建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年9月号〉

清水建設が開発した全国初のコンクリート運搬施設 ―ライジングタワー

イヌワシその他の鷲鷹類保護を目的に高層建築用セルフクライミングタワーを改良

鷹生ダム

絶滅危惧種の天然記念物イヌワシの営巣地が確認
岩手県の県南沿岸部・大船渡市に建設されている鷹生ダムの周辺地域は、五葉山麓が広がり、貴重な動植物が生息する五葉山県立自然公園があり、平成9、10年度の調査では絶滅危惧種として、天然記念物に指定されているイヌワシの生息が確認され、11年には営巣木も確認された。
イヌワシは、体長80〜90cm、翼長が2メートル以上に及ぶタカ科の大型猛禽類で、山岳地に生息する。ヒノキ、ブナ、イタヤカエデなどの枝に営巣するが、伐採などで人の手が入った環境では繁殖をやめてしまうため、現在は個体数が300羽しか生存していない。  建設予定地には、かつて8世帯の農家が居住し営農し、現在は集団移転したが、このため隣接地に生息するイヌワシは人里に慣れている。そのため、非営巣期でも採餌行動のために、ダムサイト上空を飛翔する姿が確認されている。さらに冬期間には、イヌワシだけでなく北限のホンシュウジカの屍を求めてオジロワシ、オオタカなどの他種類の鷲鷹類が飛来し、上空を舞っている状態にある。
このため、4年間にわたって太く長いケーブルを張り、巨大なバケットを高速で運転するなどの建設作業に伴う影響が懸念される。
そこで、県はダムと自然との共生を検討すべく、イヌワシ研究家、県イヌワシ研究会、自然保護団体、県、市、施行会社らが集まり、11年12月に「鷹生ダム自然との共生検討会議」を行った。その結果、ダム建設地は営巣中心域および営巣期高利用域の外にあることから、計画通りに工事を実施しても支障がないことが確認された。
ただ、ダムサイトはあくまでも非営巣期高利用域に近いことは確かで、多数の鷲鷹類が飛来していることから、工事にあたっては、その支障とならないコンクリート運搬設備を導入すべきとの意見が提唱された。
このため、自然景観と鷲鷹類への影響を低減し、かつ性能、安全性、経済性の確保できるコンクリートの運搬設備の開発が課題となった。
鷲鷹類の激突を防げ
そこで、堤体工の施行に当たる清水建設は、平成9年に堤体コンクリートが100万m3を超える大型ダム用のコンクリート運搬設備として、「ライジングタワー」を開発し、(財)ダム技術センターによって、技術審査証明を取得した。
これは、バッチャープラントから出荷されたコンクリートを、極力シンプルにして、短距離で堤体上に引き上げるもので、中高層建築工事で汎用されているセルフクライミングタワーを4本で一組にし、貯水池内の堤体上流側間近に設置。貯水池底からコンクリートバケットを巻き上げてタワー上のホッパーに投入し、ベルトコンベアーで水平運搬する方式だ。
これによって、大規模な地山の切り取りは不要となり、また空中に太く長いケーブルを張る必要もなくなる。堤体工を請け負った清水建設、熊谷組、佐賀組の三社による特定共同企業体は、この工法をアレンジして鷹生ダムに応用することを検討した。
一方、県鷹生ダム建設事務所でも、この工法の導入に向けて、本庁、国土交通省土木研究所、(財)ダム技術センターなどの関係機関と協議を重ねた。
そして、運搬能力については、定格荷重15.5t吊2基の設置、横行設備上に配置する巻上装置の巻き上げ能力の設定と、高標高部で使用する特殊ダンプとの組み合わせで確保することが可能となった。また、地震、強風に対する安全性については、タワーから堤体コンクリートにステーを取ることで確保された。
この改良に伴い、コスト面での比較検討も行われたが、改良前とは同等であることが確認された。
かくして、環境保護、打設性能、経済性、安全性など、あらゆる面において優れた、全国でも初めての主要運搬設備として、ライジングタワーが導入されることになった。

●鷹生ダム本体工事/清水建設(株)・(株)熊谷組・(株)佐賀組特定共同企業体

東北支店/仙台市青葉区木町通1-4-7
TEL.022-267-9111

東北支店/仙台市青葉区立町26-20
TEL.022-262-2811
株式会社佐賀組
本社/岩手県大船渡市盛町字田中島27-1
TEL.0192-27-7331

【インタビュー】

コンクリートの原材料はすべて地場調達:鷹生ダム建設監 小松 勝治氏
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