建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年9月号〉

interview

コンクリートの原材料はすべて地場調達

主要建設発生材は100パーセントリサイクル

岩手県大船渡地方振興局土木部
鷹生ダム建設事務所


鷹生ダム建設監 小松 勝治
鷹生ダム(岩手県大船渡市)は、県立自然公園に隣接し、絶滅危機種のイヌワシの営巣地に近いことから、それを保護するためライジングタワーが開発導入されたことが大きな特色だが、特筆すべき点はそれだけではない。堤体に使用するコンクリートは、資源がすべて現地で調達されており、しかも使用された主要な資材は100パーセントをリサイクルしている点も、注目に値する。自然環境に対する県側の気遣いは相当なもので、そのために現場ではあらゆる工夫を施している。
――このダムの概要は
小松
事業目的は3つあります。ひとつは、ダム地点で300tの洪水調整を行うことです。河口では、160tの洪水調整を行うことになります。もうひとつは河川環境の整備で、水の安定供給のために、一定流量を提供していきます。そうして河川が荒れないように、水生動物を守ったり、あるいは農業用水としての供給も考えています。もちろん、地元大船渡市の水道用水にも用いられます。
ダム本体は、重量式コンクリートダムで、高さが77m。堤頂長は309m、堤体積は319,000m3となります。集水面積は17km3であまり大きくはありませんが、総貯水量は9,680,000t、そのうちの有効貯水容量は9,000,000tという規模になります。
――昭和60年の実施計画調査からはじまって、ダム本体が平成10年、コンクリートの打設が平成13年ですから、工事は今が最盛期では
小松
そうです。16年の堤体完成に向けて、ダム本体の進捗率は77%です。高さは3分の2の、66%までが進んでいるので、今が最盛期だと思います。
――建設現場の特徴は
小松
ダム工事現場の付近にイヌワシが生息しており、冬期間は営巣期、抱卵期にあたります。その時期に作業を進めますと、影響を与えることが懸念されるので、検討委員会の指導を受けて、その時期はコンクリートの打設を中止することにしています。また、原石山の発破ですが、この音の影響が大きいのです。そのため、原石山の作業も中止しています。
  また、冬には気温がかなり下がるので、そういう時期には打設しない方がコンクリートの状態が良いので、これらの理由から冬場の作業は中断しています。
――イヌワシに対して、繊細に配慮をしているわけですね
小松
そうです。近隣に五葉山県立自然公園があり、堤体本体部は関係ないのですが、湛水区域の左岸に一部入っています。現状を保護する努力が必要な地域です。
そのため、打設、コンクリート運搬の方法も変わってきました。従来はケーブルクレーンを使用する計画でしたが、その方法では両側のダムの上にコンクリートの大きな基礎を造り、ロープを張るのですが、その影響で20,000m3ほどの土砂の開削が発生します。自然公園の側に、そうした大きな傷跡をつくるのは、考えものです。また、ワイヤーロープがイヌワシの飛翔に影響することも想定されます。
そこで、施工の企業体が、全国に例のないライジングタワーというものを開発し、それによってコンクリート運搬をしているのが、このダムの大きな特徴になっています。
また、骨材製造の施設も、かなりの騒音を発するので、ウレタンの遮音材で囲っています。色も全てを緑に統一するなど、様々な工夫を施しています。
――いろいろと珍しい作業が行われているようですね
小松
コンクリートの冬期の養生のために、断熱パネルをコンクリートの本体に張っていたりもします。例えば、コンクリートを打つと、温度が上がりますよね。冬期間になると、現場はかなり寒くなりますから、温度差があまりに大きくなると、コンクリートに障害を及ぼすので、断熱パネルをコンクリートの堤体に張って保温しているのです。
――資材は地元産を地場調達していると聞きましたが
小松
意図的にそうしているのではありません。ダムの所在地は日頃市町で、セメントの原材料となる石灰石を日頃市町内の山から採集しています。また、コンクリートの骨材そのものはダムの原石山から確保しています。水も近くの沢から得ています。コンクリートはセメントと骨材と水からできますので、この3資源が、日頃市で得られるので、このダムは地場資源で製作されているということになります。
思わぬところで地域貢献が出来ていると思います。
――近年は、建設資材のリサイクルも定着しています
小松
私たちもリサイクルには気を遣っていますが、堤体を洗浄した水が下流に流れていきます。もちろんセメントの材料が主ですから、アルカリ性が高くなるので中和し、基準以下に落とします。後には、砂や泥がかなり残るので、セメントメーカーに再度、セメント材料として使ってもらっています。
骨材は大きいものから砕いていきますが、粉状に細かくなったものを砂として使用したり、最後に残った泥状のものについても、全てを盛土材として使用しています。
――ダムの建設となると、とかく注目が集まり、関心がもたれるので、気を遣うことが多いのでは
小松
お陰で、地域とも良好な関係が築け、私たちも14年まで、県振興局としての単独費を用いて、地域には独自の建造物や文化、人、景観など、良いものがたくさんあるので、日頃市そのものを博物館に見立てて宝探しを行う事業や、地域に残っている行事、それにまつわる料理を実際につくって、それをレシピとして残すといった活動に参画しています。そうした点で、地権者会のみなさんともダム対策協議会のみなさんとも良い関係ができています。
――鷹生ダムの建設がきっかけで日頃市に埋もれている財産を再発見する機会になったのですね
小松
こちらからも、一緒にやろうと働きかけて、地域の人達も一緒にやろうと賛同し、主婦の方々から児童までが一緒に集まって作業しています。そうした地域のために、将来にわたって人々に役立つダムになればと思っています。

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