建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年4月号〉

基調講演(平成23年3月7日)

地域再生フォーラムZ ―― 社団法人 空知建設業協会

基調講演 公共事業が地域を救う

講師:京都大学 都市社会工学専攻 教授 藤井 聡


3ページへ戻る   4ページ   5ページへ進む



 東南アジアなどに私は時々、出張でヒアリングに行って、東南アジアでは日本のゼネコンがどのような仕事をしているのか、土木学会と行ったことがありますが、彼らは一様に「外国との戦いは、ものすごく疲れます」と言います。なぜかと言うと、とにかく金儲けが目的なのですね。当たり前ですね、企業なんだから。始めに資本主義を作った人たちですからね。
 例えば、東南で仕事をゲットすると、そこでは品質などはどうでも良く、仕様書に書いてある通り、契約通りにやるのが彼らの目的です。そこへ、外国人労働者をたくさん連れて行くわけです。例えば、中国人の方が賃金が安いですから、そこで徹底的に働かせて、終わったら帰すのです。そうすればコストダウンができるのです。
 そんな企業と、日本人というのは昔の時代から…僕らは東南アジアに行って、泣きそうというか本当に泣いてしまいましたけど、日本人の思いの深さというのか、その土地を好きになって、その土地の人に分かってもらいたいと、「僕らの技術を分かってもらいたい」と、一生懸命に仕様書にも書いてないようなことを教えているんですよ、日本人の技術者というのは。たぶん、第二次大戦中もそんな感じだったものと思います。日本人には「ご縁」という感覚がありますから、何の縁もないけど、その土地に行って何かのご縁だと思ったら、その人たちのためについつい情が移って一所懸命、お金が儲からなくてもやってしまうのですね。そんなことを、ベクテルその他がするはずがないですね。仕様書に書いてないのだから知らん。橋が落ちましたといっても、そんなものは仕様書に書いてないし、仕様書が悪いのだと、そんな感じですね。そのようなことをする方々ですから、海外の大会社というのは。
 そういう企業が、日本の建設産業に自由にアクセスできるようになる可能性があるのです、TPPに入ると。そうなると、こういう人たちをいっぱい連れてくるかも知れません。それは「彼らも生活費がかかるでしょう」と、仰るかも知れませんが、今ならグローバリゼーションの時代ですから、ものすごく安いものを一緒に輸入してきて、日本のマーケットとは無縁のところで配給し、ベクテル側が配給して、それでどこかへ連れて行けばものすごくコスト削減できますね。日本人はそんな感覚はないですが、今のグローバリゼーションというのはそんなものなんですね。これはもう日本人の感覚で言うと、仏教に六道というものがありますが、畜生道ですね。天界、人間界、修羅、畜生、餓鬼、地獄がありますが、人を人とも思わないような「畜生」。それがグローバリゼーションの別名で御座います。
 それで、そうした外界の超荒波から、我々は護られているのです。何によって護られているのかと言うと、2つによって護られています。それは関税です。並びに非関税商品です。労働者が入って来ようとすると、今では労働ビザというものを取らなければなりません。したがって、自由に来られないですね。ちなみに、WTOに日本は加入していますが、ある一定金額以上でないと国際入札案件になりません。それでも非関税障壁に守られているのですね。だから、ありとあらゆる規制があるのです。外国の方が入って来られないように。いま申し上げたように、畜生の世界から我々人間の世界に入って来ないように、ものすごい壁を作っているのです。
 「それは旧いのではないか」と、思われる若い方もおられるかも知れませんが、小学生か中学生くらいの時に勉強した教科書を読んでおいて下さい。小村寿太郎が何をしたのか思い出して下さい。明治の方ですが、江戸幕府が黒船に恐れて開国してしまいました。その時に不平等条約を結びました。その時に、日本に何が奪われたか。治外法権もそうですが、関税自主権が奪われたのです。それを江戸幕府が勝手に行ったので、薩長が立ち上がって江戸幕府を無血開城させて作ったのが明治政府です。その明治政府が必死になって、日清戦争、日露戦争を戦ったのです。千載一遇のチャンスなのか、武士道なのかは分かりませんが、武士道といえば北海道大学の新渡戸稲造先生ですが、とにかく戦争に勝ったのです。その戦争に勝った見返りとして、それをベースとして、小村寿太郎が懸命に回復させたのが関税自主権なのです。


 ですから、近代国家を作るに当たって、日本政府はまず最初に関税自主権というものを手に入れることに一意専心したわけです。関税自主権が回復したのは1911年ですから、100年後の2011年に今の政府はTPPに入って、それを投げ出そうとしているのですね。日本の国のことを救おうと思っているとは、到底思えないですね。思っていないと考えれば、納得がいきます。あるいは日本の国を潰したいのか、無茶苦茶頭がお悪い方なのか、どちらかですね。無茶苦茶頭がお悪い方なのか、潰したいという邪心を持っているかのどちらかですね。どちらもあったなら、どうしようもないですが(笑)。いずれにしても、そうした関税自主権があるから、先ほど申し上げた海外の畜生のような、ものすごいグローバリゼーションの恐ろしい荒波に、日本という国家の中身が護られているのです。
 ということで、当然ながらTPPに入ると、早かれ遅かれ地方の土木産業はやられてしまうわけですね。で、当然ながら、その前に潰されるのが日本の農業です。これはもう、明らかに潰されます。アメリカの農業というのはすごいです。私が申し上げるまでもないですが、例えばアイオワのコーン畑は大きなもので、しかも人間が食べるようなものは作っていないのですね。コーンスターチとか、飼料にするためのコーンをアメリカは無茶苦茶に作っているのです。そして、農業というものを徹底的に集約化して、徹底的に合理化して恐るべき大量生産をしているのです。ものすごく合理的な国ですから、食べ物をものすごくいっぱい作っています。「キングコーン」という映画があり、そこに事細かに描かれていますが、そんなところと日本が今の状況で、それこそ空知の皆さんが中心になって頑張って、日本の農業というものをもっと近代化、合理化していけば、戦えるようになるかも知れないですが、今の状況で関税を無くして非関税にすると、圧倒的にアメリカに負けるのは火を見るより明らかですね。
 アメリカの米が入ってきたら、10s700円になると言われていますし、牛丼も100円くらいになるのではないかと言われています。ただでさえ、これだけデフレなのですから、日本はもっとデフレになって、もっとぐじゃぐじゃになることはもう分かった話なのです。このように、農業も壊滅的ダメージを受けて、しかも建設産業も壊滅的ダメージを受ける。これがTPP加入によって、予想されている話なのです。恐ろしい話です。
 いま私が申し上げた話を、部分的にご存知の方はおられたと思います。農業のくだりは非常に有名な部分で、部分的にはご存知だったと思います。しかし、少なくともアメリカの本当の意図とか、その意図の背後にあるリーマンショック以降の全世界の、輸出入のグローバルなトレードの中での抜本的変化とか、アメリカの戦略とか、並びにUSTRと規制仕分けの絡みなどを、ご存知の方はほとんどおられないと思います。何故か。メディアが報道しないからです。何故、メディアが報道しないのか、ご存知でしょうか。メディアの株を持っているのは、どなたでしょうか。大企業です。


3ページへ戻る   4ページ   5ページへ進む

1   2   3   4   5   6   7   8   9   10  


HOME