建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2011年4月号〉

基調講演(平成23年3月7日)

地域再生フォーラムZ―― 社団法人 空知建設業協会

基調講演 公共事業が地域を救う

講師:京都大学 都市社会工学専攻 教授 藤井 聡


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 ただいま、ご紹介に与りました京都大学の藤井で御座います。これまで、札幌の方面にはしばしば交通のお手伝いや行政のお手伝いなどで、よく居合わせたことはあったのですが、岩見沢市には初めて参りました。電車の中から風景を見ていると、京都とは全然違う画像が広がっており、「雪深い場所だな」と、思いながら見ていました。これだけ雪深い場所ですから、ここで暮らし生きていくためには雪の問題と闘わなければなりません。札幌の方といろいろとお付き合いして、話はお聞きしていましたが、今ではかなり除雪システムがきちんと出来ているので、札幌市内では雪の少ない中をいつも歩いていたのですが、今日は本当に雪の深い、今日はまだ大分融けているらしいと伺いましたが、そうした景色を見ながら参上しました。
 今日は1時間半のお時間を頂き、ただいまご紹介頂きました「公共事業が日本を救う」という著書の内容についてお話を、ということで声をかけて頂きましたので、特に今日はここにも書いて御座いますように地域というところを中心に話をしたいと思います。
 恥ずかしながら、岩見沢ならびにこの空知の地域についての公共事業の実情というのは、ほとんど存じ上げませんでした。ただ、先ほど昼食を頂きながら、関係者方々から「ここにとはどういう公共事業があるのですか」と聞いたら、農業が非常に盛んであるとか、北海道米の約半分近くをこの地域で獲っているといったお話をお聞きしました。それを聞きながら、「あぁ…」と思いながら、そのことも交えて今日は「公共事業が地域を救う」というお話をしたいと思います。それで、1時間半にわたって、公共事業が地域をどのように救うのかについてお話するわけですが、その前に、少し違ったところから話を始めたいと思います。
 まずは世界経済の構造問題。また「タイトルと合わない話だ」とお感じかも知れませんが、少しお付き合い願いたいと思います。この世界経済の問題は、例えば空知でも、私は奈良県生駒市の出身ですが、昔は全然関係なかったのです。江戸時代は、鎖国とは言いつつ制限貿易はしていましたが、例えば、アメリカでどんなことがあっても、日本の江戸の町中の、あるいは京都の町中でも状況は変わらなかったのですが、最近は世界の動向とつながっています。
 先ほどお聞きしましたが、農業予算が半分になったと伺いました。それがこの空知の農業に大きなダメージを与えていると。当然ながら公共事業関係、建設産業関係のお手伝いさせて頂く関係上、それが最近はどれだけ大幅に削られてきているのかといえば、今やピーク時の三分の一程度になっているのですね。そのため、建設産業の形も大きく変わっていく。ともすれば、これは国際的な問題とは関係なく、単なる日本国内だけの話かなと考えられるわけですが、よくよく全体の局面を見据えていると、世界経済と大きく関係しているのですね。そんなところから、1時間半の時間を頂いているので、非常に大きなところから話を始めたいと思います。


 まず、お手元の資料の円グラフは、世界経済の輸出と輸入の取引の関係です。現在は日本と東アジアとが非常に貿易をしており、日本は輸出立国だと言われていますが、そんなことは全く嘘で、実は16%しか日本のGDPに対して輸出の割合はないのです。ちなみに韓国は46%ですから、日本は輸出立国でも何でもないのですが、それにしても日本の輸出としては、東アジアとかなりの付き合いをしています。アメリカ、ヨーロッパにも輸出しているのですが、東アジアには特に輸出をしていました。
 これはなぜかと言いうと、日本は最近は工場を東アジアに作るようになったのです。2006年は日本で基本的なものを作って、東アジアに輸出し、そこで加工するという輸出構造でした。東アジアはどこと付き合っていたのかといえば、EU、アメリカに非常に輸出していたのです。2006年はアメリカとヨーロッパでクルマを買ったり、テレビを買ったりするわけですが、それを輸出しているのが東アジアで、そこで製品を製造するための部品を日本は輸出していたわけです。
 これが2006年の状況ですが、2008にはリーマンショックが起きました。あれは何だったのかといえば、要するにバブルが弾けたわけです。アメリカがメチャメチャになり、ヨーロッパもメチャメチャになり、今でもアメリカはこれほど輸入できなくなっているのです。ヨーロッパもできなくりました。そんな状況がありました。
 したがって、輸出で日本の経済を引っ張ろうと考えるモデルは、これが中心にあったのです。これは一種のTPPですね。TPPを推進する方というのは、日本にはたくさんおられますが、その方々が頭に描いているのは、このグラフですね。日本は輸出して金儲けをして、日本経済を引っ張ると。それで、東アジアなどへ輸出していかなければならないと思っているわけですね。ところが、このグラフはもう終わっているのですね。何故かと言えば、アメリカはもうバブルが崩壊し、ヨーロッパもバブルが崩壊して、彼らは輸入する能力もなくなっているのです。
 なぜ、私が今こんな話をしているのかと言うと、地域の経済の問題に、いかに世界経済の動向が影響しているかということを、少しずつお話しようと思っているからです。それで、これは要するにそういう構造が終わっているということを、国連関係者らも指摘しており、世界経済というものを安定化させたいと考えているのです。その時に、彼らはこのように言うのです。「アメリカの貿易黒字拡大と、日本の内需拡大が必要である」と。とにかく先ほどの、「アメリカが過剰に輸入し、ヨーロッパが過剰に輸入して、アジアが輸出していくというモデルを解消しなさい。それが世界経済にとっては大事だ」と言っているのです。


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