建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年8月号〉

トピックス


松原名古屋市長「堤防が極めて危険」でギリギリの攻防戦

破堤の危険を犯しつつさらに大被害を想定して排水ポンプの運転を続けるか



▲新川・新地蔵川 北区大我麻町付近


  これを受けて、名古屋市の松原武久市長が、水害当時の被害状況や、その後の経過などについて報告した。
 それによると、昨年9月11日から12日にかけての台風14号及び秋雨前線による集中豪雨で、名古屋市は、9月11日の午後7時に時間最大雨量97ミリ、そして11日未明から12日にかけての総降水量は、567.7ミリに達した。これは、明治24年に、名古屋地方気象台が観測を開始して以来、最大の豪雨で、年間総雨量の3分の1に相当する。

▲松原武久名古屋市長

市域の4割に被害

 この豪雨により、一級河川新川を始めとする河川の破堤は3箇所、欠壊92箇所、越水7箇所の被害が生じた。また、住宅被害も、全壊4棟、半壊100棟、床上浸水約9,800棟、床下浸水約22,500棟に上った。市域の約4割に至る範囲で、内水・外水による被害が発生したのは、昭和34年の伊勢湾台風以来のことだという。
 この他、市内各所において道路損壊、がけ崩れ、鉄道の不通などが多発し、また人的被害についても、4名が犠牲になったほか、41名の重軽傷者も出た。さらに、浸水した店舗などでは、コンピュータのデータソフトが復旧不能となり、顧客データが消滅するなど、IT化社会ならではの被害も生じた。
 このことから、同市長は「皆様に深く認識していただきたいことがある」と前置きした上で、同市のように地盤の低い市街地では、雨水は排水ポンプにより本川に排水しているが、市内を流れる一・二級河川の庄内川・新川・天白川の整備が遅れているため、計画高水位を何時間も超えている状況があったこと。このために、堤防が極めて危険な状態となり、同市を始めとする周辺市町では、ポンプの運転調整についてギリギリの攻防があったことを明らかにした。


▲新川:西区中小田井 あし原町での
左岸破堤状況(約100m)

究極の選択を迫る

 同市長によると、ポンプを止めて、内水による十数時間にも及ぶ浸水を我慢するのか。それとも、破堤の危険を犯しつつも、さらに大きな被害を想定してポンプの運転を続けるのかをめぐって、究極の選択が迫られたという。
 実際、都市河川の場合、流域の都市化がたえず進行しているため、同程度の降雨に対する洪水量が年々増加していく傾向にある。つまり、都市河川の治水安全性度は都市化とともに低下するという、大都市の宿命がある。
 そのため、同市を始めとする周辺市町は、機会ある毎に、庄内川・新川・天白川の改修や整備の促進を図るよう国に強く要望してきた。ところが、治水対策が進展しなかったことへの地域市町村の恨みは深い。
 とりわけ、庄内川の堤防整備状況は、全国平均に比べて大きく立ち遅れており、10年に1回の確率で起こる洪水に対してすら対応しきれていない。

▲9月12日 新川 ▲9月12日 庄内川


安全で豊かな国土基盤の形成を図り活力ある地域づくりを実現

激特事業が採択

 同市は、災害の復旧、復興のため、国に対して特別な財政支援や施策について要望してきたが、その結果、中小企業復旧のための「激甚災害指定」が閣議決定され、また、庄内川・新川・天白川3河川の、河川激甚災害対策特別緊急事業、いわゆる激特事業が採択された。
 これを受けて、市は、昨年12月に「緊急雨水整備計画」を策定した。内容は、市内13地域において、23万トンの貯留施設の建設、毎秒89トンにおよぶポンプの増強などを概ね5年間で行い、治水整備目標を50ミリから60ミリに向上させるというものだ。
 また、東海豪雨の際には、あまりの大雨で避難勧告などの情報伝達が河川の水位上昇や道路冠水の早さに追いつかず、避難できなかった地域が発生した。しかも、処理すべき情報も膨大だったため、情報収集伝達に多大な時間を要し、迅速な防災対策の実施に支障をきたした。そのため、緊急輸送路や避難路の確保に困難を極め、自衛隊等の派遣要請時期の判断にも支障を与えたことで、救助や復旧活動にも影響がでた。
 これらの教訓から、市は今年から新たに避難準備のための「避難勧告準備情報」を発令する基準を設けた。同時に、IT技術を活用し、河川の水位や状況をリアルタイムで、同時大量に収集できるビジュアル情報手段の整備、過去の浸水実績図や、ハザードマップの作成による市民への防災情報の提供なども行い、災害に強い情報ネットワークを整備することにしている。
 同市長は、国への要望と同時に、市独自の取り組みを紹介しながら、「多くの都市が抱えるこうした治水問題の対策として、河川の改修に加え、土地の保水機能を高めるため、貯留や浸透など、雨水流出抑制施設の設置といったハード整備に併せて、地域の特性を充分考慮した治水計画や、治水安全度の設定、正確で迅速な情報の提供、民間への協力要請といった、ソフト面の対応を絡めた総合的な流域対策を、進めていくことが急務である」と主張した。
 また、治水対策における広域的視点から、「流域における下水道整備の促進、内水ポンプの増強といった内水対策に加え、地下街の排水対策など、新しい課題の対応も求められており、これら全ての施策を実現していくには、巨額の費用と、長い期間が必要となる。したがって、激特事業が完了したから、治水対策はそれで安心というものでは決してない。また、対策が、自治体の区域単位で整合性が図られずに行われたのでは、労多く実少ない結果になるばかりか、逆に危険が増することにもつながりかねない」と警告。
 そのため、「川の上流の地域も、下流の地域も、一体となり、充分なコミュニケーションを図りつつ、流域あるいは水系といった広域的な単位で、計画的に実施すべきだ」と主張。
 そこで、「国・県には地域の連携や、ネットワークの形成にも、強力なりーダーシップを発揮して欲しい」と訴えた。
 最後に、「21世紀においては、市民に計画段階から参画して頂き、ともに尊重し合いながら、対等な立場で協働していくといった、パートナーシップの形成が、河川のみならずまちづくりにおける重要なポイント。この災害で得られた貴重な経験を生かしながら、総合的で、流域における連携の取れた治水対策に最大限の努力を払っていきたい。私としては、今回の教訓を深く胸に刻みながら、市民が安心して安全に募らせる、雨に強いまちづくりを目指すため、全力をあげていく」と結んだ。
 この後、宮崎県北川町の盛武町長による被害報告とその後の経緯が報告された後、安全で豊かな国土基盤の形成を図り、活力ある地域づくりを実現するため、地域の主体性及び創造性を活かし、地域と一体となった治水事業を強力に推進すること。また、治水施設の整備及び水資源開発の強力な推進のため、平成14年度治水関係事業費についてその必要額の確保を図ることが決議されて閉会した。

▲6月25日鹿児島県大浦町 ▲7月8日岩手県野田村 ▲7月16日新潟県玉泉市
▲7月25日青森県青森市 ▲9月12日山梨県敷島町 ▲9月12日愛知県西枇杷島町