食彩 Speciality Foods

北海道漁業協同組合連合会 代表理事副会長 宮村 正夫氏

interview

海外輸出を急増させる北海道漁業(前編)

――浜値維持のため積極的な輸出展開

北海道漁業協同組合連合会 代表理事副会長 宮村 正夫氏

宮村 正夫 みやむら・まさお
昭和19年7月31日生まれ
昭和43年3月 北海道大学農学部 卒業
昭和43年4月 北海道漁業協同組合連合会 入会
昭和56年3月 同 東京支所次長 就任
平成 5年5月 同 参事 就任
平成10年5月 同 代表理事常務 就任
平成16年6月 同 代表理事専務 就任
平成18年6月 同 代表理事副会長 就任
委員就任状況
社団法人日本水産物貿易協会 理事
北海道卸売市場審議会 委員
北海道産業団体協議会 幹事
北海道・ロシア連邦極東地域経済交流推進委員会 委員 他
北海道漁業協同組合連合会
札幌市中央区北3条西7丁目
TEL011-231-2161

 世界人口が60億人代から90億人に達すると予測され、食糧への需要は高まる一方だが、世界の水産物は、安全性に不安を抱えた養殖ものの比率が高く、天然物への要求が高まっている。そうしたとき、周囲を広大で、かつ肥沃な海洋に囲まれ、放流による資源増殖で漁獲された北海道の天然水産物にも世界の注目が集まり、北海道水産物の海外輸出が急増している。浜値を維持し漁業者を守るために、流通対策を推進する北海道漁連の宮村正夫副会長に、今日までの経緯と今後の展望などを伺った。

