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豊浜トンネル崩落事故発破作業を振り返って

平成8年2月15日 北砕工業株式会社代表取締役 定久典英

定久典英 さだひさ・のりふさ

昭和25年生まれ、上砂川町出身、砂川南高卒、北海道工業大学、青山学院大中退。
大学時代からアパレル業界の営業に携わってきたが、昭和51年から火薬業界に身をおくことになり、52年に「北砕工業株式会社」を設立、代表取締役に就任。

●発破の経過

平成8年2月10日午前8時10分に起きた豊浜トンネル崩落事故について、経過を整理してみる。
 事故後9時15分に小樽開発建設部より依頼を受け、急遽現地へ赴き打合せに入る。
 北海道開発局小樽開発建設部と元請社兜汳テ組を交え工法検討の結果、重機処理の出来る高さまで発破で破砕することで、午後5時30分頃に決定した。当初私の提出した工程は、穿孔足場の整備に12時間、穿孔・装填に12時間、その他の準備に12時間程度の段取りを要すとの内容だった。

[当初工程計画]

10日18:00〜6:00

機材・火薬・人員(発破・重機・係員)の手配・段取

11日6:00〜18:00 

雪搬入・足場・パイロット設置

11日18:00〜24:00 

発破孔穿孔(8列5段=孔長8〜15m 40孔)

12日0:00〜6:00 

爆薬装填690kg

以上の内容で承諾して頂き、手配の為に帰札の途中で急遽高松本部長に呼戻され、人命救助に関わる大事件なので発破を翌朝に間に合わせて欲しいとの要請があり検討した結果、火薬量の振動値も計算した所、この薬量では岩石に埋もれているバスや乗用車に影響がでることが想定された。
 この結果を踏まえて穿孔作業の準備に入り、被災場所に発破振動の影響を与えない薬量を計算し穿孔作業に入った。一段斎発薬量50kg・総量250kg(別紙振動計算による)に決めた理由である。
 多少の遅れはあったものの、11日午前8時30分に22孔の穿孔を終了装填指示を待った。
 装填指示は12:30、15:00には装填完了、発破指示を待った。(発破時間16:30)
 岩盤が山に持たれかかっていたこともあり、倒すことは不可能との見通しであったが、足元をすくわれた岩盤が滑り込んでくれればとの思惑があったものの、結果は達磨落としとなった。
 この発破は芯抜き発破の応用であり、孔数の多少で発破効果が云々と言うことではないが、発破面の広さが成否の決め手になると考えていた。被災部分への発破振動を考慮すると、破砕面積を広く取れなかったと言うことである。
 発破そのものは失敗ではないが、岩盤そのものを落とせなかったことについては、当初の計画を強引にでも押し進められたらとの思いもある。しかし人命に係わると言われたら当初の薬量は、確かに過多であったし、高松泰本部長(小樽開発建設部小樽道路事務所長)の言われた家族の為に早期着工は理解できるが、私の思惑と違った発破になったことは事実である。

●発破振動の推定

・本発破の薬量を決定するにあたって、発破の振動によるトンネル内の被災者への影響を第一条件と考える。
・崩落内部のバス・乗用車が、発破振動でさらに押し潰されないと想定される薬量を計算の上、斎発薬量を決定した。
・発破の振動が周辺に及ぼす影響は、各界の文献より次の表に示される。

以上のように、発破振動は表中灰色内部の範囲に収まる必要性があると考える。
 発破振動推定式は京大の伊藤教授が提唱しておられる
V=K・W2/3・D-2
がある。このとき各変数は
V=変位速度(cm/sec)
W=斎発薬量(kg)
D=爆源からの距離(m)
K=係数
を示し、これに
爆源からの距離 D=20m
ダイナマイトの係数 K=300
を代入し、振動速度を下表の範囲内の値にするには
V=K・W2/3・D-2
=300×502/3×20-2
=10.179cm/sec
となり、斎発薬量Wは50kgとなる。

●発破作業を振り返って

1回目 2月11日 16:25発破
 予定破砕断面250uを半分に制限した発破になったことは、斎発薬量から割り出した振動計算に基づくものであり、やむを得ない措置であったと思う。
 この工事は、災害復旧ではなく、人命救助としての発破工法の選択であっただけに、安全率を考慮した発破パターンは組めなかったのである。
 通常の岩盤であれば滑落する可能性は、100%を越えていたと思うが、集塊岩の中でも穿孔にすら手間取るような柔らかい岩質からすれば、成功の確率は極めて低いとの思いがあった。火薬の効果はバックブレイクも起こさず、あんこ状態になるであろう予測は充分にたっていたので、装填比率は80%まで上げていたのである(通常当社では60〜70%程度で行っている)。
 最小抵抗線は2m程度とし、裏抜けには充分配慮した。26孔中4孔は探り穴である。発破を一回で滑落させることで重機作業に移行したいとの内容で、ご家族の同意を得ようと対策本部は必死の説得を続けていた為、装薬作業にかかるまでに、穿孔終了後3時間を要した。その間に穴は荒れ、装薬に手間取った。穿孔した部分全てに予定通りの装薬は出来なかったことも事実である。
 発破がかかり、周囲の落胆の溜め息を背に切羽に向かうとき、ご家族の心情と対策本部の期待を裏切った結果に申し訳ない気持ちと、会社の行末がよぎった。

