食彩 Speciality Foods

〈食彩 2008.12.1 update〉

interview

秋サケ漁の大打撃を乗り越えて源安定化へ努力

――北見管内で新設される鮭鱒増殖施設で資源増大へ

社団法人 北海道さけ・ます増殖事業協会 会長理事 今井 鐡男氏

今井 鐡男 いまい・てつお
昭和16年10月17日生まれ
昭和39年 3月 名城大学 卒業
職歴
ウトロ漁業協同組合 代表理事組合長(H6年4月)(社)北見管内さけ・ます増殖事業協会 会長
北海道漁業共済組合 第一理事
北見管内漁協組合長会 会長
北海道海面利用協議会 会長
網走海区漁業調整委員
(有)今井共同漁業部 社長
平成18年 現職
(社)北海道さけ・ます増殖事業協会
札幌市中央区北3条西7丁目1番地 水産ビル5階
TEL 011-271-5421

 地球温暖化の影響で、今年は海温が2度も上がり、秋サケ漁は不調で、各地の加工会社では原料不足に悲鳴を上げている。そのため、今こそ(社)北海道さけ・ます増殖事業協会の出番だが、資源を闇雲に増やせば良いというものでもなく、サケの生育環境や市場動向、国外での需給動向など、多方面に目配りする必要がある。さらに今井鐡男会長理事は、会員となっている9地区の格差解消と均衡を重視し、「一カ所が疲弊すれば、他の地区も巻き込まれ、他業界にまで波及する」と危機感を強めている。