──北海道の水産業の特色と近況をお聞きしたい
宮村 北海道で獲れた魚介類の8割は本州や外国に出荷しているので、PRや販促活動は本州が中心となってしまうため、逆に地元の北海道での認知度が低くなりがちですね。  北海道は平成19年度時点で総漁獲量が142万tとなっており、全国では576万tですから、全国の4分の1の漁獲量を安定的に維持しています。北海道の水産物の特徴は、世界的に養殖漁業が普及している中で、北海道は放流天然物が主流であることです。稚魚や稚貝を育成して海に放流し、以後は自然の中で成長したものを漁獲するという増殖事業に力を入れています。主力はコンブ、ホタテ、サケ、マス、スケソウダラなどの北方魚種で、全国シェアも非常に大きなものです。  漁連としての取扱高は、平成19年時点で3,067億円で、概ね3,000億円台を維持しています。15年は2,500億円に落ちていますが、原因は魚価安によるもので、その後に輸出が増加し魚価が回復したお陰で、3,000億円台に回復しました。量販店に直接販売する直販事業は170億円となっています。
▲ぎょれん販売 株式会社
──漁連と、そのグループの概要を伺いたい
宮村 組合員である全道の漁業者は2万人で、漁協は合併によって76組合となりました。資本金は、全漁協による50億円の出資に基づき運営されています。事業は販購買事業と漁政活動指導事業があります。  漁連の出先事務所は道内10カ所で、本州には仙台、東京、大阪、福岡に事務所があります。  水産物の加工販売が主業務ですが、漁政活動としては、貿易問題や燃油問題にも取り組んでいます。もちろん環境対策も着手しており、植樹運動を全道で展開しています。「漁民の森づくり活動推進事業」や、北海道女性連と連携して「お魚殖やす植樹活動」などで、「100年かけて100年前の自然の浜を」をキャッチフレーズとしています。この他に河川の水質を分析する施設もあります。  現在は原油高騰が問題となっていますが、漁連は根室と稚内に大型の燃油タンクを保有しており、備蓄しています。この他にも各漁協と共同で、各地の漁港に200以上のタンクを持って漁業者に燃油を供給しています。  ぎょれん設計事務所という独自の設計事務所があり、4人の一級建築士と3人の二級建築士が、全道の漁協や漁連の施設の設計を担当しています。現在、代表を務める小田事務所長は、本来は漁連の購買担当の職員だったのですが、彼を始め数人が本業の合間に自力で建築を学び、資格を取得したので、設計事務所を設立することにしました。  この他、 100パーセント出資の子会社は10社です。  ぎょれん販売(株)は、札幌市西区八軒に工場、新千歳空港内に店舗を運営しています。大阪本社で東京に営業所を持つ(株)北光は、コンブや干した貝柱の国内販売や香港、台湾、シンガポールなどの東南アジアへの輸出を手がけています。(株)ぎょれん食品と業務がほぼ同じなので、今年から合併しました。  ぎょれん総合食品(株)は、石狩市に秋さけ専用工場を持っていますが、その他にフライ工場があり、さらにコンブの加工場もあります。(株)ぎょれん鹿島食品センターが茨城県にあり、用地1万坪の規模で、5期工事で順次加工場を増設しています。道産品をパックして全国の量販店に卸していますが、この施設は無塵室と、静電気解凍機もあるHACCP対応施設です。  その他、(株)ぎょれん道東食品は、根室市と厚岸町に冷凍食品工場を有しています。冷蔵庫と凍結室が、老朽化しているので、国の補助によって来年1月から全面改築に着手する予定です。  (株)ぎょれん室蘭食品はホタテの干貝柱を作る工場ですが、さらに冷凍食品工場を建設しようと考えています。(株)ノースコープぎょれんは貿易会社で、中国からの資材の輸入、水産物の輸出などを担当しています。  マリノサポート(株)は、漁において使用される浮玉や定置用ロープ、養殖用丸籠、漁網などの資材や器材などを、商社を介さず中国に製造を委託し、直接輸入し、漁業者に安価で提供しています。各漁協には、そうした資材の購買事業担当者の人員が少ないので、マリノサポートの17人のスタッフが浜に安価で良い資材を仲介しています。  (株)北海道ぎょれんビルは、札幌市中央区桑園と、東京都内に7階建ての自社ビルや職員住宅を所有し、管理・運営に当たっています。(株)ぎょれんシステムは、漁連だけでなく漁協のためのシステムソフトの開発に当たっています。
▲北海道の秋鮭
──近年の漁獲量や漁獲高の推移は
