力というものを徹底的に解体したのです。農地も全て開放して、教育界もアメリカの言うなりになるように法律も作って解体した上で、「これでもう、けっこう俺たちの言うことを聞くような国になったんじゃないのか、こいつらは」といった感じで、それで「もう独立してもいいよ」、「沖縄はまだダメだよ」と、独立させてやるとは言っても、独立でもなんでもないのです。ところが、日本はそこからなんとか独立しようと思ってようやく来ていたのです。
 ところが、ところがですね、小泉さんの喧嘩の私怨で相当程度、やられてしまったのです。
 我々はいま置かれている状況というものを、非常にミクロに見てしまう傾向があります。例えば、土木学会に属しているのですけれど、真実ではなく既存のルールで、既存のパターン以外の研究を認めないとか、既存のパターン以外の主張を認めないようにしてずっとやろうとするようになってしまうのです。どんな組織でもそうだと思います。土木学会だけではなくて、我が大学でもそうでしょうし、どこの組織でもついミクロに考えていくのですけれども、実は大きな流れの中で、ひょっとするとその組織自体が沈没しかかっているということは想像出来なくなってしまうのですね。
 ですから、我々は当然ながらアクトローカリーですよ。我々が動くときには徹底的に土木学会の先生方とご一緒したり、あるいは京都大学という大学として、いろいろと振る舞ったりすることは非常に大事ですが、いろいろな論議を考えたり、状況を見据えたりする時には、大局を見据えなければいけないですね。その大局というのは、一つにはグローバルに考えることであったり、もう一つには100年とか200年のオーダーでこの現状を考えるといった考え方です。そのように考えると、本当に今の状況というのは、酷い状況なのです。このように考えた上で、農業予算が半分に削られたということの本当の意味が見えてくるのですね。そんな流れの中ですから、日本の国などはどうなってもいいという状況になっているわけです。だから、農業票を潰したいとか、土木票を潰したいという思いがくすぶっているわけです。それで予算の外形が組まれているわけですよ。


 そのような状況で、しかもTPPに加入するというのは、アメリカの意図でやられているわけで、風前の灯火なのですね、日本の各地方は残念ながら。
 しかしながら、いま申し上げたのは絶望するためではなく、次にどうしようかと考えるときに、いま自分がどれだけヤバい状況にあるかをまず認識することが必要だからなのです。したがって、今日から何をしようかという時に、どれだけ自分が死にそうなのかということを分からないと、絶対次の手などは打てないですよ。それは戦争の基本ですよ。
 さて、この状況からどう立ち向かっていくのかということを、今から少しお話するというのか、考えてみたいと思います。一つは、これからどうすべきか。私は一つには、いま日本が大局的にどのように患っているかということを考えると、いままであまり申し上げなかったけれども、考えるべきことはデフレーションです。
 吉野家の牛丼は一杯380円です。ところが規制緩和によって牛丼屋が増えたわけです。しかし、牛丼ばかりを日本人が食べるわけにはいかないですから、店が増えたので食べる量も増えたでしょうけれど、全体のパイはそんなには増えない。これはタクシー業界と同じ問題ですけれども。要するに食べられる量は一定なのに、とにかく店ばかりが増えたわけです。こんな状況でそれぞれの店がどうするかというと、値段を下げるしかないのです。それでは、値段を下げるとどうなるかというと、そこで働いている人の給料を減らしますね。あるいは、そこで働ける人の数が減るのです。即ちリストラでクビにしていくしかないわけです。それで皆が貧乏になっていくわけです。所得が減るのです。それで所得が減ると…かつての会った吉野家の社員さんは、所得があったらたまにはイタリアンとかフレンチとか、今日はトロでもなどと食べていたでしょうけれど、給料が激減したので、今も残っている社員でも牛丼しか食べられないという状況になってしまうのですね。今の失業者となると、牛丼などは一週間に一度の楽しみという状況になるかもしれません。それがデフレーションですね。
 そうなると、そんな人はお金を使わないですよね。牛丼しか食べられない、安い100円くらいのものしか食べられない。そうなると、お金が世の中にほとんど回らなくなるのですよ。お金が回らなくなればなるほど、みんながもっとお金を使わなくなって、みんな所得がドンドン下がっていくのです。
 これは消費のことだけを言いましたが、同じように企業も投資をしなくなるのです。会社を経営されている方はご理解頂けると思いますが、実はこちらの方が深刻な問題なのですが、デフレーションになると、1万円なら1万円を持ち続けていればいるほど、その価値が上がっていきます。1万円で買える量が増えていきますから。これがインフレでは逆ですよね。1万円を持っていたら、持っているほど価値が安くなっていきますから、早めに使った方が良いのです。だからインフレの時は、早く使わなければというインセンティヴが働くのです。


7ページへ戻る   8ページ   9ページへ進む

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10  


HOME