食彩 Speciality Foods

〈食彩 2008.11.14 update〉

寄稿

日高農業の経営転換、複合化を目指して

日高支庁産業振興部農村振興課 課長 齋藤 博士

齋藤 博士 さいとう・ひろし
昭和28年1月31日生まれ 富良野市出身
平成13年4月 上川支庁南部耕地出張所次長
平成15年6月 渡島支庁調整課長
平成18年4月 日高支庁農村振興課長

▲中山間地域総合整備事業で整備中の暗渠排水

管内の概況
(地勢・気候)
 日高支庁は、本道の中央西南部に位置し、南西に連なる日高山脈と、それに並行して走る太平洋の海岸線に挟まれた、長方形の地理的条件にあります。
 総面積は、4,812kuで、北海道の全面積の5.8%を占め14支庁中第7位の広さを有しており、ほぼ和歌山県と同じ広さとなっています。
 このうち8割が山林であり豊かな森林資源に恵まれている反面、平野部が少ないため他の支庁に比べて耕地面積の比率が低い地域です。
 管内の気候は、積雪寒冷地帯である本道にあって、比較的温暖で積雪量も少ない地域ですが、太平洋沿岸部では海洋性気候で、四季の気温変化は比較的小さく、降雪量は少ないものの、降水量はやや多くなっています。
 一方内陸部では、大陸性気候の傾向を示しており、気温の変化が大きく降水量も多くなっています。
(人口・産業)
 日高支庁は、7町より構成されており、平成17年度国勢調査時の人口は81,407人で、前回調査時から5カ年間で4,600人が減少しています。
 管内の産業は国内生産頭数の約8割(平成18年統計:5,869頭)を占める軽種馬や稲作、畑作、肉牛などの農業が中心で、その他は林業・木材産業及び昆布、タコ、つぶ類といった水産業など一次産業が基幹産業です。
 また、複数の町においては雄大な日高山脈と、馬産地としての牧歌的風景が観光資源となっていることから、馬との触れ合いやホーストレッキングなどの取り組みが盛んで、道内外から多くの観光客が訪れています。

管内の農業
 管内の耕地面積は、39,200haで、牧草地が全体の8割を占めています。
 農家戸数は年々減少しており、平成17年時点では2,458戸となっています。
 専業兼業別に見ると、専業が60%、兼業が40%と専業割合の構成比が増えており、1戸あたりの耕地面積も約19haと拡大され、10ha以上の農家戸数も増加している傾向にあります。
 管内の平成18年の農業産出額は470億円に上ります。このうち約63%が基幹品目である軽種馬生産が占めており、次いで野菜と乳用牛がそれぞれ11%、肉用牛が7%の割合です。
 しかし、近年は、中央、地方競馬の減収などの影響で、軽種馬の生産頭数や飼育農家戸数が減少傾向にあり、他の農畜産物においても価格の低迷や輸入農産物の増加の影響によって、農業をめぐる環境は厳しい情勢が続いています。
 こうした中、各町では地域農業の振興に向けて、平取町のトマト、静内町のミニトマト、日高町の軟白ネギ、新冠町のピーマンなど気象・自然条件を活かした主力野菜の栽培に努めています。特に、平取町のトマトは飛躍的に伸びており、全道一の生産を誇るに至っています。
 また、新ひだか町や平取町を中心にスターチスなどの花卉の生産も増えており、「びらとり和牛」や「三石和牛」として有名な肉用牛の生産も、近年の軽種馬経営からの転換・複合化などにより増加傾向が見られます。

▲農道と用水沿いに創設されたフラワーロード
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▲図表-2 平成20年度予算の事業別割合
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管内の農業農村整備事業
(ハード事業)
 このように、日高管内ではより一層、農業生産性と品質の向上を図るとともに、軽種馬生産の経営体質の改善のために経営転換、複合化の推進にも寄与すべき農地整備が求められています。
 また、自然環境や地形特性のため、農地の防災対策や、地域の過疎化・高齢化に伴ない低下している農村機能や農地・農業用水等の保全管理の対策と支援が必要となっています。
 このため平成20年度においては、中山間地域の農業の経営安定化と活性化に向けた「中山間地域整備事業」、防災関係では「海岸保全整備事業」、「地すべり防止対策事業」及び農道整備事業などを含めた8事業を14地区で、事業費19億円4000万円(繰越し含む)で実施しています。
(図表-1及び2参照)
 特に管内の基幹的な事業である中山間地域総合整備事業は、現在4町において4地区が継続中です。本年度は生産基盤である農地の面的整備や農業用用排水施設、農道の整備を中心に進めていますが、平取町と日高町の2地区では、合わせて42戸を対象に営農飲雑用水施設の整備も実施することから、地域住民の生活環境の改善の上からも、地域からも大きな期待が寄せられています。
《図表-2 平成20年度予算の事業別割合》

農地・水・環境保全向上対策
――トンボの未来・北の里づくり

(ソフト事業)
 日高支庁は、過疎化や高齢化が進む地域での、農地や農業用水等の資源の適切な保全管理と質的な向上を図るために、4地区において地域ぐるみの効率的な共同活動や先進的な営農活動の取り組みが進められています。
 特に明治の始めに兵庫県から開拓会社「赤心社」が入植したことで有名な、浦河町の「姉富東地域」では、姉茶・富里・上東栄の3集落の農家を中心に自治会、用排水路管理組織、JAひだか東、浦河土地改良区を含め、荻伏小学校や地域の景観作りのため花の植栽に取り組んでいるグループ(はなうえるかむ)が構成員となって、地域住民と農家が共同で農村景観と地域農業を守る取り組みを進めています。
 主な取り組み内容は、地域の貴重な財産と資源である用排水路の長寿命化への適切な維持管理や自治会の参加による農道の草刈りを行っています。
 また、農道や農業用水路沿いに農家の主婦が苗から育てたルミナスやポピーなどを移植して、美しい四季おりおりの農村景観を創出する活動や、豊かな農業・農村を次世代に引き継ぐために、地元小学生との米作りなどの農業体験学習に取り組んでいます。
 これらの活動は、管内ばかりでなく優良的な事例として、全国的にも評価され、地域の活性化に繋がっています。

あとがき  日高管内は、冷涼な気温条件のもとに明治時代から、馬の改良や軍馬の増殖などの馬産振興が基礎となり、今日も日本有数の馬産地となっています。
 しかし、前述のとおり多くの軽種馬生産者は経営体質の強化、生産育成技術の向上など強い馬づくりが求められています。
 こうした中、軽種馬農家のなかには黒毛和牛を導入するなど、年々、飼育戸数や頭数が増加しており、軽種馬経営の安定に寄与しています。
 また、耕種農業においても野菜・花卉などの導入や農業経営の複合化が進められています。
 このような取り組みがさらに進展するためには、持続的な農地の機能保持と生産性向上のための生産基盤整備が不可欠といえます。
 このため、日高支庁は今後も多様な農業に対応するため、地域の多様なニーズを受け止めて効率的な整備に取り組んでいくとともに、地域資源の保全・創設に向けた地域活動の支援を推進していきたいと考えております。
 今後とも皆様のご協力をよろしくお願いいたします。


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