宮村 北海道の漁業生産量は、平成元年には216万tだったのが、ロシア海域から撤退したり、大量に獲れたイワシが獲れなくなるなどの変化によって、右肩下がりで推移し、19年度は143万tにまで下がっていますが、近年は沿岸沖合主体に140〜150万tで安定しています。生産額としては、魚価安や輸入増などによって底値を打った15年の2,476億円以降は、4年連続で上昇し、18年度は2,939億円で、3,000億円レベルにまで回復しています。  漁業者についても、農業と違わず漁業に従事する就業者数が減少しており、高齢化も進み、およそ全体の4割が60歳以上となっていますが、オホーツク海側のようにホタテやサケなどの資源が豊富なところは、経営状態も良いので若い人々も参入してきていますから、経営さえ安定すれば後継者も確保できるものと思います。しかし、全道的には依然として漁業者の減少と高齢化は進んでいます。  漁協も合併によって76漁協体制となりましたが、これについては経営体質の強化が目的ですから、減少それ自体には問題はありません。  魚価は、14〜15年には全ての魚種で軒並み下落しました。秋サケなどは、雄雌込みで150円にまで下がりましたが、19年度にはようやく340円くらいまで回復しました。ホタテも80円にまで下落しましたが、150円くらいまで回復してきました。世界的に魚介の需要が増えており、我々も順調に輸出できるようになったためです。  輸出によって国内の需給バランスが改善し、価格が安定してきました。
▲ぎょれんブランド商品
──世界的に食習慣が変わったのでしょうか
宮村 日本人は一人で平均70キロ程度の魚食量だったのが、近年は若干ながら減少傾向にあります。しかし、他国ではおよそ10キロから20キロ程度でしたが、最近になって欧米でも消費量が増えており、とりわけ中国では飛躍的に増加しています。その全体的な傾向は、特に2000年以降に極めて顕著となっており、EUでは鶏インフルエンザやBSEの影響によるもので、アメリカでは肥満やメタボリックなどを懸念する健康意識が高まり、ソフトドリンクの自販機を撤去したり、週に二回の魚食を奨励しています。このために、魚介類は肉類よりもかなり高値ですが、需要は確実に伸びているのです。  ところが、世界の漁獲量を見てみると、横ばいから減少状態となっています。世界中の海洋が漁業開発されてしまい資源問題が起きています。これはもう簡単には回復はしません。その反面で伸びているのが養殖漁業で、これによって世界の需要をカバーしている状態です。  ただし、これは養殖中に魚が病気で全滅する可能性があり、抗生物質やワクチンなどを投与するため、特に欧米では養殖ものについては食の安全性に関わる問題点がクローズアップされています。それだけに、欧米では天然産のものへのニーズは非常に高くなっています。いずれにしても水産物については、世界の需要に生産が追いつかないだろうと予測されています。
▲燃油タンク(稚内)
──安全性の高い日本の魚介類の出番が来たといえますね
宮村 日本は国土面積では世界で61番目で、人口規模では10位となっています。しかし、200海里の海域となると、第6位に位置しています。つまり広大な国土を持つロシアや中国よりも海域が広いわけです。そのため、世界的に見ても漁業が盛んで、水揚げ量を見ても5、6位にあります。ただでさえ世界の需要は増加傾向であり、中でも天然魚への要求は高まっていますから、周囲の海岸線が3,000キロに至る北海道の可能性は高いのです。暖流と寒流の交差するポイントにプランクトンが多く発生するので、良い漁場となりますが、道東がまさにそうしたエリアです。また、オホーツク海は大陸棚が続いており、良い漁場に恵まれています。したがって、かつては大漁になると価格が下がって経営に苦労したものですが、今日では流通面は輸出対策などによって対応できるので、資源管理を確実に行い、漁穫を殖やしていけば、北海道の漁業は発展していける可能性があります。  そこで、世界の貿易の流れを見ると、かつては世界中の水産物が日本に集中していたのが、近年になってからはアメリカから直接ヨーロッパへ輸出されたり、東南アジアから欧米へ流通するなど、輸入フローが全く変化してしまいました。FAOは近い将来需給ギャップが生じるものと予測しています。  さらに国連の発表した人口予測を見ると、2050年には90億人に到達するとのことで、食の問題は大きな課題となるでしょう。  その日本で輸入している魚介類の数量は、平成13、14年は380万tで、史上最高となりました。一貫して増えてきたのですが、それが減り始め、昨年などは300万tを下回りました。これは自給率が上がったのではなく、商社が買い負けして調達できなかったためです。外国の買いが強力で、欧米需要に圧されて輸入できない状態となっています。この傾向はまだまだ続きそうで、実際に今年も上半期の結果を見ると、輸入量は減っています。

