滝沢ダムへ

〈建設グラフ2001年6月号〉

特別企画 滝沢ダム -自然災害を土木技術でどこまで減らせるか-


自然の息づかいに耳を傾けながら施工


<撮影・新井靖雄>
付帯工事

 付帯工事としては、ダムサイト右岸側に現県道の一時的迂回を目的とした県道の「迂回道路」(全長6.9km)を昭和48年に着手し、平成7年7月に完成。同時に現県道を切替え一般共用を開始した。
 また左岸では、工事用幹線道路及び現県道の「付替道路」として昭和53年に埼玉県との合併施工により全長8.0kmに着手。このうち、下流側5kmを平成5年から国道140号線「大滝道路」に昇格。ダムサイト直下の大型ループ橋を含め平成10年10月に完成し、一般共用を開始した。残る貯水池上流側への3km分は工事中だ。
 仮設備用道路は、昭和53年から原石山、土捨場等への工事用道路(全長16.6km)に着手し、現在約88%の進捗率となっている。
 平成12年度は、11年度に引き続き本体建設一期工事では、本体基礎掘削(約160万立方メートル)の概成とあわせ、コンクリートの製造・運搬打ち込み諸設備工事の進捗を図り、原石採取一期工事では、表土処理・掘削ベンチの造成と共に原石運搬立坑の掘削・骨材製造運搬関連設備等の進捗を図り、地すべり対策である押え盛土工事、補償工事関係としての付替県道・付替村道工事を進め、13年度は、空き頃にいよいよダム本体コンクリートの打設を開始する。

地すべり対策

 滝沢ダム貯水池周辺には、大規模な滝ノ沢地区(集落跡地)の地すべりをはじめとして多数の地すべり箇所が分布している。そのため、ダム本体や付替道路などの安全確保と貯水池の保全のため、これらの地すべりについて順次、各種の対策工が行われている。
 特に滝ノ沢地区は、その規模が大きいため非水没域に地下水排除工(集水井・集水ボーリング等)を施し、水没域には浸食防止工・各種の抑止工等の施工、検討とともに現在、ダム本体掘削土を利用した大規模な押え盛土工事を実施している。
 また、当地域においては、地すべり対策工事と合わせて周辺環境整備を目的とした植栽工事を実施し、対策工実施以外地の自然環境保全にも努めている。


<撮影・新井靖雄>
環境保全策

 環境保全策としては、滝沢ダムの事業区域が秩父多摩甲斐国立公園内に位置していることから、昭和48年から環境調査を継続的に実施し、環境庁および埼玉県と自然公園法に基づく各種協議を行ってきた。ただ、「建設省所管事業に係る環境影響評価実施要領」(昭和60年4月)および「環境影響評価法」(平成9年6月)については、滝沢ダムはその規模と経過からいずれの対象事業にも該当しないため、その手続きは実施していない。
 しかし、現在ダム事業を進めていく上で、環境保全へのより積極的な取り組みが求められていることから、水資源開発公団としては、平成7年度から本格的に実施した動植物全般にわたる環境調査結果に基づき、ダム本体工事等に伴う環境保全策の検討・実施を行っている。
 保全策の検討に当たっては、学識経験者の指導・助言を得るとともに、当地域の環境NGO等の意見の反映に努めている。
 これまでに行った主な環境保全策は、付替県道区間(3km)の約60%をトンネル化し、骨材原石山の改変面積縮小のため掘削範囲を変更。希少猛禽類であるクマタカの繁殖が確認されたため、道路工事を4ケ月間休止。道路照明には高欄照明またはナトリウム灯を採用し、照度を低下。水没域に群生していた希少シダ植物は移植した。

155ヘクタールが水没、112戸が移転

 このダムの建設によって、建設地の大滝村中津川周辺の155haが水没する。このため地域に暮らしていた112戸(約340人)が平成8年12月をもって、全戸移転した。移転先の内訳は大滝村内8戸、荒川村54戸、秩父市18戸、横瀬町17戸、他市町村15戸となっている。また、大久保移転墓地は52区画分となっている。
 これにともなう補償基準は妥結しているが、地権者間では滝沢ダム地元対策協議会(会長 黒沢徳司)、滝沢ダム対策協議会(会長 木村啓十郎)、滝沢ダム建設地元対策協議会(会長 根津忠吉)、滝沢ダム対策水没者同志会(会長 山中照三)、滝沢ダム水没者協議会(会長 黒沢源次)、滝沢ダム建設同盟会(会長 千島 武)が発足、これらの協議、交渉にあたった。
 公共補償・特殊補償については、秩父漁業協同組合と漁業補償契約を締結、東京電力鰍ニ特別高圧送電線路移設協定を締結、すでに移設を完了。大滝村と公共補償契約を締結、埼玉県と一般県道中津川三峰口停車場線などの付替協定を締結し、現在、工事中。その他、鉱業権3件の契約締結も完了している。
 今後は、一般補償については、水没地及び付替道路(県道,村道)取得等に向け引き続き協議を進め、特殊補償については、支障となる特別高圧送電線路の移設(潟jツチツ・貯水池上流域)及び減電補償(2件)の解決を図り、また、保安林解除などの法手続について関係諸機関と協議を進めている。