――北海道のサケ・マス増殖事業の沿革からお聞きしたい
今井 北海道は明治21年に、石狩川の千歳中央ふ化場で本格的なふ化放流事業が幕を開け、国と民間が長年にわたって増殖事業に取り組んできましたが、生物的な知識の不足などもあって、資源水準は昭和40年代の前半までは低迷していました。  例えば、昭和6年から昭和39年においては、シロザケ稚魚を毎年平均2億2,000万尾ほど放流していましたが、成長して沿岸に戻ってくるサケの数は、平均2,600千尾程度で、回帰率は1.2%でした。このため当時の定置漁業は経営が不安定で、あまり人気がありませんでした。  その後、昭和40年代の中頃から、稚魚に餌を与える給餌飼育、昭和50年からは沿岸水温に合わせた適期放流の導入、増殖施設の整備が進められ、放流数が昭和54年に7億9千万尾、平成元年には10億5千万尾へと増大し、これに伴い、来遊数は昭和60年に3,000万尾、平成6年には5,000万尾を超えることとなりました。
――そうした放流事業を一手に担ってきたのが、この協会ですね
今井 そうです。現在は、毎年全道で約10億尾の稚魚を放流していますが、このうちの約8億5千万尾は、全道に9つある民間の増殖組織が行っています。  協会としては、さらにサケ・マスふ化放流事業の質的向上と効果的な推進を図るために、「全道増殖事業の調整管理」、「地区事業への支援」、「調査・研修事業」、「教育用種卵の供与」、「環境保全対策」などを地区増殖組織と協力して取り組んでいます。  また、本州の民間増殖組織と連携を強化し、国に対してふ化放流事業や種苗生産施設整備への支援などについて、政策要望も行っています。
――オホーツク海側の北見管内は、他の海域よりも経営環境が有利とのことですね
今井 網走支庁管内はオホーツク海の東・中部に位置し、水産業が盛んな地域で、中でも秋さけは毎年1億8千万尾の稚魚を放流し、この5ヵ年平均で1,700万尾を漁獲し、管内水揚げ総額500億円のうちの40%を占める基幹魚種となっています。  長年にわたって増殖施設の整備にも力を入れてきていますが、その一環として、平成19年度には国の補助を得て、網走川水系の上里ふ化揚に稚魚飼育能力1千万尾規模の飼育池8面を整備し、安定した稚魚の生産と大型稚魚の適期放流を行い、回帰率の向上と資源の維持安定を図っています。こうした取り組みによって9地区が独立し、独自性が持てる経営環境を作ることが最大の課題です。一カ所が疲弊すると、それが他の地区を巻き込み、さらにあらゆる分野に波及してきますから。
――今年は特に温暖化の影響で、秋サケ漁が不調で、加工業界でも原料不足のために苦慮しているとのことですが
今井 本道におけるサケ・マスふ化放流事業は、国際的にも類を見ない成果を収め資源管理型漁業として先駆的な役割を果たしていますが、しかしながら、着実に増加してきているように見えるサケ・マス資源も、平成15年からの5ヵ年間は5千万尾代の来遊を維持してきたものの、今年は前年を30%も下回る不漁となっており、資源はまだまだ変動が大きい状況にあります。  この不漁の原因は、全道的に同じ状況であることから、ふ化放流に問題があったのではなく、4年前の稚魚放流時期に沿岸帯から沖合にかけての環境に原因があったのではないかと思われます。その他の魚介類にしても、昨年に比べると生育状況の悪さが目立ちます。  今後に量的拡大が見込まれるのは、北見管内と根室管内の一部くらいでしょう。したがって、地域的な格差は依然として大きく、今なお解消されていません。また心配なのは、それらの価格が高騰することで、加工業界が大ダメージを受けることです。一方では、チリで養殖事業の規模を3倍に拡充するとのことで、輸入物が大量に流入するようになるかもしれません。そのため、国や道の指導を頂きながら、来遊資源の安定化を図ることが重要だと考えています。  また、本年12月からは公益法人制度の抜本的な改革が進められることになっており、公益法人を巡る環境も大きく変化してきています。サケ・マス増殖事業は、国民に安全で良質な蛋白資源を供給する重要な事業ですから、新しい制度の下において、引き続き公益目的事業として認定されるよう、積極的な対応が必要と考えています。  その他、斜里町内の組合合併も将来構想としてはありますが、現時点では両組合とも経営的には自立できているので、組合員を説得するのは困難が予想されます。自己資本比率を見ても、67〜68%と非常に高く、健全経営で、組合員もそれを自覚していますから。
▲上里 さけ・ますふ化場
――今後の事業展開とビジョンをどう描いていますか
今井 ふ化放流事業の統括管理を担っている北海道は、平成20年から24年までの5年間で来遊資源目標を6,000万尾として計画しているので、その目標の達成に向けて、ふ化放流の主体を担っている民間組織として、効率的かつ安定的な増殖事業に努めていきます。これによって国が政策目標に掲げている水産物の自給率の向上と、輸出の増進にも貢献できるものと考えています。  さらには、こうした努力を続けることで、全道993ヶ所の定置漁業の経営安定化を図るとともに、この漁業には全道漁業者27,000人のうちのおよそ3割が従事しているので、漁業者の生活向上と地域の水産加工業や流通等の産業の振興にも役立っていきたいと考えています。
――会長が組合長を務めるウトロ漁業協同組合も、サケ・マス漁の供給基地として重要な役割を担っていますね
今井 ウトロ地区を含む知床一帯は、かつては海産干場方式によって植民地的な支配下に置かれていたため、漁業は衰退の一途を辿り、一時期は無人化状態にあったのです。しかし、場所請負制度の廃止によって、明治10年には9戸26人が居住し、明治30年に入ると坂口浅平、大家清三郎ら10人の個人漁業者によって、オシンコシン、ベレケ、ホロベツ、ルシャでニシン、サケ、マスの漁場が開設されました。  明治40年代になると、根室、網走方面からの進出も見られ、私の曾祖父であった今井鶴太郎をはじめ、東出重蔵、山田思太郎といった名だたる漁師がウトロ近辺で建網を始め、かなりの漁獲を得るようになりました。しかし、大正から昭和初期にかけてはニシンの回遊が止まり、サケマスも減少したため、漁法は沿岸から沖合展開が主流になっていったのですが、ウトロ地区には漁港がなかったために、趨勢に取り残されてしまいました。  けれども、昭和20年の終戦を境に、ウトロ地区の漁業は変化していきます。昭和22年に初代の組合長である赤木寅一と前組合長の高木榮作を始めとする戦地引き揚げ者が、逐次入植していったことで、ようやく本格的な漁業開発がスタートしました。23年には国策資金などを得て開発が進められる一方、水産業協同組合法の制定により、翌年に知床開発ウトロ漁業協同組合が設立されました。ウトロ漁協の歴史はこうして始まったのです。  当初は資金も資材も乏しく、経営難を極めていましたが、未開発地の開拓と遠洋漁業で財務を拡充しつつ、サケ・マス資源増大事業や電力供給事業、冷凍冷蔵庫事業を展開していきました。そうして今日では組合員も170人となり、第4種ウトロ漁港を有し、設備も近代化しています。そして直販店「ごっこや」を経営するほか、女性部では全道漁協の中でも珍しく食堂を経営しています。これは眺望に優れており、女性部の努力の甲斐もあって、年間に5,000人が訪れるようになり、賑わっています。
――会長が魚と関わるようになった経緯をお聞きしたい
今井 私は昭和16年に生まれ、中学生の頃には船を係留するため、巻き上げ機による作業を手伝わされたりしたものです。当時はニシンが群来て、海が真っ白になっていました。ソイやガヤなどの雑魚も大量に揚がり、浜で分け合ったりしましたが、今では漁民の意識も変わり、それらも高級魚として市場に出荷しています。  後に名古屋市内の大学で工学を学んだのですが、私の祖父の代から定置網漁に携わっており、経理事務などを委託しなければならなかったため、私が引き受けることになりました。  現在はこのポストに就任して2年目ですが、縁あって全道各地に住む多くの漁民と知り合えたことは、幸福だと思います。現場だけに専念する人もいますが、定期的な会合や様々な機会を通じて現地の事情が聞かれたり、情報交換など交流できるのは嬉しいことだと思います。
──津別町上里地区で整備中の鮭鱒増殖施設が11月に完成しますね
今井 新築中の上里さけ・ますふ化場・ふ化室養魚池は、北見管内さけ・ます増殖事業協会が増養殖事業に関わる全てのノウハウを投入し、最新設備を導入して整備しています。ふ化室棟は171.58u、養魚池棟は1,092uで、現在は2期工事に入っており、この11月10日に完成を予定しています。  今年から5年間で6,000万尾を目標とする道の計画がスタートしているので、その目標の達成に向けて大きく貢献するものと期待できます。

協会概要
設立:昭和42年4月17日
目的: この法人は全道のさけ・ます増殖事業を効率的かつ円滑に推進するため、事業の調整管理及び事業支援等の総合調整を実施し、もってさけ・ます資源の増大を図ることを目的とする。
事業 : この法人は前条の目的を達成するため、次の事業を行う
  1.全道のさけ・ます資源の増殖に関するふ化放流計画調整や種卵の需給調整
  2.全道のさけ・ます増殖事業への支援と協力
  3.さけ・ます人工ふ化放流の実施
  4.全道のさけ・ます資源の増殖に関する啓蒙宣伝
  5.全道のさけ・ます資源増殖に必要な調査研究と環境保全対策
  6.その他目的を達成するために必要な事業
会員の状況(平成20年4月1日現在):
 ・市町村 76会員〕
 ・漁協等 88会員
  (内訳:系統団体 4、地区増協 9、漁協 75)
 総計 164会員

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