道産水産物の流通対策を推進(中編)

――東京支店に18年勤務

北海道漁業協同組合連合会 代表理事副会長 宮村 正夫氏


 かつて北海道からの輸出が少なかった道産水産物が、今では年間の輸出量が15万tに上り、鉄鋼、機械に次いで3位という位置を占めるに至った。北大農学部卒でありながら水産界に入り、18年間に渡り東京支店で国内市場の確保と海外市場の開拓に当たった宮村正夫副会長は、一方で250億円もの損失を生み出したぎょれん事件に遭遇する。

──日本からの輸出も増えているようですね
宮村 平成12、13年の全国の輸出量は20万tくらいだったのが、この数年間では60万tで3倍になっています。なかでも北海道の水産物輸出は、全国の伸び率を大きく上回り、急増しています。北海道の港湾からの輸出は、平成10年頃には2、3万tしかなかったのが、近年は14〜15万tにも達していますから、3倍どころではありません。輸出金額も、かつては50億円に満たなかったのが、近年では350億円に上り、この他にも検品の都合等で神戸から輸出している干し貝柱は100億円、東京港と横浜港から輸出している冷凍ホタテも100億円、スケソウは下関で通関し、韓国に輸出しており、これは67億円となっていますから、輸出総額は600億円に近いレベルになっています。  北海道からの輸出品目を示した4、5年前のパイグラフでは、自動車や鉄鋼が圧倒的で、魚介類などは登場していなかったものですが、19年度は336億円で第3位を占めるようになってきました。  さらに主要魚種の輸出動向を見ると、秋サケの魚価はこれまで激しく乱高下していましたが、18年以降からは雄雌込みで300円の浜値レベルを落とさないよう維持しています。昨年の場合は漁獲量は16万tで、輸出量はおよそ6万tですが、頭部と内臓を除いて輸出されるので、原魚で見れば半分くらいが輸出されています。それを中国で骨を取り除いて、さらに欧米へ輸出されるという流れで、消費は欧米です。ただ、中国食品の安全性の問題が発生したため、今年は試験的に加工の一部をベトナムに移転します。また、完全な骨取り機も新たにメーカーに開発を依頼していまして、これが実現すれば、北海道からアメリカへ直接輸出することも可能になります。  ホタテについては、殻付きで40万tですから、正味はその12パーセントくらいです。仕向けとしては、干し貝柱を製造し、ほとんどは香港や台湾に輸出しています。また、冷凍品については、平成15年に国内在庫が過剰となり浜値を暴落させました。このため浜に1キロ2円約6億円の拠出を願い、損をしてアメリカに4,000tを輸出しました。これで国内の在庫を処分しました。そのお陰で、翌年からホタテの浜値が一気に回復し、それ以降は特段の対策をしなくても正常に輸出できるようになってきています。現在では9,000tに増加しており、これは原形の貝の状態では10万tに匹敵することになります。この他に、7万tの干し貝柱など乾燥食品が台湾、香港に輸出されているわけです。  一方、スケソウについてみると、かつては韓国が自前のトロール船で北海道やロシアの沖合で漁獲し、チゲ鍋の材料に利用していたのですが、200海里規制で閉め出されたためにスケソウを買い付けるようになり、北海道からも生鮮ものが輸出されるようになりました。冷凍品は中国に輸出し、同じく骨や内臓を除去してフィッシュバーガーの原料に使用されたり、フィレとして欧米に再輸出されています。この結果、輸出量は7万〜8万tとなっています。  コンブは、これまで台湾に輸出しており、最高では平成4年に2,500tにもなっていたのが、かなり減少しています。原因は、中国の安価な養殖コンブに台湾マーケットを奪われたためです。そこで政府予算を活用し、3カ年計画のうち今年が2年目ですが、道産コンブの台湾マーケットの回復に取り組んでいます。
▲昆布漁
──道内の自給率が十分で、対外輸出においても独自の強味を持つに至った北海道の水産業にも、ウィークポイントはあるのでしょうか
