食彩 Speciality Foods

〈食彩 2008. 9.18 update〉

interview

放流による天然サケ ホタテなどを主力に世界市場へ進出(前編)

――つくり育てる漁業の成果

北海道水産林務部 部長 武内 良雄氏

武内 良雄 たけうち・よしお
平成11年5月 水産林務部栽培振興課参事
平成12年4月 水産林務部企画調整課 参事兼水産林務部企画調整課研究普及室長
平成13年4月 水産林務部漁業管理課長
平成15年6月 水産林務部技監
平成17年4月 水産林務部水産局長
平成18年4月 檜山支庁長
平成19年6月 水産林務部長

 我が国の食糧は自給率が50パーセント以下で、先進国でも最下位であり、常に食の安心と安全性を脅かされる立場にある。のみならず、穀物を筆頭に今後の世界人口と食糧のアンバランスから、将来的な食糧危機も懸念され、食糧輸入大国の日本は世界でも迷惑な存在となりつつある。かつては米国との間で工業製品の輸出と食糧の輸入を交換条件に発展してきたが、今後は自立への道を模索しなければならなくなるだろう。そうした情勢から、自給率190パーセントを誇る北海道の生産力と、生産物の安全度と高い品質が注目されている。四方を資源の豊富な海域に囲まれた北海道の水産と政策について、北海道水産林務部の武内良雄部長に伺った。

