建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年4月号〉

基調講演(平成23年3月7日)

地域再生フォーラムZ ―― 社団法人 空知建設業協会

基調講演 公共事業が地域を救う

講師:京都大学 都市社会工学専攻 教授 藤井 聡


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 それで、この辺りから重要なポイントになってくるのですが、なぜTPPをアメリカが提唱してきたかというところから、今日は話をしようかと思って、このグラフを示しているのですが、要するにアメリカはもう輸入できなくなったのですね。それで彼らはどうしているかと言えば、景気が非常に悪いので、失業率が10%程度になってしまっているのですね。これは大変な水準です。それでオバマさんは何とか自国の失業を減らしたい。そのために、彼は「輸出を倍増するんだ」と言っているのです。
 例えば、アメリカのオバマが横浜にAPEC会議で来たのですが、その時にこのようなことを言いました。「アメリカが今後、5年間は輸出を倍増させる戦略を進めている」と。「とにかくアメリカは、今は失業で大変な状況になっているので、輸出したい、輸出させてくれ」と言っているわけです。輸出を増やせば増やすほど、雇用が確保できますから。だから、アメリカは今はもう雇用が大変で、とにかく輸出したくて仕方がないのです。その時に持ってきたのが、TPPというものなのですね。
 それで、これは彼の今年の一般教書演説ですが、2014年までに輸出を2倍にする目標を設定しています。それで、さらに「我々がより多く輸出すれば、この国でもっと雇用を生み出せる」と。そういうことを、アメリカの遠いところで言っているのです。これは皆さん、ほとんど知らないと思います。ちなみに言えば、オバマがこのようなことを言っているということは、日経新聞には載っていないですね。日本の新聞にはほとんど載っていません。メディアというのは真実を伝えないですから。私は原文を読んだりしているので、こういうのは全部チェックできるのですが、アメリカはとにかく輸出を増やしたくて仕方がない状況にあるのです。
 そんな状況だから、日本に、去年の夏頃に菅直人に会って「ちょっとお前、輸出を増やしたいからTPPに入らないか」と、持ち込んできたのですね。そうすると、日本政府はすぐに「いやいや、TPPに入ったら農業などがメチャメチャになりますから、TPPに入りたくないという声があるのですよ」と、なるのですが、実はこの話を持ってきた直前に何があったかと言えば、尖閣諸島問題だったのです。なんで尖閣諸島問題になったかと言うと、アメリカの沖縄でのプレゼンスが低下していたのです。何故かと言うと、普天間問題があったのです。少しややこしいけど、ゆっくり申し上げます。
 普天間問題があって、日本と米国の関係がギクシャクしていたのです。そのため、アメリカのパワーが、沖縄で少し弱くなっていたのです。弱くなったので「この島は盗れるじゃないか」と、ここからは非常に遠いところではありますが、尖閣諸島は中国がずっと盗ってやろうと思っていた場所だったので。ちなみに中国にすれば、国境線を引いているのですが、沖縄は中国側に入っているのですね。したがって、尖閣諸島などは当然、自分のものだと思っていますから、アメリカがいなければ、ということで盗りに来たのです。
 それで、まさか菅直人さんと、昨日(3月6日)辞任した前原さんとは中国にそんなことをされるとは思っていなかったので、びっくりしたのです。「これはアメリカに媚を売っておかないとヤバい」ということになったので、その時にオバマが「うちも輸出を増やしたいから、TPPに入ってくれよ」と言ってきたので、「はい、分かりました」と言ったのですね。当然、議事録は残っていないですから、私の想像ですが、100%正しいと思います。もし私の言っている想像が間違っていれば、京都には清水の舞台がありまして、そこからパラシュート無しで飛び降りてもけっこうです(笑)。それくらいに火を見るより明らかで、要するに“弱腰の政府が、周りのごつい奴らにビビらされて”「うちの農業を差し上げますから、TPPに入ります」ということになって、TPPに入って日本の農業を潰しにかかってきているのですね。


 それで、折しもこのTPPの問題とは無縁に、農業に対する財源や公共事業に対する財源を、民主党政権は徹底的に削っているのです。これは「コンクリートから人へ」というものがありますが、この財政方針なのです。もちろん、農業というのはコンクリートではないですが、基本的には間接的な投資ですね。建設をして人を幸せにしたり、農業を活性化して人を幸せにするというのは、三歳か四歳くらいの男の子には分からないような話ですね、間接的ですから。
 ところが、農業や土木のようなものの投資が、なぜ必要かと言えば、間接的に人を幸せにするためなのです。ところが、三歳児や四歳児くらいのお子さんでは分からないので、今の政府はそれぐらいの知性レベルですから、とにかく「直接、人にお金を上げよう」と、社会保障費をガッツリ上げているのですね。
 ちなみに社会保障費の2008年から2010年までの増加額が、どのくらいかご存知でしょうか?2010年の公共事業関係費はいくらかご存知でしょうか?5.8兆円です。補正予算で少し増えましたが、当初予算では5.8兆円です。その一方で、社会保障費の過去2ヵ年の増加額は、5.5兆円なのです。これが「コンクリートから人へ」ということなのですね。要するに社会保障として、直接、人にお金を上げるという財政政策。これが「コンクリートから人へ」なので、そんな政策ですから、当然ながら農業というものが世の中にとって、至って必要なものであることを想像できるだけの知性が基本的にありません。だから、そうした予算はぶった切っていくわけですね。
 そうした子供さんですから、ビビらされたら…ビビる能力はあるのですね、子供でも(笑)、それで普天間問題などでゴタゴタしている時、尖閣で問題になった時にTPP、ということになっている状況です。
 それで、ここからTPPがいかに問題なのかというところからお話しますと、そういう形でアメリカの圧力、アメリカだけでもないのですが、日本の政府というのはどんどん中長期の投資というものをしなくなっていったのです。その延長にTPPというものがあり、圧力によって言うことを聞いたことになっているわけです。
 私は建設産業についてのいろいろな経済分析や、著書の中でも書かせて頂いた建設産業と、公共事業としてはどんなものが日本の国力にとって必要なのか、そうした研究もしていますが、インフラの研究者なので、先日、野党・自民党の方が「TPPがどうやら建設産業にも非常に危ない影響を及ぼすと思うのですが、国交省に聞いても誰に聞いてもあまり分からないと言うのですよ。先生、なんとか分析してくれませんか」と言うので、「ああ、いいですよ」ということで、いろいろと調べたのです。その調べたことについて、少しお話しようと思います。


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