宮村 やはり、漁業経営が全道的に安定しなければなりません。漁業の生活は苦しいからと、親が子には継がせない状況では困ります。しかし、これまでと違って世界のマーケットを相手に展開が十分にできるので、資源管理を確実に行い、殖やしていくことができれば北海道の漁業は安定してくるでしょう。  また、漁業者の高齢化対策も重要ですが、これも経営を安定させ、若者が後継してくれるようになれば、解決していくものと思います。その他、近年の燃油高騰とコスト高の問題、WTO貿易対策、国内外の流通対策、衛生管理対策などは、地道に取り組んでいけば、それほど悲観的になる必要はないでしょう。  ただ、今後対処を考えなければならないのは、日本の若年者層の食生活における魚離れです。残念ながら若い人ほど魚の消費量は減っています。欧米では箸を使う習慣がないために、魚は骨がない状態で供給されるのが当たり前の慣習ですから、日本の若者にももっと食べやすい状態で提供すべきだろうと思います。欧米、中国、東南アジアでは相対的に魚介類の消費量が増えているのに、魚食大国の日本人があまり食べなくなっている状況は皮肉です。  輸出を拡大しているとは言っても、私たちのマーケットの主力はあくまで国内ですから、150万tに上る漁獲の大半を国内で消費してもらわなければなりません。輸出はいわば価格対策と国内の需給バランスを安定させるために行っているのであり、あまりにも漁獲が多すぎて、魚価が値崩れするような状勢の時に、それらを凍結して輸出し、外国に消費してもらうわけです。大漁の結果、全てがマーケットに出回ったのでは価格が下がるため、水揚げの段階で我々が買い上げてしまうわけです。それによって国内の需給バランスが維持され、浜値も崩れずに安定するわけです。
──宮村副会長がこの職務に携わったのはいつ頃で、どのような情勢でしたか
宮村 昭和43年に漁連に就職しましたが、北大農学部卒ですから水産とは全く関係がなく、もちろん同期生の友人もホクレン関係に勤務する者ばかりです。  30代中半から東京支店に18年以上も勤務しました。入会した当時はニシンが消滅してしまい、ロシアからの輸入もできなくなり、アラスカ、カナダから輸入するなど対策に追われていた時期でした。  その後には漁連事件が発生し、200億円を超える損失を出してしまったのです。その時34〜35歳くらいの時に、東京支店に赴任し、その後18年半東京で仕事をしました。平成3年には債務を完済し、再建を達成ました。その間にも工場などの設備投資はしてきたのですが、今は年度末借入金ゼロにできるまで財務体質が改善しました。
──驚くべき成果ですね
宮村 農林中金の支援を受けながら、当時600人だった職員を400人に削減して再スタートしたのです。事件直後には、アンチ漁連の立場を表明した漁協なども現れましたが、今はそうした様子は全くなく、全ての漁協がぎょれんに結集し様々な対策を進めています。
──18年間も同じ支店に勤務するのは珍しいのでは
宮村 私が最初で最後と思います。当時は道内の漁家がカニ漁やエビ漁に出られるよう、ロシアと契約交渉に当たったりしていましたし、道産の魚介類の販売先の主力は関東圏であり、一方、所管官庁の水産庁もあります。仕事がたくさんありました。そのため、本部には帰らずに東京勤務を希望し18年半に及び、結果的には私が最長勤務となりました。
▲中国での販促フェア
──やはり人口の半分が集積している関東圏のマーケットは重要ですね
宮村 北海道水産物の大半は関東圏のマーケットで販売されます。輸入品も多く競争も激しい所です。そこに売り込んでいきます。現在も60名を超える職員がいて営業に力を入れています。  やはり全道の浜が漁連に結集し、事業が進められているという体制は強固なものです。  ただし、闇雲に価格を設定するのではなく、漁獲量に基づいて国内販売分と国外輸出分の流通量を見越しながら判断しているわけですが、少なくとも道産水産物の価格決定の主導権を握ることは、生産者団体としての使命でもあるのです。  したがって、当然ながら市況によっては価格を下げることもあります。
──かつて発生した数の子倒産を通じて、在庫調整と価格決定の難しさを傍目にも感じさせられましたが、そうして生産者団体が価格決定を主導していくシステムは、いつ頃から確立されたのでしょうか
宮村 この取り組み自体は、かなり以前から続けてきていました。しかし、相場等のリスクがありますので、浜と一体となって消通対策に取り組む必要があります。数の子事件の時は、道内の加工原料確保のためとはいえ、輸入品でした。今は輸入品の取扱は全くやっていません。
──海外の販路開拓にはかなりの努力があったでしょう
宮村 道内における全日空国際線の利用率は、我々漁連関係者がダントツに多いそうです。今年は、魚卵を好むロシアにイクラを輸出しようと企画し、職員が足繁く通っています。関係部署の職員が常に海外に目を向け情報を収集し販路開拓に努力しています。

