食彩 Speciality Foods

〈食彩 2008.11.14 update〉

interview

市民も目利きの達人に

――我が国で最高のエコ・クリーンシステムを誇る札幌市中央卸売市場

札幌市経済局 中央卸売市場 市場長 渡邉 惠氏

渡邉 惠 わたなべ・さとし/td>
平成 7年6月 教育委員会総務部計画課長 就任
平成11年6月 市民局文化部課長職 就任
平成13年4月 議会事務局総務課長 就任
平成15年4月 経済局観光コンベンション部長 就任
平成17年4月 豊平区役所市民部長 就任
平成19年4月 経済局中央卸売市場長 就任
札幌市中央卸売市場
札幌市中央区北12条西20丁目2-1
TEL 011-611-3111

 昨年2月に10年がかりの再整備が終了し、新施設でスタートした札幌市中央卸売市場は、年間14万919トンの水産物と30万2,456トンの青果物を扱い、取扱高は合計で約1,800億円になる。190万都市・札幌市の食材流通の中枢で、地球環境と衛生のために全国でも類例のない設備・システムを導入している。渡邉惠(さとし)市場長は、「市民に市場の役割を知ってもらい、自力で間違いのない食材選びができる選択眼を持って欲しい」と訴える。

――昨年新施設でスタートしましたが、食の安全対策は万全ですか
渡邉 食の安全は、今日の国民が最も関心を持っている問題でしょう。我々は農水省からの要請もあり、中央卸売市場の開設者として衛生管理のための自主行動基準も作成してもらうようにしています。また、保健所では、HACCPなどの国際基準も踏まえながら、「しょくまる」という独自の札幌市版HACCP食品衛生管理認定制度を定め、普及活動に務めているところです。  この市場で扱っているのは青果と水産物ですが、保健所の出先機関である広域食品監視センターでは、微生物や理化学検査を行っている他、食品衛生監視員の方が場内を見回りしています。秋はキノコシーズンなので、入荷されたものに毒キノコが混入していないか、水産物でも毒性のあるものは法的に扱ってはならないので、それらをチェックし、さらには水産の卸業者も独自に検査機関を持っていますから、検査体制としては万全だと自負しています。  ただ、それが市場から小売店へ出荷されて加工品になった時点では、どのようになっているのかは追跡できません。
──国内では鳥インフルエンザ問題や牛肉、ウナギの産地偽装、最近は事故米の流通が大きな問題となっていますが、北海道でもかつては牛乳や菓子の賞味期限改ざん、食肉の産地偽装が発覚しました
渡邉 先頃、全水卸という全国の水産卸会社の研修会が市場内で行われました。その役員もそれらの話題を取り上げ、市の広域食品監視センター課長も講師として企業のコンプライアンス問題を取り上げて、意識向上を訴えましたが、仲卸業者にしても小売業者にしても、日々忙殺されているという実情はあります。  それでも食べるという行為は健康のためのものですから、そのために安全で安心なものを供給していくことは、重要な使命です。青果も水産も、国産だけでなく海外産のものも市場に持ち込まれます。厚労省の輸入検査も行われますが、それだけに依存せずに市場としての独自の対応も必要です。
──基本的には、食に関わる業者は毒物を国民に供給するはずはないという性善説で信用してきました
渡邉 ところが、流通経路は無数にあり、卸業者の苦労の種となっているのは場外流通です。市場を通さない流通がかなり増加しており、その安全対策が不明であることです。特に大規模量販店では、漁船単位で買い付けているケースもあります。もちろん、大型スーパーも信用が生命線ですから、独自の検査機能は持っているでしょうが、そこまでは私たちの目が届かないので不安要素がないとは言い切れません。  一方、中国の餃子事件などは、突き詰めれば消費者側が安さと扱い易さを追求した結果だと思います。この市場には年間に子供や主婦など約1万2,000人くらいが見学に来ますが、そうしたときに私は「自分で店に行き、自分の目で選び、そして自分で調理してほしい」と訴えています。驚いたことに、「自宅に包丁はありますか」と尋ねると、中には無いという回答もあり、そこでは包丁でなくハサミを使っているというのです。「魚を捌くことはないのですか」と問うと、最初から切り身で売っているから必要ないというわけです。野菜や果物もカットされたものがあるし、そのための器械もあるというわけです。  しかし、そんな母親を見て育つ子供はどうなるのかと心配になります。子供たちにホッケを見せたら、「開いていないの?」と驚く始末で、魚離れが顕著であることの顕れでしょう。母親らによると、魚は総菜としてボリューム感に乏しく、生臭いし焼けば煙が発生し、後かたづけも面倒というわけです。  そのため、学校給食でもっと魚を扱ってもらえないかと話すのですが、問題は骨で、学校の栄養士も本当は魚を取り入れたいとのことですが、骨が喉に刺さったらどうするのかという母親からの意見もあり、難しいとのことです。
──日本の食卓は箸を使うのが基本ですね
渡邉 私たちが幼少の頃は、骨が刺さったら飯とともに飲み下せと教えられたものですが。魚をミンチにする器械もあるのですから、もう少し魚を食べて欲しいと思いますね。  しかし、せっかく魚を買ってきても、その3割は利用せずに廃棄しているようです。そのため、魚を丸ごと食べられる方法を模索すると同時に、魚が持つ免疫力も無視できません。これは野菜にもあるもので、私たちは今春から、免疫学の専門家である北大の西村教授や、医大の教授、藤女子大の栄養科の教授陣らによる勉強会を主催しました。卸業者から検体を提供してもらい、食材のもつ免疫力や有効な食べ合わせ、調理法などを研究し、それを体系化して市民に情報提供しようという趣旨で、これを私たちは「目利きの達人見〜つけた!」運動と称してスタートしました。  6月にはこのためのシンポジウムも開催しました。また、この取り組みはテレビの生放送番組としても取り上げられ、来年3月まで放映されます。小売業者の経営者らは、いずれ劣らぬ目利き揃いですから、旬の商品選択のポイントや商品の保存方法、理想的な調理法などのノウハウを伝授してもらい、最終的には、市民が「目利きの達人」になってもらうことを目的とした運動です。  これ以外にも魚食、菜食を奨励し、消費を促すために、有名なプロの調理師を招待して調理教室を開いたりしています。そうした活動をPRするための歌をCDに収録して関係者に配布しています。私はプライベートで音楽活動もしているので、拙いながらもバンド演奏をBGMに起用したりしています(笑)
