建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年4月号〉

基調講演(平成23年3月7日)

地域再生フォーラムZ ―― 社団法人 空知建設業協会

基調講演 公共事業が地域を救う

講師:京都大学 都市社会工学専攻 教授 藤井 聡


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 いずれにしても、日本人は「公共事業がいらない」と言ったら、喜んでしまったのです。そうしたら、その尻馬に乗る学者がたくさん出てきたのですね。有名なのは、私が本の中で書かせて頂いている法政大学の方です。この方は確か、先週に内閣の何か役職に就任なさったのですか?もうじきに今の政府は潰れますから、ラッキーだなと思いますね。先ほど、雪というのは何でも匂いをいろいろ吸収するのですと教えて頂いて、「なるほど雪は匂いを吸収し、流して良くなるんだな」という話をしたのですが、ちょうど今の民主党に対して、雪のように臭い匂いを吸い取ってもらって潰してもらおうという冗談を言っていたものでした。  怖いんですよ、日本の歴史は。特に戦後は、運動家に相当影響されているのです。細かいことは申し上げませんが、特に戦争問題というのは、ものすごく運動家の方が、今の全共闘の世代やその少し下くらいの方にたくさんいるのですね。自虐史観と言われますが、そんなことをやろうという人がたくさんいますが、同じようなことが公共事業関係にもあったのです。純ちゃんの方針に乗って、国民世論が「道路なんていらないじゃないか」とか、「ダムなんて無駄なことばかりやりやがって」とか「農業なんて、もう要らないんじゃないのか」など、そうした生温い世論を見て、「今でも国民は、これがトレンドだな」、「公共事業はいかんと言えば、俺は人気が出るな」などと思っていたクチです。
 対して、こちらのクチとしては、北海道の状況はよく分かりませんが、某大手新聞社の国家を解体したがっている方が「公共事業は要らない」と、徹底的にプロパガンダをしたのです。どんなプロパガンダかと言うと、それはもう酷い話ですが公的固定資産形成対GDP比と言いまして、彼の「道路をどうするか」という本は、道路をぶっ潰せ、道路行政をぶっ潰せという趣旨のものなのですが、この中に出てくるのは、諸外国の中で日本だけがGDPに占める公共事業の比率が突出して高い、というグラフです。ちなみにこのグラフは、この本だけではなくNHKなどでもよく使われるグラフです。これを掲示しながら、彼らはこう言うのです。「日本はこれだけの公共事業をやり通している。しかし、日本は先進国なのだから、先進国の仲間入りをすべきで、もう公共事業は要らないはずだ。他の先進国は公共事業はほとんど行っていないのに、なぜか日本だけが公共事業を行っている」と。「これはたぶん、儲けたがっている地元土建屋と天下り先を探している無能な役人と、地元に建設事業が欲しい自民党の先生と、この三位一体で全然いらない公共事業ばかりやっている」という話をするわけです。「なんだか日本は公共事業が多すぎる。だから減らないといけないんだ」ということを言うのです。
 私はこう見えても学者で御座いますから(笑)、工学部を出ていますからデータを見るのは慣れているのですが、見たときに「これはおかしい」と思いましたね。これは私の本にも書かせて頂きましたが、(日本のデータは)国民経済計算に基づいているわけです。両方とも数値は同じなのですが、これらはOECDに加盟している国々の統計なのです。これを見たときに「あれ?日本もOECDなんだけどなぁ」と、思ったのです。なんで日本だけが国民経済計算なのか。しかも、年次もズレている。「これは何かやっているな、こいつは。麻雀で言えば、積み込んでいるな」と。これはもう、バレバレの積み込みですよ。
 それで、ちょっと調べてみたのです。2007年度版に載っているグラフで山を調べてみたら、こんな状態ですよ。それで、私は京大にいますから図書館に行ってすぐに調べたのですが、おそらく私のような者がいるとは思っていなかったのでしょう、それで調べてみたら、実際のグラフはこの状態です。全然、違っているじゃないですか。フランスやカナダよりも日本は低いじゃないですか。要するに彼らがやっていたことは、平成16年に載っている、恐らくですが平成8年くらいのデータを使ってこのグラフを作っているのです。だから、嘘ではないですが、国民経済計算という資料の平成16年度版に載っている数値を使っているのは間違いないでしょうけど、これを偽造と言うかどうかは別として、それに近いと思えないこともないですね。とにかくもう、公共事業を潰したいのです。


 それで、こんなことがずっとまかり通っていたのです。ちなみに彼は、道路はいらないという、これもよく使ってられるようですが、「道路や、整備事業の大罪」という無茶苦茶な本があるのですが、「ゼネコン消滅列島」という雑誌の特集とか、NHKでもよくこのグラフは使っていたのですが、ご覧のように可住面積当たりの高速道路延長は、日本は滅茶苦茶に高いと。それで、彼はこう言うわけです。もう想像がつくと思いますが、「日本はこれだけ道路があるんだ。もう今では、先進国に追いつき追い越せどころではなくて、先進国の中でも最も道路がたくさんあるのだ。にも関わらず…」といった感じですね。そして、また自民党と土建屋と天下りの話を書くのですよ。この「道路整備事業の大罪」の方は、17ページにこのグラフを載せて、後の200ページくらいはこんな話なのです。「道路は悪い」、「道路は…」と。大罪ですから、道路の仕事をしている人は、みなどこかに島流しですよ、この人が言うには。
 こうしたグラフがあるわけですが、これがもうおかしいのです。私は最近、いろんなところで申し上げて、すでにご存じの方も中にはおられると思いますが、これは可住面積で割り出すのはおかしいですね。道路は可住面積で比較してはダメなのです。可住面積というのは人が住める場所ですが、人が住める場所で比較したら良いもの、と言うのは、人が住む場所にしかつくらないものです。下水道とか、都市公園などですが、それらであれば可住面積当たりで比較すれば良いですよね。何しろ可住面積にしかないものですから。
 ところが、道路は滅茶滅茶に山の中を通ったりするものなのです。河があればそこも通りますし、可住地ではないところでガンガン道路を作るのです。街路で定義するのであれば、まだ良いのです。
 さらに言いますと、日本は山や谷が多く、可住面積当たりの街路密度で国際比較するのであれば、それもありですけれど、高速道路というものは、そもそも可住地に作ってはダメですよね。高速道路というのは人の住まないいろいろな所を通さなければならないのですから、そんなものを可住地面積当たりで比較するなというのです。おかしい。


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