欧米市場向けサケ加工場のベトナムへの移転も検討(後編)

――国際標準として求められるエコラベル認証の取得を目指す

北海道漁業協同組合連合会 代表理事副会長 宮村 正夫氏


 日本にとって重要な食糧輸入先である中国食品の安全性が揺らいでいるため、欧米向けにサケ、ホタテを中国経由で輸出する漁連は、小骨などを除去する加工場のベトナム移転を検討するなど、具体的なアクションを起こし始めている。しかし、クリアすべき課題はそれだけでは終わらない。欧米諸国では、消費者も含めて水産資源保護の意識が高まっていることから、有力量販店の中には適正な資源管理の証明となるエコラベル認証付きの商品しか扱わないところもあり、国際市場で生き残るためには、道漁連が供給する道産水産品もそうした国際認証の取得を目指さなければならない。
──最近は産地偽装も次々と発覚し、安全性がからめば国際問題にも発展する時勢ですから、品質管理も世界標準のレベルが求められるのでは
宮村 現在はアメリカに輸出できる基準で管理していますが、現在、根室市に20億円以上の総工費で建設を予定している加工場は、アメリカよりも厳しいEU基準も視野に入れた施設にしようとしています。今年は石狩市で、コンブを刻む4億円規模の工場が竣工しました。本州の佃煮メーカーから、1pに刻んだ状態で納入することが求められており、その一つ一つに例え髪の毛一本でも付着していてはならないので、刻んだコンブは強風の中を通すなど、何工程も経ることになります。そのための設備として4億円も投じるのです。  一方、我が国の消費者が、輸入品よりも国産品に目を向けてくれるのは追い風です。最近、産地偽装が発覚して問題となった関係者が、経緯説明と謝罪に訪れた際、「2ヶ月は仕事にならない状態」と話していたので、北海道産のものを扱ってはどうかと提案しています。北海道としては、そうしたことも視野に入れてさらに努力し、消費者が利用しやすい製品に加工して提供すれば、まだまだ国内でも需要を増やしていけるでしょう。  そして肥沃な海域を利用し、資源を増やすことができれば漁業者も豊かになり、輸入は減少しても国民への食糧供給は維持できます。こうした可能性から、水産の将来は農業よりも明るいのではないかと、個人的に思います。何しろ、水産の場合は、農業のように保護されず、当初から国際価格の中で競争に打ち勝ってきているので、輸出もできるわけです。
──天然物が豊富に獲れるのは、国際競争においては強力な強味ですね
宮村 外国へ出荷した時には、特に強味を発揮します。その分、サケなども養殖サケよりは遙かに高価格です。餌で成育をコントロールし、大きさや身の色、脂肪分の比率などを、製品化の段階で調整しやすいので、統一した規格品を作りやすいのです。  しかし、天然サケとなると、大きさなどは加工段階でなるべく調整しますが、身の色や脂肪分などは成育段階で顕著に変化していくため、規格品とするのは困難です。これが、天然物の弱味ともいえますが、それを中国の加工場で品質を統一して欧米へ輸出してきたわけです。  しかし、中国で食品の安全性に問題が起きたので、加工の一部をベトナムに移転することも進めています。この動向は、我々だけでなく、他の大手メーカーその他の食品会社も、同じくベトナムに拠点を移し始めているのです。  一方、それに合わせて加工機械の開発も進めることが必要で、日本の機械メーカーの技術は、かなり向上しており、既存の機械でもほとんどの骨は除去できますが、背びれなどは深く入っているので、数本はどうしても抜けないのです。そのため、全てが完璧に取り除けるものを開発して欲しいと、メーカーの社長に依頼し、徐々に実現しつつありますが、やはり完璧なものは難しく、当面は機械の他に女工さんを配置し、機械で除去できない部位は手作業で行う必要があります。
▲水揚げ
──北海道ブランドの確立は、長年の悲願でしたが、それが実現し結実したわけですね