──そうしたものは、なるべく多くの市民に、頻繁に目に触れることが大切では
渡邉 残念ながら行政はPRが不得手で、「しょくまる」も、もう少し普及啓発したいところですね。そのため「目利きの達人〜」は、市場のホームページで閲覧できるようにしてあります。(目利きの達人見〜つけた!運動http://www.sapporo-market.gr.jp/mekiki/)  現在はラジオドラマを制作しようと企画し、シナリオライターの技量を持った課長が脚本を創り、大学放送部に協力してもらい、地域FMで放送しようと考えています。また、寸劇を通して子供たちに野菜や魚の知識を広めようとも考えています。  この他、市場内を走り回る構内運搬車のミニチュアも、世界で初めて製造し販売しています。
──市場が大規模に再整備されましたが、主な変更点は
渡邉 食を突き詰めると環境に結びついていきます。そこで、この市場は750台の構内運搬車が稼働していますが、その燃料を天然ガス仕様に変更し、アイドリングストップを励行しています。お陰でCO2削減とともに、以前と違って場内は白煙もガソリン臭もなく、野菜の新鮮な匂いに満ちています。場外からは一日1,000台近くの輸送トラックも出入りしますが、それらも極力天然ガス化とアイドリングストップを呼びかけています。  保冷車の場合は、日本で初めての試みとして、エンジンを切っても運転席だけでなく荷室も保冷できるように、貨物フェリーで採用されている外部電源システムを6月に試験導入しました。カード式課金システムで、当面は6基で試行します。  また、以前は買出人用の駐車場には屋根が無かったのですが、夏の日差しや冬の降雪に配慮して全体を覆うように設置しました。  道庁の新設した「北海道名誉フードアドバイザー」として委嘱されている東農大の著名な小泉武夫教授が、この札幌市場の視察を希望されたのでご案内しましたが、世界中でこれほどエコでクリーンな市場は珍しいと賞賛してくれたほどです。  10年かがりで約360億円もの事業費を投入して再整備したのですから、私たちも日本で最もエコロジーに配慮した、クリーンな市場としてアピールしており、センターヤードの屋根などは新潟市でも採り入れているようです。東京都や仙台市でも、一部か、または全面的な天然ガス化を検討しているようで、視察にも来られました。
──天然資源は、エネルギーも物資も食糧も、際限なく採取すればいずれは枯渇しますね
渡邉 海外でも日本食のブームなので、鯨と同様にまぐろも入手しづらくなるかも知れません。しかし最近では、函館近海で獲れたアカマンボウが市場に入荷し、仲卸業者が競り落としたのですが、食べたことがなかったのですが、刺身として試食してみたらビンチョウマグロに似た薄い色で、脂が濃く、いずれはこれが代替食品になるのかも知れません。  以前、仙台市に行ったとき、マンボウの腸をぶつ切りにし、ホルモン炒めのように調理したものを食べたことがありますが、ミノを柔らかくしたような食感でかなり旨かったですね。温暖化で獲れなくなった魚種はありますが、気づかない資源がまだまだあるので、創意工夫が大切だと実感しました。
──ホッケが最初から開いていると誤認する子供たちの事例も含めて、食育の大切さに気づくべきですね
渡邉 小泉教授によると「子供たちがキレる原因は、ミネラル不足」とのことです。ミネラル不足になると、それをカルシウムから補充するので、骨が弱くなり、運動会で骨折するような子供が見られるというわけです。ミネラルは土や海に含まれ、かつて日本人が食用していた根野菜や有色野菜、大豆、魚、海藻には、それが豊富だったのですが、後に欧米人の肉食も加わってからは、欧米人は肉と同等の野菜を摂取するのに、日本人は肉ばかりを単食してしまうことに問題があるとの指摘です。  一方、その教授は、定置網にかかった鯨は食用が許可されているので、鯨食を推進する運動も展開しています。欧米は捕鯨に反対しますが、アメリカではアラスカ産の鯨をかなり食べているとのことです。
──食の安全もさることながら、今後は世界的な問題として食の確保も課題になってきますから、市場の役割はますます重要になるのでは
渡邉 来年度中には道内で中央市場は札幌だけとなります。現在全国には中央卸売市場は50都市に79箇所があります。さらに地方卸売市場は、1,259箇所で、これらを合わせると、取扱高は8兆円を優に超えるのです。それほどの市場規模であり、産業として認められているということです。  一方では、流通も規制緩和されていますから、消費者側も目利きの達人になってもらうことが必要となるでしょう。賞味期限の問題も、自分の嗅覚、味覚、視覚を信じて判断できることが必要だと思います。  この市場には見学通路も設置し、バリアフリー構造にもなっており、外国人のためのDVDやパンフレットもあり、遊び要素のある資料室も備えてありますから、子供たちを始め、是非とも多くの人々に来場していただき、市場のシステムや機能、役割というものもを知って欲しいと思います。

札幌市中央卸売市場ホームページはこちら
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