▲サケ定置漁業(漁獲)
──燃油問題など、漁業を取り巻く環境が国際経済によって大きく揺さぶられていますね
武内 21世紀は食と環境とエネルギーの時代と言われますが、私たち水産林務部は、まさに食と環境を担っています。今後の人口問題としても、世界で64億人を越えていますが、2050年には90億人に達すると予測されており、食糧危機は確実視されています。  我が国は有数の食糧輸入国ですが、早くも魚介類の輸入量が減少してきていると報告されており、その原因は欧米人の間で魚類が健康食として広まり、定着してきているからです。また、他の地域では鳥インフルエンザの影響などで、これまで日本向けに輸出してきたものも国内用に一部確保するようになったためと言われております。  こうした状況下、動物タンパク質を供給する魚類は、我が国の4分の1を北海道で生産していますから、この機に食糧供給基地として確固たる地位を築かねばならないと考えております。  また、そのためには、漁業者が自分の生産基盤を確固たるものにしなければ、様々な問題に対処できなくなります。生産環境が恵まれているうちに、漁業者の生活が成り立つよう経営基盤を強化し、最終的には北海道から動物性タンパク質を恒久的に供給し続けられる体制を確立しなければなりません。そのために、直面している燃油問題などを含めて、できることは全てやっておきたいと考えています。このままでは、廃業せざるをえない漁業者も出てきますから、自給率を高めていく上でも対策が必要です。
──食糧自給率の向上が緊急課題になってきましたね
武内 全国の自給率の平成29年までの目標値は65%となっておりますが、その自給率については、若干ながらも向上はしており、一時期は53パーセント程度だったのが、現在は62パーセントとなっています。しかし、この数値は手放しで喜べる数値ではありません。輸入量が減少したため、やむをえず国産品の消費が伸びたこともありますから、我々としては生産拡大を図ることと消費者の魚離れを防ぐことが課題と考えております。  特に今後の食糧不足は確実ですから、今まで高級魚として収益性の高かったアワビ、ウニ、毛ガニなどに限らず、多獲性魚種も確実に供給できることが重要です。そのためには、本州でしか行われていない大規模な魚類養殖も、将来的には広大な海面を利用し、安心安全な養殖として着手しなければならないと考えております。そのための生産基盤を確固たるものにすることと、本道から魚介類を安定的に供給できる体制の確立が急務です。そのための水産試験場での技術開発も重要と考えており、今後は日本海の磯焼け問題も温暖化で深刻化してくると予想されますので、これらの対策も含めて力を入れていきたいと考えております。  一方、漁連が中国への売り込みに力を入れたお陰で、サケやホタテの販売価格も上昇しました。私たちも系統団体と緊密に連携していきたいと思います。  北海道はすでに自給率は100パーセント以上ですが、ホタテやサケなどの主力魚種は寒流系の魚種であり、温暖化による水温の上昇の影響が心配であり、そのために様々な技術開発も必要と考えております。
──千葉県房総沖でしか見られない魚種が、北海道の海域で見られるようになったと、かなり以前から言われていますね
武内 福井県方面のエチゼンクラゲをはじめ、様々な暖流系の魚種が北上していることが報告されています。現在、北海道ではサケ稚魚を10億尾ほど放流しておりますが、その約5%前後が親魚となって回帰しており、北海道全体では安定した漁獲を維持しています。  しかし、今後、温暖化により日本海の水温が上昇すると、適期に稚魚を放流できないという問題が生じます。  また、北洋の水温が上がると、サケの回遊海域が狭くなり、魚の小型化や回帰率の低下などが懸念されます。  この秋サケ漁は、前浜の定置網で漁獲されるため、燃油などの経費をそれほどかけず、収穫できるという収益性の高い漁業でありますから、私どもは、心配しているところであります。
▲サケ定置漁業水揚げ
──ホタテやサケは北海道の主力魚種となっているので、これからも大切にしていかなければなりませんね
武内 ホタテとサケは2大主力魚種です。ホタテは主にホーツクで地まき放流が行われておりますが、噴火湾などでは垂下式の養殖も行われています。同じくもう一つの主力である昆布も養殖していますから、北海道の水産はいまや栽培漁業が主力という状況で、およそ3,000億円に上る総漁獲高の半分を占めています。  しかも、ハマチやブリの養殖とは違って餌を与えないので、天然で安心・安全性が高いのです。外国では餌に抗生物質などを混入させたりするので、様々な問題が発生するわけですが、北海道はあくまでも天然の力で育成していることで、水産物の安全性の高さが維持されています。
──オホーツクは北海道そして日本にとって、貴重な海域というわけですね
武内 オホーツク海は他の海域に比べ、栄養度が高く北海道の漁業の中心地となっておりますが、これは毎年、流氷によって栄養が供給されているためであり、今後、温暖化による流氷の減少を心配しております。このように、目前には燃油価格高騰問題、そして、長期的には温暖化という大きな課題を抱えております。北海道の漁業がダメージを受ければ、日本全国に波及する問題となります。
──オホーツクの活況は、環境もさることながら漁家への経営指導の成果もあるのでは
武内 オホーツクでは自主的に地まき放流を始めたのですが、日本海で稚貝を得て、それをオホーツクで放流するという手法で、これは昭和50年代の前半に政策的な方向付けがされた結果です。日本海は有毒なプランクトンが少なく、栄養が乏しいということは、逆にいえば貝毒が発生しないということです。したがって、日本海側の漁家は、健苗を生産しそれを売っているわけで、それを肥沃なオホーツクなどに蒔いて収穫するという体系が出来上がっているわけです。  このように、北海道は良い畑に恵まれていると同時に、漁業者の技術水準も高いのですが、さらに効率的な漁業を考えてほしいと考えております。現在、燃油価格の高騰という大きな課題に直面し、漁業の協業化・共同化などを検討しなければならないと思っております。ただ、漁業は、もともとは狩猟ですから、穴場を他人に教えるわけにはいかないということで、協業化は中々難しい問題です。しかし、この危機の時代を乗り切るため、この機会に協業化に真剣に取り組んで欲しいと思っています。それだけに行政としての舵取りは重要で、その指導力が求められています。
──自給率向上のためには、生産量の拡大も課題ですね
武内 確かに、生産量の拡大は重要な課題ですが、その前に、獲った魚をいかに高く売り、収支を黒字にするかが重要です。かつては大量に収穫した結果、価格が下がって大漁貧乏などという状況も見られました。扱い方によっては高価なブランドとしての付加価値も生まれることが理解できたので、漁業者の意識も単なる生産者に留まらず、収穫しただけでなく販売までの行程が漁家の責任分担であることを自覚するようになりました。この意識の変化によって、ようやく様々なブランド品が生まれるようになってきました。  とりわけ燃油価格が高騰している現在は、ふんだんにエネルギーを消費して大量に収穫するのではなく、少ないコストでいかに高く販売するかを考えなければならない情勢で、行政も系統団体もそうした取り組みを後押ししているところです。  日本では、5〜6年前にサケ価格が低迷しておりましたが、漁連の努力により、中国へ高い価格で輸出されるようになりました。中国は、これらのサケを加工して欧米に輸出しております。その背景には、欧米の富裕層が、これまで食用していたチリやノルウェーの養殖サケに替わり、安心で安全な道産のサケをワイルドサーモンとして注目するようになったことがあります。
──そのためにも、漁連の役割は非常に大きいですね
武内 全くそのとおりです。特に食の安全性がこれだけ世界的な問題になった現在、グローバルな対応が一層必要になってきます。経済にしても、今や国内だけの問題ではなくなっております。従って、漁連など系統団体が行政と一体となって、情報基盤やインフラを確固たるものとして、漁業者を支援することが必要です。
(以下次号)

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