宮村 幸いだったのは、平成14、15年にサケもホタテも値下がりしたことで、価格競争力を持てたことでした。頭部と内臓を除去したものが、1,100ドルで売れたわけです。その安いときに、欧米の業者がそれならばと本格的に取り扱い出したところ、ものは天然で身の色はアラスカの身色よりも良く、人気が出たために輸出量が増加し、価格は2〜3倍に高騰して2,500ドルになっていますが、それでも欧米の需要は落ちることがなかったのです。  かくして北海道ブランドは定着しており、今では北海道のサケ、ホタテが、今年はどれくらい獲れるか、アメリカ、中国、ヨーロッパの関係者が毎日のように情報収集するようになっています。我々も、正午までには全道の漁港の日々の収穫量のデータが集約されるので、それらを全て公開しています。
──それほど世界が関心を持って見ており、情報公開するとなれば、浜の人々も自分たちの収穫した魚介類の値動きをリアルタイムで知ることができるので、やりがいや意欲に繋がりますね
宮村 その通りです。10月後半になると、ブナサケが獲れるのですが、平成7、8年頃には単価が20円でしかなかったものです。このブナサケは、その当時は中国の黒竜江省などに1キロ40円から50円程度で販売されていた程度でした。様々な対策を進めてきまして、今は随分と高くなりました。
──近年はどの自治体も税収が確保できず、経済を再生するための地域おこしにも苦慮していますが、前浜を持つ自治体は有力な資源を生かすべきですね
宮村 そうです。実際にオホーツクなどはサケとホタテと両方の資源を持つので、漁業者の経営状況は非常に良好です。また、根室市や釧路市は、元から大型船の基地だったので疲弊していますが、地元の漁業者は堅実に経営しています。  ただ、檜山管内から留萌管内にかけては、資源が不足しているため苦戦しています。韓国のトロール船が、資源を台無しにしてしまったためです。かつては武蔵帯が魚類の産卵場所となっていたのですが、1,000t級の韓国漁船が通り、トロールで海底を平坦にしてしまったために、産卵場所が破壊されたのです。
──そうしたものが完成してくれば、日本海側で疲弊している地域でも、漁業によって再生することが可能となるのでは
宮村 ニシンの放流もしていますが、少しずつ還ってきていますから、数年間はニシン漁を禁止して資源を保護するなど、もう少し徹底した対策を行えば、資源が回復してくるのではないかと思います。  資源というのは、本来は採り尽くしてしまえば終わってしまいます。しかし、水産資源は、適切に管理すれば、枯渇することなく永続的に利用できるのです。ヨーロッパはその資源がなくなったために、むしろ持続可能性を重視する意識がとりわけ強くなっており、資源管理を確実に行われて出荷された魚にはエコラベルのマークを明示して、多少は高値でも消費者はそのマークのあるものを買おうという気運が高まっています。そこで北海道の秋サケやホタテも、困難はありますが、エコラベルの認証を得るべく準備を進めています。  アメリカでは、ウォールマートという年商30兆円を誇る世界一のスーパーマーケットがありますが、そこではマーケットとしての確固たる理念があり、エコラベルの認証を得た商品しか扱わないという方針です。間違っても密猟品などを扱うことはありません。私は、この1月にLAとシアトルのスーパーマーケットなどを視察してきましたが、エコラベルのある商品を購入する消費者は、2割くらいとのことで、今後とも2割くらいで推移するだろうとの観測でした。それでもウォールマートは、エコラベル商品しか扱わないという方針なので、納品する世界中の関係者がエコラベルを申請する動きが見られます。
──環境対策も、食も国際標準のレベルとなってきましたね
宮村 元々は日本も欧米も似た水温帯に暮らしているのですから、水産物については、どこでも似たようなものを食用してきたのです。同じくサケやタラを食用するなど、食生活は似ています。だからこそ、道産のものでも欧米で受け入れられたのです。  また、稚魚の育成技術や放流技術が大きく進展したお陰で、回帰率も向上したことも重要です。日本海側の留萌ではホタテの稚貝を育成しており、成長した稚貝をオホーツク側に供給して放流しています。整備した魚場ごとに放流し、4年目で収穫した魚場には、新たに稚貝を放流して毎年収穫できるシステムにしています。このお陰で資源は非常に安定しています。つまり海の畑のようなものですね。  しかし、ここ数年、低気圧による大時化によって、貝が死滅し、大きな影響を受けています。そのため、国費を導入して漁場を沖合に移転する事業を進めています。それが完成すれば、以後は生産量もまた増えてきます。  それを全て国内のマーケットに出荷したのでは、またも価格が暴落しますから、新たな市場を開拓しなければなりません。