2回目 2月12日 16:00発破

滑落に失敗し対策本部に赴き失敗の経緯を説明、関係者に謝罪する。
 対策本部の対応は迅速で、他の工法案を含め検討の結果3時間後には発破の決定が私に伝えられた。但し現在ご家族の一部は自宅に帰られた様子で、中には連絡の取れない方も居られたとのことで、翌朝全員お集まりいただいた中で同意を得るまで、穿孔等、発破に係わる行為はしないようにとの指示であった。夜間は余市側に新たな作業道路を付ける為、一部コンクリート破砕器を使用し、転石を破砕しながら作業を進めていた。翌朝ご家族を乗せたバスが現場の前を通過する際、「ゆうこ、頑張るんだよー」と言う家族の叫びを聞き、昨日の気持ちを振っきり、この仕事に生命をかけてやろうと思った。今思えばとんでもないことではあるが、スタッフに無理を強制したのは事実である。
 7:00発破作業開始指示があり穿孔開始、一部崩落の危険があり中断したものの12:00穿孔終了。今回は岩体が海側に重心移動したため、Vカットで転倒させようとの思惑であった。しかし装填作業中に山側に重心が移り、この成否も微妙な状態になった。発破がかかり結果予想だにしないものとなった。Vカットの最も大切な山側の2列が縦のクラックに抜け、破砕されていなかったのである。それと同時に古平側から見ると彫刻をしたように魔王の顔が浮きでていた。目に見えない物の挑戦を感じ、とことん付き合ってやろうと心に決め、対策本部に発破の回数は1回にとどめず、継続して許可して欲しいと要望した。この岩盤は全体を破砕するしかないと判断したのである。
 この岩は誰がやっても我々以上の事が出来るものかと、2回目以降は謝罪をしなかった。

3回目 2月13日 12:30発破

夜間パイロット整備をし、早朝3:00より穿孔作業にはいる。10:30には装薬・結線完了発破指示を待つ。すでに一回での成功は予見しておらず、次の発破の準備を進めていた。今回は8mほど達磨落としで岩塊を低くさせ、次回の発破で完工させようとの思惑で連続発破の許可を得ていたのである。発破は2回目同様縦のクラックにエネルギーを吸収され、思惑と違った結果になった。岩塊は縦に落ち痩せ細ってきたが、高さはまだ20m残っている。4回目で終わらない可能性も出てきた。悪いことに余市側の面にオーバーハングを伴ったクラックが残り、余市側作業道は使用できなくなった。

4回目 2月14日 11:00発破

急遽古平側に作業道を設置するための準備に取りかかり、作業中に発破の専門家8名が来現、発破工法の検討をしたいとの呼び出しがあった。作業道成作中でもあり時間にゆとりもあったので会議に赴いた。20:00〜22:30の会議は過去のパターンの検討と4回目のパターンの作成である。発破失敗の報道に対する対策本部の対応の一環と思い、専門家チームの案にて4回目を実施することになったが、内容は我々のパターンとは食い違うものではなかった。専門家チームのまとめたパターンは25孔で薬量350kg装填案、我々は15孔250kg案、専門家チームは発破の成功にのみ焦点を置いていると感じたが、論議している時間が無駄と考え、穿孔スタッフには専門家のパターンにて穿孔するよう伝えた。穿孔途中海側にクラックが発生し、16孔目で中断、再開の許可が下りず4時間ほどが経過、私の一存で穿孔した穴だけで発破をかけることにした。12孔あれば十分との判断があったからである。岩塊はすでに700〜800m3位に痩せ細っていたし、火薬を仕掛ける部分は6〜8mしかなかったのである。結果は達磨落としの思惑通りとなり、残された岩塊は座る場所がなくなったため、斜面を転落し、今回の発破は終了した。

総括

この発破を総括すれば、一回で落とせるパターンが組めなかったことに尽きる。
 しかし人命救助の大前提があった以上、薬量の制限はやむを得ないことである。
 2回目以降の発破は思惑と異なったが、縦に走るヘアクラックはボーリングでもしなければ発見できないほどのものであった。時間との戦いの中でベストに近い作業をこなしたとも思いで長い4日間を振り返った。
 高松前本部長・竹瀬靖久技術管理官(小樽開発建設部)の迅速な英断が、報道により伝えられなかった無念はあるが、見事な仕切りぶりであったと振り返る。
 深夜無理を聞いていただいた寺門商事(火薬出納・運搬)、超法規で協力した戴いた開発局・後志支庁・警察・基準監督署等の関係機関の方々、雪道パイロットを造成する際に放水にご協力いただいた消防署に、心からお礼を申し上げます。


●タイトルページ ●発破第一回目 ●発破第二回目 ●発破第三回目 ●発破第四回目 ●作業経過タイムテーブル ●Contribution Report on the Blasting following the Toyohama Tunnel Collapse

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