──常に3、4年後の動向を見越して事業を進めているのですね
宮村 サケも帆立も放流してから漁獲が4年後ですから、当然先を見た対策が必要になります。  とはいえ、先行きは何が起こるか分かりません。16万tの漁獲を目指して努力したら、20万tの漁獲を得るかも知れず、そうなると値崩れを防ぐために、4万tのマーケットを開拓しなければなりません。  近年サンマが豊漁で値崩れを起こしています。この対策は大変に難しい課題です。漁業者の半分が本州の漁家で、北海道の水揚げは4割でしかないのです。そのため道東だけで対策を打っても、三陸から銚子にかけて豊富な収穫があり、値が崩れたのでは手の打ちようがないのが実情です。
▲本社社屋
──まさしく国外マーケットを開拓して、国内の流通量を調節するといったノウハウがあれば、状況は変わるでしょう
宮村 協同組合は株式会社とは違いますが、経営を安定させるためには一定の利益は上げなければなりません。ただし、視点はあくまでも浜のためであることを忘れてはなりません。浜に軸足を置き、浜のための仕事をしていれば、多少のミスがあっても容認してくれます。  逆に儲かるからと、浜には全く関係のないビジネスをしていたのでは、儲かっても賞賛されるものではなく、むしろ損失が出たなら厳しく追及されます。したがって、判断に迷ったときは、常に浜に軸足を置けというわけです。  サケの価格を300円を目標としたのも、これは生産者としてのエゴではなく、昨年の価格は340円だったのですから、今年も300円くらいならマーケットの動向から無理なく販売できるとの市況判断から、その価格に設定したわけです。
──この夏には燃油高騰のために、大規模な決起集会が行われましたが、この問題にはどう対処しますか
宮村 省エネとかいくつかの条件がありますが、政府が値上がりした分の一部を補ってくれる制度が創設されました。これは2年間です。その間に燃油が高くても漁業経営が成り立つような流通改革と、生産における改革を進めることになっています。そこで、9月10日の締め切りに合わせて、全道的に申請しようとみんなで頑張りました。  漁場の探索を共同で行ったり、コンブ漁などは誰しも全速力で自分の漁場に行きたがるものですが、それを減速して消費を減らしたり、漁船のエンジンも2サイクルよりは4サイクルの方が燃費が良いので、国の半額補助を利用して船外機を交換して、2割から3割くらい節約しているケースもあります。
──最近は様々なエネルギー開発が進められているので、これを機に原油離れして依存度を低めることができれば理想的ですね
宮村 しかしながら、漁業の場合は原油への依存度がかなり高いのです。収穫した後は、なるべく鮮度を維持するために、全速力で戻ることになり、サンマの競りでも、朝7時の競りと9時の競りでは、早い方が価格が高いので、みな急いで搬送してきます。また、照明をより明るくすれば、イカやサンマがより多く集まってきますが、それをみんなで制限して省エネに取り組んでいかなければなりません。  一方、流通対策も手は抜けず、PRや宣伝活動その他の対策も力を入れています。

会社概要
設  立: 昭和24(1949)年8月26日
出 資 金: 50億3,862万円(平成20年6月19日現在)
総取扱高: 3,067億円(平成19年度)
会 員 数: 84会員(平成20年6月19日現在)
職 員 数: 333名 (平成20年7月1日現在)
事業所数: 16箇所
グループ会社: 10社

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